かくもあらねば/11/02


Jacobstownへようこそ、人間よ。少々変わった町だとは思うが、自由に歩いてくれて構わないよ。Nightkinたちをじろじろ見ないでくれさえすればね……、彼らはちょっと恥ずかしがり屋で、人間に見られるのが苦手なんだ」
Siたちを迎え入れたSuper Muntantの声は驚くほどジェントルで、Sumikaは驚いた。顔さえ見なければ魅了されそうになる声だった。
素敵な声のSuper Mutantはウィンクする。「わたしの名はMarcus。ここの……、まぁ、代表者みたいなものかな」

(Marcusって、やっぱり………)
Black Mountainで出会ったSuper Mutant、Neilが言っていた名だ。

「あんたがMarcusか」とSiが物怖じもせずに言う。
「わたしのことを知っているとは、珍しい人間だな」Marcusは破顔する。「こういうタイプの人間は久しぶりだ。どこでわたしの名を聞いたんだ?」
「Black Mountainで、Neilが言ってたよ」
「なるほど、きみがSiか。Black MountainではNeilの手助けをしてくれたらしいね。助かった。わたしからも礼を言わせて貰う。もてなさなくてはな。昼はBighornerを3頭ほど捌いてバーベキューにでもしようじゃないか」

●Bighorner
核戦争後に発生した突然変異種のひとつ。見かけは巨大な山羊に近い。
育児中を除けば非常に温厚で、病気にもかかりにくいため、繁殖させやすい家畜である。肉は美味であり、毛皮はさまざまな用途に用いられる。

「いや……、用件があるんで」
「じゃあ用件が終わった後だな。たれは塩と和風おろしと中華風、どれが良い? わたしのお勧めは和風だな。日本という国はなかなかどうして変わった国だが、少なくとも食に関しては認めざるを得ないな」
ぼくは中華だれのほうが良いな」とArcadeが発現する。「和風だ? 日本料理で美味いのは魚だけだろう。肉や他の分野ならやっぱり中華料理に限る。本格的な中華料理は一度だけ食べたことがあるが、繊細で重厚な味わいは他にはないよ」
「それは狭い考えだな、客人よ」Marcusが大袈裟な仕草で首を振る。「日本は調味料の国なのだ。寿司や刺身が美味いのとて、万能調味料である醤油と日本の合法麻薬である山葵が秘められたパワーによって食材の味を完全に引き出しているからだ。ただ魚を生で食うだけならああも美味くはいかない。何か調味料が欲しいときは日本製に限ると断言できる」
「残念ながらぼくは研究者でね。何事も自分の身で試してみないことには信じられない」
「なるほど、楽しみにしているが良い」
「ねぇねぇ、わたし、中華料理も日本料理も食べたことないから、どっちのソースも欲しいな。Marcusに頼んでおいて」
Sumikaもこれを機に頼んでおくことにした。Siは食事に関していいかげんなので、彼に任せてはおけない。

ところで、研究者だと言っていたが……」とMarcusがArcadeを見やって言う。「もしかしてHenry先生の客人かな?」
「そうだ」となぜかほっとした表情でSiが言う。「どこにいる?」
「奥に見えるロッジの中にいるよ」
「そうか。ありがとう」
そう言ってJacobstownに入ろうとするSiをMarcusは引き止めた。「ちょっと待ってくれ」
「なんだ? 武器のチェックでもしないと入れないのか? 銃は持っているが……」Siは苛々とホルスターを見せる。
「いや、飲み物はビールとワインとコーラ、どれが良い?


ようやくMarcusから開放されて、Siは一息吐いた。人間を攻撃しないSuper Mutantというのは何例か前例があったが、あそこまで友好的なのは珍しい。正直言って、Black Mountainでの騒動のときよりも疲れた。

まだMarcusと昼食について話し続けようとするArcadeは放っておき、とりあえずRexをロッジへと連れて行こうとしたその道中、Jacobstownに入って二十歩も歩かないうちにSiは声をかけられた。
Jimmy? Jimmyなの?」


はじめはSiに向かって言っているのだと気付かなかったが、その圧し掛かるような重苦しい声はどんどん近づいてきた。
「Si……」
不安そうなSumikaの声と、日を翳らせるほどの大きな影に、Siは振り返った。そこに立っていたのはサングラスをして帽子を被った奇妙なNightkinだった。

「あぁ、こんなに大きくなって……、おばあちゃん吃驚したわ。でも嬉しい。来てくれてありがとうね、Jimmy!」
抱きつかれそうになったが、咄嗟にかわす。Nightkinの筋力で締め上げたら、たとえPower Armorを着ていたとしても無事ではすまない。
「もうっ、Jimmyってば、どうして避けるの? まさかおばあちゃんの顔を忘れたの? おばあちゃんによく顔を見せてちょうだい」
「おれはJimmyじゃない」
嫌悪感を堪えつつ、Siは応じた。Super MutantやNightkinだらけの村で問題は起こせないが、いつもなら既に銃を抜いていてもおかしくはなかった。
「Jimmyったら、変なこと言わないでよ」とそのNightkinはSiの肩を叩いた。今度はかわせなかった。強い衝撃を感じる。「あぁ、そういえば今日はお薬飲んでいなかったわ。忘れないうちに飲まなくちゃ」
そう言うとそのNightkinはさっさと去っていってしまった。

「Jacobstownには人の話聞かないやつしかいないのか」
「う、うーん………」Sumikaは否定しなかった。

ロッジに入ってSuper Mutantたちの罵りの声が聞こえてきたとき、Siは心底ほっとしたのだった。



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