かくもあらねば/16/03
3
NelsonのLegion兵士は数が多いらしいが、錬度や武器についてはたいしたことはない、というのがPolati少佐の見立てだった。だが5人(と1匹)でも十分に勝てる、とまでは言わなかった。
正直危ない作戦であるとSiは思った。Booneの技量や他の3人の兵士の個々の錬度についても問題はない。こちらが襲撃をかける側なのだから、圧倒的に有利だ。
しかし今回が初の共同作戦というのが問題だ。連携が取れないと、奇襲も上手くはいかない。おまけに現在のSiはSumikaの姿が見えず、彼女から伝えられる情報を完全に理解できないのだ。
そう考えていたから、深夜、別部隊から支援の志願があったと聞いたときは、素直に嬉しく思った。しかもその支援の志願者というのはRangerらしい。
その男、Ranger Miloは長い顎鬚を蓄えた筋肉質の中年男だった。
彼はSiを見るなり、馬鹿にした顔になってこう言った。「妖精のなんちゃらとかいう、テキサス野郎か」
妖精の目だ、とは訂正しなかった。だいたいこの別称は、Si自身が名乗ったものではない。
彼はどうやら、Siが気に入っていないらしかった。それがSiが南部NCRから出向してきた隊員だからなのか、若くしてRangerになったからなのか、あるいはSumikaが見えるという特殊な能力があるせいなのか、はたまた彼にしかわからない特別な理由があるのかはわからない。
なんにせよ、重要なのは彼がSiを好きかどうかではなく、任務を達成するのに有利になっているかどうか、だ。馬鹿にされてむっとした表情になっているであろう、ポケットの中のSumikaに手をやり、Siは改めて尋ねた。支援を志願したと聞いたが、と。
まぁな、とMilo。「そっちの人数は?」
「5人だ」
Siがそう言うと、Rexが一吼え。あと1匹だ、とSiが訂正する。
「5人と1匹ね」Ranger Miloは鼻で笑った。「Psycho野郎どもの小隊でも引き連れているんだったら、Nelsonにいる捕虜の尻を蹴飛ばして連れ帰ってくることくらい簡単だろうさ。だが、5人とはね。Polatiの野郎は、Rangerが目からビーム出すヒーローだとでも思ってるんじゃないのか」
「支援する気があるのか、ないのか、どっちなんだ」
「尾根の側から援護してやる。が、こちらも要求がある」とMiloはSiの言葉に腹を立てた様子もなく言った。「おれの隊の捕虜をどうにかしろ」
「Nelsonの捕虜か?」
NelsonにNCR兵が数名、捕虜として捕らえられているということはPotali少佐から聞いていた。彼らは怪我を負わされて、磔にされているらしい。
もともと彼らは助けるつもりだった、とSiが言うと、Miloは笑い飛ばした。
「助けるだと? 馬鹿言ってるんじゃねぇ。Ranger Schoolじゃあ、軽率に行動してやつから死んでいくって教わったはずだぜ。あの可哀想なやつらを助け出そうとしてるんだったら、おまえは自分で思ってるよりも馬鹿にしか見えんだろうな」いいか、とMiloは強い語調で言う。「Legionの糞野郎どもが捕虜を取っている限り、何でもあっちが有利なんだ。攻撃を仕掛けるときにも捕虜のことに気を回さなきゃならんし、人質に使われたら面倒になる。だったら最初から捕虜なんてなかったことにしちまえば良い。ぶち殺せ。一思いに殺してやるのが、あいつらにとっても幸せってもんさ」
Ranger Miloの言葉は正論だ。彼の言うとおりのことを、SiもRangerとしての教練中に習った。人質がいると、迷いが生まれる。人質に気を回してしまう。
チームの人間全員がRangerならば、それでも良い。最終的に、誰もが人質を見捨てる決断ができるメンバーであるならば、現場でも対応ができる。しかし今回の作戦には、Rangerではない兵士も混じっている。突発的状況に、すべての兵が同じように対応できるかはわからない。
そんなときは、人質を殺せ、と、敵のアドヴァンテージを砕け、とそう教えられた。
胸元のSumikaが震えるのがわかった。彼女はMiloの言葉に怯えているらしい。
SiはもはやRangerではない。階級の上ではどうであろうとも、NCRに忠誠を誓う身ではない。従うべきはNCRではなく、Sumikaだ。
そんな思いは言葉には出さず、了解だ、とSiは告げる。「作戦開始は0500だ。支援に期待する」
そう言って、Miloとは別れようとしたが、Siの考えを悟ったのか、彼は去り際に言ってきた。
「夢見がちな乙女みてぇにお花畑歩いてんじゃねぇんだ。ヒーローは気取るな。捕虜を助けられると思うなよ。楽にしてやれ」
Miloに応じずに、Siは宿舎へと歩く。大丈夫だと、Sumikaにそう言ってやる。捕虜は助けてやる、と。
「大丈夫なの?」とSumikaは言う。「あの人の言うことは……、正論だよ。Nelsonを制圧するだけでも難しいのに、捕虜に気を遣いながらってなると……」
「そうだな」でも、とSiは言ってやる。おまえは助けてやりたいんだろう、と。
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