かくもあらねば/12/02


Jessupはサブマシンガンを構える。周りの手下も。
Kutoは動かなかった。どうせ逃げられないし、以前とは違い、まだ交渉の余地はある。
「あんた、Bennyの手下か?

(Benny………?)

Jessupの口から出た聞き慣れぬ名前に対して、Kutoは正直に首を振って回答した。

しばらく待っていると、予想通り、彼らは銃を降ろしてくれた。
「持ってねぇ」Jessupは力なく首を振る。「Bennyの野郎だ……。あいつが盗んでいった。たぶん、今頃はStripだろう。あいつ、おれたちを裏切ってPlatinum Chipを奪うとき、笑ってやがった………」
Jessupは震える。よほどそのBennyという人物を恐れていたらしい。
「そのBennyさんって、どういう方なんですか?」
New Vegas最大のカジノのひとつ……、Topsの社長のひとりだ。おれのダチが、良い仕事があるって言って、あいつとの仕事を持ってきた。金に目が眩んだのが間違いだった……」

(やっぱりStripかぁ………)

「Platinum Chipっていうのは?」
「あんた、知らんのか?」
Kutoは首を振ってみせる。「すごい物だってのは、なんとなくわかりますけど」
「おれが知ってんのもそれだけだ。でかい、変わった、ポーカー用のチップだ」JessupはKutoの目を見、「本当だ。それしか知らん。誰がどんな目的で、あんな白金製のチップを作ったのかも、皆目検討がつかん」

(うーん………)
Jessupが嘘を吐いているようには見えない。が、今のところあまりたいした情報は入ってきていない。

「あなたはBennyに裏切られたんですか?」
「あいつは……、だ」Jessupは怯えた表情を見せた。「たぶん、おれたちに金を払うのが惜しくなったんだろうさ。それだけの理由で、おれたちを陥れたんだ」
「裏切られたっていうのは、Jimさんを殺した後の話ですか?」
Jessupは驚愕の表情になった。「あんた、知ってるのか?」
「あなたがたが彼を殺す、二、三日前に、彼と一緒にいたもので」
殺すなんて……、思ってなかった」Jessupの目にはまだ怯えが光っていた。「捕まえて、話を訊くだけだってBennyは言ってて……、それで」
「なるほど」
嘘だと思っているんだろう?」
「いえ、あなた、人殺すほど度胸がある人には見えませんし」Kutoは正直に答えた。

言ってから、こんなことを言ったら何かされるかもしれないと思ったが、Jessupは溜め息を吐いてから、Kutoに何かを投げて寄越した。Kutoはキャッチできずに取り落とす。
「投げないでください」
文句を言いつつ、拾い上げる。それは黄金長方形の形をした銀色のライターだった。
「Bennyのライターだ」とJessup。「やる。だがもしあいつに会っても、おれが渡したなんて言ってくれるなよ?」
「ありがとうございます」Kutoは笑いかけた。「けっこう優しいんですね」

開放された捕虜ふたりとともにNCRの簡易駐屯地に戻ると、BooneとED-Eが出迎えてくれた。しかしMonroe大尉の姿はなかった。
Booneに言われて奥のテントに入ると、そこにむっつりとした表情のMonroe大尉がいた。

「そうですか……、ありがとうございます」
Kutoの報告を聞いた彼の表情は、なぜか暗い。
その理由を問い質すと、Monoroe大尉は言いにくそうにしていたが、やがて口を開いた。
「実は、本部から連絡が来たんです。捕虜の処遇に依らず、ただちにGreat Khansへの攻撃に移れとの指令なんです」
「Great Khanの人たちに、捕虜を解放してもらう代わりに自由にするって言っちゃいましたよ」

そんなことだろうと思っていたKutoだったが、いちおうGreat Khanへの義理を果たすために言った。NCRへは捕虜を解放することで義理を既に売ったが、Great Khanへの義理はまだ契約段階で、実際に売る段階までは達していないのだ。このWastelandで、派閥集団と敵対するのは避けたい

「その通りです。だがもう捕虜は解放された……」苦い表情でMonoroe大尉は言う。「もしその通りに行動すれば、命令に背くことになる………
「でも命令だからって、はいはい言うことを聞くのも格好悪いですよね」

特に何も考えずにKutoは言った一言だったが、Monoroe大尉は態度を急変させた。

「確かにあなたの言うとおりです。目が覚めました。Great Khanは自由にしてやります」

「あの人、大丈夫なんでしょうか」
NCRの簡易キャンプから離れてから、KutoはBoone対して訊いてみた。NCRのような軍隊では、上官からの命令は絶対のはずだ。
「軍には命令に逆らうやつはいらん
「やばいですか?」
「軍には拠り所がなくなるだろう。だが……」Booneがサングラスの横から、Kutoを一瞥する。「そうなっても道はある」

Booneの言葉は、Kutoがその道標であると言ってくれているような気がした。期待を寄せてくれているようで、嬉しい。
次なる目的地はBennyという男がいる場所、New VegasのStripだ。
「そういえばBooneさん。あのMonroe大尉さん、Booneさんに敬語使ってましたけど……」Kutoはふと思いついて言う。「前に上官だったとか、そういう知り合いなんですか?」
「単なる知り合いだ。そういうわけじゃない。あれは彼の性格だろう。それにあっちのほうが年上だ。おれは26
「え?」

Kutoのほうが年上だとは思わなかった。
てっきり彼は30は越えていると思っていた。

(いやまぁ……、3つくらいなら問題ないよね………)

気を取り直して歩を進ませかけたKutoの目に、地平線の向こうから近づいてくるある物体が目に入った。
どこか見覚えのある形状の物体は、Kutoの目の前で止まった。
「久しぶりだなぁ、ねえちゃん!」

Kutoの身体は恐怖で凍りついた。

「まさかこんなところで会うなんてな」





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