かくもあらねば/12/01
They Went That-A-Way
イワンのばか
1
「なんだおまえは……」バンダナを巻いたモヒカン頭の男が、サブマシンガンを構えて後ずさる。「NCRか!?」
モヒカン男、おそらく彼がJessupというリーダーだろう、がサブマシンガンを持っており、彼の脇にもそれぞれ手下らしい男が銃を構えている。
(銃が3………。絶対逃げられないなぁ)
Kutoは両手を挙げたまま、くすっと笑った。以前のように拳銃で狙われているのとは違う。サブマシンガンで狙われたら、弾が尽きるまで隠れているなんてできないし、Good Springでのように誰かが助けてくれるなんていうのも期待できない。
「こんにちは。ちょっとお話、しませんか?」
NovacにてGreat Khanが向かったという情報を得た場所、Bounder CityはNCRによってものものしい警戒体制が敷かれていた。元NCR、しかも1st Reconという権限はそれほどないものの、地位の高い地位にいたBooneがいなければ、いまBounder Cityがどういった状況にあるのかを聞き出すことさえ難しかったかもしれない。
この警備網を敷いている現在の責任者、Monroe大尉は、彼の部隊の隊員がNovacからの帰還途中にGreat Khanと交戦し、ふたりの兵士、Ackerman二等兵とGilbert二等兵が捕虜として捕らえられたことを説明してくれた。
捕虜は出たものの、まだ死者は出ていないため、Monroe大尉としては死者を出さずにこの場を収めたいらしい。
「こういうときこそ、Booneさんの狙撃の出番ですね」
Kutoはそう言ってBooneの肩に胸を寄せたが、彼の反応は首を振るだけだった。
「Great Khanの数は10人を越えます……」KutoがBooneの知り合いだからなのか、Monroe大尉は遠慮がちに言った。「ひとりを狙撃できても、すぐに捕虜が殺されます。一度に全員の戦闘能力を奪うのはどうやっても不可能ですし、敵のリーダーは建物の中にいます。狙撃は、無理です」
「そうなんですか……、困りましたね」
「こいつに行かせる」
Booneがそう言ってKutoの背を押したので、吃驚した。
「NCRの人間じゃないし、女だ。屈強でもない。警戒されん。交渉できる」
「あの、Booneさん、わたし……、そういうのはちょっと」
「相手は怯えている。問題ない」
「いや……、あの、か弱い女の子をひとりで行かせるというのはいかがなものかと」
「大丈夫だ。おまえは強い」
「この繊細な乙女の手を見て、それを言いますか」
「肉体の話じゃない。心だ」
「心が清いという話ですか」
「清くはないが、強い」
「Booneどの、さっきから訊きたかったのですが……」Monroe大尉はKutoを一瞥する。「この女性は?」
「旅人だ。だが口は回るし、信用できる」
Booneがそんなふうに褒めてくれるなどとは想像していなかったため、Kutoの心は動かされた。
(どうせPlatinum Chipについてはひとりで訊きたかったし………)
Kutoは承諾した。
「よろしくおねがいします……。敵のリーダーは、Jessupという男です」Lieutenant大尉はKutoの手を握る。
KutoはBooneの耳元に口を寄せる。「いざというときは、守ってくださいね」
「銃声が聞こえたら、すぐに駆けつけます」Booneの代わりに答えたのはLeutenant大尉だった。「ですが、何かあったらでは遅いです。危なくなったら、すぐに逃げてください」
そして、KutoはED-EもBooneに預け、Great Khanの立て篭もる家屋にやってきたのだ。
「いや、NCRじゃないですよ。ほらほら」Kutoは持ち上げた両手を空で振った。おそらく傍目で見ると、かなり間抜けな行動だ。「武器なんて持ってないでしょ?」
「交渉人か……? だったら伝えろ!」Jessupは怯えた口調で言う。「NCRは全員下がれ! そうしたら人質は誰も傷つけない」
「ほんとですか?」
こちらから交渉すべき内容を相手の口から出されたので、Kutoは拍子抜けした。もちろんNCRとしてはGerat Khanが武器を捨てて降参してくれるのがいちばんだろうがGreat Khanのこの場での自由を約束する代わりに人質を解放してもらうというのは、妥協案として悪くないもののはずだ。もっといろいろと条件を突きつけられるものと思っていた。
「おれは銃撃戦はごめんだ。もしRed Rockに帰るまでに撃たれたら、そうも言っていられないだろうけどな……。どうなんだ!?」
「オッケィですよ。NCRの人たちに、そう伝えます」
「よし……」Jessupはほっとした顔になった。「頼むぞ」
「それで、ひとつお訊きしたいことがあるんですが………」Kutoはそろそろ疲れてきた両手を挙げたまま尋ねた。「Platinum Chipは?」
Jessupの表情が急に変わった。
怒りではない。彼の表した感情は、紛れもなく恐怖そのものだった。
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