かくもあらねば/17/04


「さて、と」目の前のSuper Mutantは理知的な声でそう言い、首を振って立ち上がった。「ふむん、意外な来訪者だ。てっきり次に目覚めるときはあの男が目の前にいるときだと思っていたんだが」

Master、助けてくれ、そう呟くだけのSuper Mutantを覚醒させたのは、ホロテープに記録されていた男の音声だった。
『Dogよ、檻の中へ戻れ』
ホロテープに記録されていたのはそれだけの短い内容だった。

Sierra Madre警察署に到着したSiたちは、檻の中ですすり泣くSuper Mutantを発見した。SiにもKutoにも、彼がElijahのいう”Collar 8”であろうということは容易に検討がついた。
しかし彼のいる檻には鍵がかけられており、開けることはできなかった。ロックピックで鍵開けできるタイプのものではなく、鍵を探す必要があった。
地下へと向かってみると、男の音声が流れ始めた。低い落ち着いた、壮年を思わせるその男の音声は、Siたちが警察署に入る前に発見した書き文字やCollar 8……、Dogという名のSuper Mutantを檻に閉じ込めたのは自分だという旨を告白するものだった。そして男は最後にこう述べていた。もしDogを連れ出したいのならば、自分を使え、と。内なる獣を解き放て、と。

そして再生してみたら、これだ。目の前のSuper Mutantは豹変した
Siはついていけなかった。
しかしKutoはというと、一歩踏み出してこう言った。「おはようございます、Dogさん」
「ふむん、Dog……、Dogね」Super Mutantは愉快そうに首をゆっくりと動かした。「あれは常に腹を空かせている、わたしと鏡写しの位置にいる者だ」
「鏡写し……、じゃああなたは、Godとでもいうのですか?」
「なるほど、それは良い。God、神か。神なるものか。あるいはDogにとっては、それは正しいかもしれない。彼にとっては、姿は見えず、しかし確かに働きかけるものなのだから」

「おい、どういうことだ」
事態についていけていないSiは、Kutoに囁いた。
「うん? 何がですか?」
「いや、こいつは何なんだ」
「あれ?」Kutoは首を傾げる。「もしかして、牧師さま、わかってませんか?」
「何がわかるというんだ」
わたしの中に、おそらくきみたちが探していたであろう”Collar 8”……、Dogという存在はいる」Siたちの会話を遮って言ったのは、檻の中のSuper Mutantだった。「いわゆる、DID……、解離性同一障害というやつさ。そちらのお嬢さんは、いち早くそれに気付いたらしい」
「なるほど」とSiは頷いた。Kutoは見かけによらず、鋭いところがあるのかもしれない。

「それでGodさん」とKutoが話を戻す。「この戸、鍵が掛かってるんですけれど、鍵の所在はご存知ですか?」
「知っている、が、わたしは出たくない」だから教えない、とGodは言い切った。
「どうしてです?」
「簡単なことさ。腹が減っているのでね」
「お腹が減ると外出する気が起きないんですか?」
「わたしではない。腹が減っているのは、Dogだよ」Godは両手を広げ、降参のポーズ。「彼は腹が減ると、さまざまな場所を探索して自分の欲求を満たそうとする。それでは困るのだよ。彼がいくら強いとはいえ、このSierra Madreは危険が多い。この檻の中が、彼にとってはいちばん安全な場所なのだ」
「なんだその理屈は」とSiは言った。
「事実だから、仕方がない」
「あなたは最初、わたしたちが来たことに驚いていたみたいですけれど……、誰が来ると思っていたんですか?」とKuto。
「わかるだろう? あの老人だよ」
Elijahさん?」
「そう、その男だ」Godは慎重な面持ちで頷く。「あの男は欲望に憑りつかれている。彼はあらゆる手段を講じて、戦前の遺産を手にしようとしている。あの男は恐ろしい。肉体的にはきみたちと同じように、か弱い人間だ。だが、ただひたすらに自分の欲望を追求している。太陽を越えようとしたイカロスをも越え、太陽をわが手に掌握したほどの欲望の持ち主だ。まったく、愚かなことこの上ない。愚かでありながら魔物も同然の欲望を持っているのだから、まったく恐ろしいことさ。わたしとしては彼をどうにかしたいとは思っているが、残念ながらわれわれは、彼の掌の上だ」

まったくだ。Siにとっても、映像越しのあの男の脅威は感じられた。声だけでも、彼はまったく物事に躊躇しない人間であることが感じられた。

「とはいえ、欲望に釣られてきたのはきみたちも同じかな?」とGodは愉快そうな表情になる。「財宝を仄めかすラジオの音声を聞いて、きみたちはやってきたんだろう?」
「わたしは逃げてきただけですよ」とKuto。
「おれは、こいつを追いかけてきただけだ」とSiは言い返す。
「いまひとつ、きみたちの関係がわからない」
「わたしたち、どういう関係なんでしょう?」
Kutoが尋ねてきたが、Siは無視した。

「あんた、もっとあの男について知っていることはないのか?」
「おそらくあの男に関しては、わたしよりDogのほうが詳しいだろう」とGodは首を振った。「彼はあの男の言うことはすべて従うようになっている。付き従うことで欲求が満たされるように、彼は元の状態から調整されているのだよ。哀れなることだ」
「そう思っているのなら、何か対策でもしたらどうだ。ここに閉じ篭っているだけじゃあ、いつか首輪が爆発して死ぬぞ。死んだら、負けだ」
今のところ、わたしは勝っている。なぜならあの男の目的は達成されておらず、わたしは死んでいないからだ」
「おれたちは自由になりたいんだ」
「なるほど、それはまさしく重要な問題だ。誰しも、初めは自由を求めて生を受ける。しかしすぐに隷属することが楽だと気付いてしまうのだがね、たとえばDogのように」
「哲学的な問答はいらん」

「あの、それよりも」とKutoが手を挙げて言う。「あなたは何処に鍵を隠したんですか? 檻の外には見当たりませんでしたし、檻の中に隠したんだったら、Dogさんに見つけられちゃうでしょう?」
簡単なことさ、とGodは答えた。「この鎖の、首の後ろのところに隠した。そうでもしないと、Dogが鍵を見つけて食べてしまう」
「ふむ、なるほど」何か納得したようにKutoは何度も頷く。「あなたとDogは、記憶を共有しているわけではないのですか?」
「していないよ。だからこそ、わたしたちはきみたちの存在を知ったときに驚いたのだ。ああ、また哀れなる子羊が舞い込んできてしまったか、とね」
「なるほど、だから鍵を隠しておける、と」
「今はそれが最高の手段なのだよ。あの男をDogと引き合わせるのは危険だ。Dogがこの身体のコントロール権限を持っているときにあの男がいると、Dogはあの男の言うことをすべて聞いてしまうのだよ。その素直さゆえに、ね」
「なるほど、彼の言葉には従う、と」Kutoはにっこり笑って、自身のPip Boyを起動させた。「それではおやすみなさい、お馬鹿さん

Godが何か反応する前に、KutoのPip Boyからは音声が流れ始めた。Elijahからの指令の記録だ。その指令はDogに当てたものではない。
『わたしに従え』
しかしPip-Boyには確かにその言葉が記録されていた。

Godが叫び声をあげる。
彼は目を両手で覆うと、反り返るような姿勢で大きく吼えた。
やがて静かになり、手を顔から離す。その表情は、先ほどのものと変わっていた。理性の見られぬ、情欲の獣の目。

「おはよう、Dog」ぞっとするほど優しげな声でKutoは語りかけた。「わたしがわかる? あなたのMasterよ」
Dogは少しの間、その燃えるような眼差しでKutoを見つめたのち、「Master。少し声が変わったな」と言った。
「ええ、変声期なのかな」そう言ってKutoは笑う。「ところで、ちょっと取って欲しいものがあるの」
「Dogは何でも言うことを聞くぞ。誰か攫って来いというのなら、いくらでも攫ってきてやる」
「ううん、わたしが取って欲しいのは、あなたの首のところにある鍵よ

「おい!」Siは思わずKutoの腕を掴んだ。
Super Mutantは危険だ。目の前のDogという個体は、特に能力の高いNightkinと呼ばれる種であり、しかもGodの話を考えると腹が減ると何でも貪り食う貪欲な性格らしい。そんなものを野に放ってしまって良いのか。
「ここで立ち止まっていたら、何も進みませんよ」あっさりとKutoは応じた。「牧師さまも、妖精さんのことは心配でしょう? 早くこの場を離れないと。そのためには、とりあえずElijahさんの言うことを聞いておくのがいちばんです」
Kutoの言は、確かに正しい。それだけにSiは、彼女の言葉に猜疑の念を抱いた。

■Companion
加入: Dog
取得: Ravenous Hunger(DogによるGhost Peopleの捕食)

■Quest
終了: Find Collar 8: ”Dog”
残り2人


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