アメリカか死か/09/01 Tranquility Lane-1
Tranquility Lane
すべてのものは亡びる
すべてのものは亡びる
すべてのものは亡びる
大地と山々のほかは
(「白かもしかの歌える死の歌」ホワイト・アンテロープの時世の句 『アメリカ・インディアンの詩』 より)
Lynn
Lv. 7
S/P/E/C/I/A/L=8/3/10/5/4/8/2
Tag: Melee Weapon, Science, Unarmed
Skill:
[S] M.Weapon=51
[P] E.Weapon=10, Explosives=25, Lockpick=25
[E] B.Guns=21 ,Unarmed=55
[C] Barter=16, Speech=16
[I] Medicine=23, Repair=21, Science=51
[A] S.Guns=25, Sneak=25
Perk:
[S] Iron Fist
[E] Toughness
[Others] Lawbringer, Charge!, Lady Killer, Tackle, Track Star
Equipment: Wattz 1000 Laser Pistol, Wattz 2000 Laser Rifle, Merc Charmer Outfit, Biker Goggles
Rad: 122
*
アスファルトで塗り固められた黒々とした道路。
Lynnの視界に入ったのは、まずそれだった。
人間の技術は、現在から考えて、対数の底に10を取った年に対して、ある一定間隔をもって技術革新しているのだということを聞いたことがある。最初が石の時代、次が鉄の時代、そしてLynnの生きるこの時代は、石油の時代だ、と。
石油の時代を象徴するひとつが、黒い舗装道路だ。アスファルトは分留した石油のうち、もっとも比重の重いものであるということをLynnは知っている。
いったいどうして、こんなところに迷い込んだのか。Lynnは落ち着いて考え直してみることにした。
Evergreen MillsでRaiderとSuper Mutant Behemothを殺害し、捕らえられていた奴隷を解放した後、Lynnはそのすぐ西の地で古ぼけたガレージを発見した。中に入ってみると、スイッチで隠された地下への階段があった。その階段を下りていくと、Vaultの扉があったのだ。
Vaultの扉は開いたままだった。核シェルターとして機能しているVaultの扉が、そうそう開きっぱなしになるとは思えない。Lynnが来る少し前に、誰かが扉を開けたのだろう。おそらく、Ritaだ。
Vaultの通路を進んでいくと、頭に脳らしきものを乗せた、奇妙なロボットがいた。
「Vault112へようこそ」とロボットは罅割れた電子音で声を発した。「202.3年ほど入居が遅れたようですが、これからすぐにご入居ということでよろしいでしょうか? よろしければ、手続きの前にこのVaultスーツにお着替えください。もしサイズが合わないようでしたら、すぐにお申し付けください。すぐに新しいものを配布いたします。お着替えが終わりましたら、階段を下りてメインルームまでお越しください。そこで空いているTranquility Loungerをご利用ください」
言うだけ言うと、ロボットはVaultのJumpsuitを渡して去っていってしまった。
ロボット自体に害はなさそうだったので、とりあえずLynnは言うとおりに着替えて階段を下りた。廊下を進んで扉をくぐると、そこには奇妙な機械が並ぶ広間があった。
中央の柱状に伸びる機械から、ケーブルがいくつも伸びている。そのケーブルは卵状の物体に接続されていた。卵の中は暗くてよく見えないが、どうやらモニタがあり、人がひとり入れる程度の空間が広がっているようだ。
ロボットは、手続きをせよと言っていた。おそらくこの機械でその手続きができるのだろう。そう判断したLynnは、空いている卵機械のシートに座り、モニタを起動させた。開いていた卵機械の殻が閉じ、モニタが起動した。そして。
そして、どうなった?
そのまま寝てしまったのか? そしてこの場所まで運ばれたのか?
否、そうではない。
罅割れていない道路、清潔な服を着る人々、破損していない家屋、そして青々と繁る木々。まるで戦前の風景だ。
(いや………)
実際に戦争前の、核で一変する前の世界を知っているLynnには、これが戦争前のアメリカとは明らかに違うということがわかった。人々の服装は、Lynnの生きていた時代よりもいささか古臭い格好であり、道路の端に立っている公共用情報端末は電話機能しかない単純なもののようである。少女がひとりで遊んでいる公園の遊具は、安全対策基準を上回っているとは到底見えないものだらけだ。
これはおそらく、仮想空間だ。しかもLynnの生きていた時代よりも、おそらく100年かそこら前の時代の。
だが技術そのものは300年前のそれではない。Lynnは腕を持ち上げてみる。左腕にPip-Boyはなく、代わりに腕時計が巻きついていた。その腕はあまりにも細く、いつものLynnの腕ではなかった。
両手、腹、腰、足を見る。すべてが様変わりしていた。子どもになってしまっている。これもこの場所が仮想空間であると証明するもののひとつだ。おそらくあの卵型の機械が、この仮想空間を見せているのだ。
機械の外で待たせているDogmeatは大丈夫だろうか。何日もここでこうしていたら、腹を空かせるだろう。さっさとこの空間から出なければいけないと思うが、スイッチがどこかにあるわけではなく、どうすればこの仮想空間から脱出できるのかがわからない。
Lynnは溜め息を吐いて、いつの間にか腰掛けていたベンチから立ち上がった。とにかく行動しなければ、何も進まない。あるいは何処かにRitaやJamesがいるかもしれない。
すると公園で遊んでいた少女が、Lynnに向けて手を振ってきた。当てもないので、とりあえず彼女のところへ近づく。
少女の傍には犬がいた。犬はLynnが近づくと唸ったが、やがて離れていってしまった。
「あなた、だれ?」と少女はLynnが近づいてくると、駆け寄ってきて言った。「新しい子? だったら、遊ぼう。わたし、ちょうど退屈してたところだったの」
「えっと……」少女の矢継ぎ早な言葉に動揺したLynnだったが、とりあえず尋ねてみることにした。「ここはどこかな?」
「Tranquility Laneに決まってるでしょ。わたしたちみんなが住んでるところだよ。そんなことより、遊ぼうよ」
「ごめん、遊んでいる暇はないんだ。ちょっと人を探してて」
「わたしが遊ぶって言ったら、遊ぶの。絶対。誰も逆らえないんだから」
Lynnがしぶしぶ了承すると、少女は「そう言ってくれると思った」と言い、Bettyという名前なのだと名乗った。「簡単なゲームだよ」
そう言ってBettyは『Timmy Neusbaum泣かせゲーム』を提案した。
「あの、Timmy Neusbaumって?」
「あなた以外で、この街の唯一の子どものこと。あの泣き虫の、Timmy。何しても良いから、あれを泣かせれば良いの。簡単なルールでしょ?」
Timmyというのがどういった少年なのかは知らないが、誰であろうと子どもを泣かせようというのは気が進まない。他人を虐めて喜ぶというBettyの態度は感心しない。
Lynnがそう言うと、Bettyは口を尖らせて「なにそれ、つまんない」と言った。
「いや、だからね……」
「そういうこと言ってもいいの? あなたの疑問に答えてあげられるのは、わたしだけだよ。他の人たちは、あなたの疑問に答えられない。ずっと何もわからないままでいいの? もしわたしと一緒に遊んでいるのなら、質問にひとつ答えてあげるけど」
Bettyの物言いは、口調は子どものそれであるが、やけに大人びていて、不思議と彼女の言うことが真実だと思わせるだけの力強さがあった。
『Timmy Neusbaum泣かせゲーム』に付き合おうと思ったわけではないが、LynnはBettyの元を去った。彼女が言うことが本当なのか、他の人間に話を聞いてみようとしたのだ。
結果は彼女の言うとおりだった。大人たちは、どこか不自然で、この世界が仮想空間であるとは感じてないようだった。
気は進まないが、『Timmy Neusbaum泣かせゲーム』を開始するしかなさそうだ。
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