アメリカか死か/05/03 Following in His Footsteps-3
「おぉ、ご苦労さん」
「お、ちゃんと取ってきたね。偉い偉い」とLynnの荷物を見てMoiraはにこやかに笑った。「あ、でも使えないやつだったらもう一回取りに行ってもらうからね」
(これは………)
自分は割りに合わないことをやっているのではなかろうか。
Raiderの襲撃には合わなかったものの、その危険性がある場所をうろつくというだけで寿命が縮む思いだ。変身さえできれば多少の銃撃などはものともしないはずだが、いつ何時変身できなくなる可能性があるかわからないのが恐ろしい。生身ではとてもではないが、戦えない。
はらはらしながら収穫品の検品を見守る。
「まぁ、いけそうかな、うん」
やがてMoiraがそう言ったので、Lynnはほっとした。
「後は……」とMoiraが言うので厭な予感。「修理するバイク起こすのだけ手伝って。スタンド立てるから」
ほっとした。最近警戒心だけがやたらと高くなった。それもこれもMegatonのおかげだ。
Megatonの前にあるゴミ捨て場にバイクは打ち捨てられていた。
バイクを起こす。取れてしまったのか、それとも最初からついていない機種なのかはわからないが、センタースタンドはついていなかった。サイドスタンドもほとんど朽ち果ててしまっている。Lynnがバイクを支えているうちにMoiraが持ってきていた固定台を置く。
「なにやってんだ、Lynn」
声をかけるものがいたので振り返る。ゴーグルと作業着の色の黒い男、Awfulへの道中で出会ったLucky Harithだった。牛や護衛も連れているようなので、Megatonまで行商に来たのだろう。
「いや……」Lynnは息を切らして答える。「手伝いで」
「Moiraの?」とHarithはバイクの傍に寝転んで作業をするMoiraを見やる。彼女の表情は真剣そのもので、Harithに気付いた様子もない。「あんた、Jamesって人には会えたのかい?」
「いや、まだなんです」
LynnはHarithに大まかな事情を説明した。
「なるほど」とHarithは手を叩いて笑った。「それでMoiraに騙されて、こんなことやっているってわけだ」
「騙してなんかない」Moiraが起き上がって話に割り込む。「えーと、なんだっけ」
「Harithだ」
「そう、それ」とMoiraはHarithを指差す。「ちゃんと直ったらバイクは彼にあげるんだから」
「直るわけがないだろう。戦前の車やバイクは全部核エンジンだ。燃料がないだろう」
「核エンジンは取り外す。200年前の技術じゃなくて、その少し前の……、250年くらい前の技術を使う。ガソリンエンジンを取り付ける」
「ガソリンエンジン?」
「気化したガソリンを爆発させて、ピストンを動かす。その爆発を連鎖させてタイヤを直接回す」
「タービンを回して電気に変えるんじゃなくて?」
「モーターじゃあ効率が悪すぎる。爆発力を直接使うから、ガソリンエンジンのほうが効率が良い。内燃機関を舐めちゃいかんね」
Moiraは言い終えるとさっさと作業に戻ってしまった。Harithにガソリンエンジンの細かい原理を説明しようとしたり、理解してもらおうと努めるなんてことはしなかった。
「これだ」とHarithは肩を竦める。「Lynn、Moiraは頓狂なことをするからな。適当なところで見切りをつけたほうが良い。ガソリンエンジンのバイクなんてな」
「いや……、ありましたよ」とLynnは躊躇しつつも言った。「ガソリンで動くバイク」
「なに?」とHarithは目を大きくする。「あ、そうか、あんたVaultの人間なんだっけな……。そうか、200年前の、昔の本とかもあったのかな、あんたのVaultには。ううむ、いろいろと掘り出し物もありそうだな。あんたは自分が出てきたVaultの場所を知らないんだっけ。残念だ」
LynnはHarithの言葉の後半をほとんど聴いていなかった。
(200年前?)
そうだ、何度も聞いたではないか。核戦争が起こったのは200年も前の話だ。
だがLynnにはVaultに入ったときの記憶がある。核戦争を恐れたこと、母と妹とともにVaultへ入植したこと、Vault入植以前にガソリンエンジンのバイクを見たこともある。
だが200年間ずっと生きていられたわけではないだろう。LynnはVaultで冷凍睡眠させられていたのかもしれない。200年の間、ずっと。そう考えれば彼を起こしたときのJamesの言葉も説明がつくというものだ。起こしてしまった、と彼は言ったのだから。
そう考えると、湧き上がるもうひとつの疑問がある。
妹と母親は、未だVaultで眠っているということだろうか。
Lynnを待っているのだろうか。
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