かくもあらねば/16/02
2
3人。
Sumikaがそう言った。だから間違いない。傍らの男のスナイパーライフルの銃口は、前方のふたりに向いていた。否、既にひとりは撃ち倒している。もうひとりもすぐだ。前方に気を配る心配はない。
Siは背後を振り向きファニング、銃口を引き絞る。リピーター銃を構えていたLegionの兵士の頭に銃弾が突き刺さった。
「囲まれていたみたいだな」
Siは新たな支給品であるハンティング・リヴォルバーをホルスターに戻し、これまた支給品である防弾マスクを外した。Rangerが頭に包帯を巻いたままうろついていると士気が落ちるから、ということで着装を促されたものだ。
「これで全員か」
まだ警戒を解かないまま応じたのは、現在Siたちの作戦に同行しているBooneという男だ。元1st Recon、数日前までKutoとともに行動をしていたという男だった。
Novacにいた彼から、Kutoに関する幾つかの話を聞いた。何かを、おそらくPlatinum Chipを追ってNovacまでやってきたということ、Bounder CityでGreat Khanらと遭遇したこと、New VegasではLucky 38へ入る許可を持っていたこと、運び屋としてCottonwood Caveへと向かおうとしており、途中で別れたこと。
「Legionに協力しようとしていたのかもしれん」
Booneはそう言った。まさか、とSiは言った。まさか、Legionに属そうとする女がいるか、と。なにせCaesar's Legionでは、女はすべて奴隷扱いだ。
Siの言葉にBooneは頷いたが、しかし硬い表情は崩れなかった。「あんたはRangerか?」
「そうだ。南部から出向してきた」
「彼女を追っているのか?」
「彼女の持っている荷を、だ」
「おれも同行する。彼女に訊かなきゃならん。なぜLegionのところに向かったのかを」
Booneから得た情報を本部へ報告するついでに、Booneが同行したいと申し出た旨を伝えた。Siの任務は特殊な重要任務であり、部外者の同行など許されるはずがないと思っていたのだが、意外なことに、彼の申し出は許可された。本部の話では、Booneは元NCRであり、1st Riconのスナイパーであるという。十分に利用価値があると判断されたのだろう。
NovacからForloan Hope基地に向かった。物資の欠乏、人員の不足。基地はまさしく聞いていた通り、酷い有様だった。
「前線基地といえば、どこもこんなものだ」
そう言ったのはBooneだった。
基地の司令であるPolatli少佐から受けた指令は、Ranger Fairy Eye、『妖精の目』によって現状をどうにかせよ、ということだった。平たく言えば、Legionに奪われた物資を回収し、戦闘時には兵士として前線に立て、とそういうことだ。
補給部の目の細い男、Mayes補給部隊隊長によれば、何度もHELIOS ONE駐屯部隊に向けて補給部隊を向かわせたものの、どの部隊も戻ってこなかったという。
「ねぇ、Si。HELIOS ONEって……」
耳元でSumikaが囁いた。Siは頷いて応じてやった。HELIOS ONEは、Kutoによって防衛兵器ARCHIMEDESを作動させられ、駐屯部隊は壊滅に追いやられたと聞いている。どうやらForloan Hope基地にまでその情報は伝わっていなかったらしい。
Forloan Hope基地とHELIOS ONEと繋ぐ直線の、ちょうど中間地点で襲撃されたNCR部隊の死体と補給物資を見つけた。と同時に、Legionたちから襲撃を受けたというわけだ。
「もういないよ」とSumikaが囁く。「大丈夫って、Booneさんに伝えて」
そのままにBooneに伝えると、彼はようやく警戒は解いた。
輸送前に、補給物資の点検を始める。
「本当にRangerのようだな」
点検作業中にそう話しかけてきたのはBooneだった。無口そうに見えたが、そうではないのかもしれない。
「名乗っただろう」と短くSiは返す。
若かったからな、とBoone。「自称かと思った。あんた、最初から後ろのやつを狙っていたな。おれは気付かなかったが、なんであんたは最初から後ろのやつに気付いてたんだ?」
(勘が良いやつだな)
やりにくいやつだ、とSiは思った。この手のタイプが、Sumikaのことを信じるはずがない。妖精じみた女が見えるなどという話をして、信頼を失うのは避けたい。本部の言うとおり、Booneは狙撃手として優秀な兵士だったからだ。
「足音でわかったんだ」
それより手を動かせ、とSiは物資の確認作業に戻った。ふむん、とBooneは鼻を鳴らした。
物資は特に問題はなさそうだった。部隊の死体はともかく物資が放置されていたのは、補給部隊を探しに来たSiたちのような後続の兵士が来ることに期待して待ち伏せしていたのだろう。中身だけ抜き取られ、コンテナだけ放置されるというやり方でなかったのは幸いだった。
補給物資を担いで基地に戻る。補給部隊の次は衛生部隊の手助けだった。ほとんど使い走りだ。
「おぉ、あんたか」と衛生テントの医師、Richardsは言った。
昨日Forloan Hopeに来た直後、彼には頭の怪我の経過を診てもらうために会っていた。そのときに彼から医療品の盗難についてどうにかしてほしいという依頼を受け、それがStone二等兵によるものであるということを突き止めていた。
そのときの恩があるためか、Richards医師はSiに対して好意的なようだった。
「なんだ、少佐の使いっ走りか」とベッドに寝かされた兵士の傷を縫いながらRichardsは言った。彼の服は手術による血で汚れており、さながら肉屋だ。
「手伝えることがあれば手伝えと言われた」
「あんたら、医者の経験はないだろう?」
SiとBooneが素直に頷くと、Richards医師はPolatli少佐に提出する書類書きとその提出作業を押し付けてきた。面倒な細かい作業だが、慣れぬ手術をやらされるよりはましだ。細かい作業はSumikaも手伝える。
Siたちのおかげで、基地はいくぶんましな状態になった、とPolatli少佐は言った。「だが、Nelsonの脅威が未だ悠然と聳えている」
ここできみたちに委託する最後の任務だ、と前置きしてPolatli少佐はSiらにNelson襲撃の任を与えた。明朝、精鋭の兵士3人とともに襲撃をかける。目標はNelsonの奪取、およびNelson駐屯部隊司令官、Dead Seaの殺害。
「作戦名はRestoring Hope。明朝0500に作戦を開始する」
つまらない使い走りの任務から解放され、ようやく慣れた任務に戻れる。銃を撃ち、殺すだけの簡単な任務に。
SiとBooneは各々、自らの武器に触れた。
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