天国/04/141日目


1257年08月03日
141日目
白の一角獣、甘言に乗り間抜けにも叙勲を受け、寒村を譲り受けること

Name: Bill
Sex: Male
Level: 20HP: 61Attributes: STR18/AGI12/INT11/CHA12Skills:
【STR】鋼の肉体4/強打4/弓術6
【AGI】武器熟練4/馬術4/馬上弓術4/略奪4
【INT】訓練1/戦略3/経路探索1/観測術1/荷物管理1
【CHA】捕虜管理2/統率力4/取引1
Proficiencis: 弓224/長柄武器203/片手武器106
Equipment: 壮麗なバシネット/ベージャー・ラメラー・アーマー/錆びた鉄の脛当て/革の手袋
Arms: パルチザン/黒檀の剛弓/大袋入りの黒檀の征矢/強化された重カイトシールド
Horse: 逞しく優秀な駿馬
Armor: 頭部53/胴体59/脚部46/重量43.3

白の一角獣は各地を転々としていた。戦争を求めてである。
傭兵隊が求めるは戦争であるが、決して戦場を求めているわけではない。マテルドは傭兵隊に所属することで、初めてそのことを知った。彼らに必要なのは大義名分だ。つまり、戦争なのだから敵国の村を焼き払っても構わない、という。
白の一角獣はマテルドが加入して以後、ロドック、サランと来て、次にはカーギットで傭兵契約を結んでいた。

射て、という傭兵隊隊長の号令で大量の矢が、ボルトが、投げ槍が、銃弾が射掛けられた。敵はベージャーの弓隊と騎兵隊であるが、丘の上を陣取り、太陽を背にした白の一角獣に対し、逃げ腰で知られるベージャー軍は手も足も出なかった。

「そろそろこの戦も終わりですな」
そう言ったのは同性愛の傭兵、マンスールであった。さて次はベージャーかスワディアといったところでしょうか、どちらも負け戦過ぎて稼げるものはありそうにないですが、と。
「ノルドだな」
傭兵隊長、ウィリアムの零した言葉にマテルドはどきりとした。ノルドはマテルドの生家がある。今では追われたこの身である。できれば戻りたくはなかった。
とはいえ、戻りたくない、などという感傷めいた言葉がこの傭兵隊長に通じるはずもなかった。翌日から、白の一角獣はノルドを目指して進んだ。

ベージャーとノルドの中間地点にて、白の一角獣はキャンプを張った。明日にでもノルド領に入れるだろう。
マテルドは寝付けなかった。寝たと思っても、すぐに目が覚めてしまう。これは駄目だなと思ったマテルドは、朝方に散歩をすることにした。じっとしているよりも、このほうが気が紛れる。幸い、見知った地である。ガンディグ岬はマテルドの夫が所有していた城のすぐ傍の岬であった。今では何処の馬の骨ともわからぬ人間によって管理されているが、自分の庭のようなものだ。
その庭先で、男が立っていた。岬の縁で、だ。男は下穿きをずらし、片手で己の物を掴み、海に向かって放尿をしていた。もう片手で何か紙片のような物を千切っていたようだったが、好奇よりも嫌悪の感情が勝り、マテルドは目を逸らした。

やがて事を終えた男がこちらにやってきた。男は白の一角獣隊長、ウィリアムであった。既に手に紙片はなかったので、どうやら海に捨てたようである。
「さっき捨てていたのは何だ?」
マテルドは尋ねた。他にも、なぜいちいち崖の先端で立小便をするのだ、だとか、ちゃんと手は洗ったのか、だとか、訊きたいことは幾らでもあったが、優先させるべきはその質問であった。
「紙だ」とウィリアムは素っ気無く答えた。
「手紙か?」
マテルドがかまをかけると、ウィリアムはゆるりと頷いた。というより、そこまでして隠す気はなかったらしい。
ベージャー王国からの勧誘だ。臣下になれと、そういうことらしい」
そう言ったからには、あるいは訊いて欲しかったのか、自慢したかったのか。

ベージャー王国が傭兵であるウィリアムを封臣として招くとは、脅威のことである。聞けばヤレグロク王直筆の手紙ということだった。
「なるほど、凄いじゃないか」
マテルドがそう言ってやると、ウィリアムの口元が僅かに持ち上がった。それ以外の部分はほとんど変わらなかったが、どうやら喜びの笑みを堪えているらしい
、と彼は息を吐いた。は、くだらない、と。「負け続きだから、傭兵でも囲おうというところだろう。だいたいあいつは、おれに既に負けているんだぞ。負けた相手に臣下になれとは、どれだけ阿呆なのだ」

ウィリアムの言うとおり、カーギット・ハン国と傭兵契約を結んでいた時期、ベージャー王国ヤレグロク王と白の一角獣は一度剣を交えていた。白の一角獣の圧勝であった。ベージャーの兵は、弓で足止めされ、騎馬で横から突かれただけで散り散りになってしまった。
、ともう一度ウィリアムは息を吐いた。「くだらない。だいたい、貴族になったからといって、何がある。何も変わらん」
「領土がある、土地があるぞ。守るべき人民もいる」
どうせ寒村だ、最前線の村だろう。負け戦続きのベージャーだ。どうせその村も、すぐに奪われるがオチだ」

明らかにウィリアムというこの男は、マテルドに説得してもらいたいようなふうだった。戦場での荒々しさとは対照的に、意外と女々しいのかもしれない。 
そう考えながら、マテルドは言ってやる。「それは、勝っている国は傭兵など臣下として招いたりはしないからな」
そうだ、とウィリアムは頷いた。「所詮が、傭兵だ。その程度ということだ」
「傭兵が厭なら、ヤレグロク王のその話、受けるが良いじゃないか」
意外と立派な貴族になるかもしれないぞ、とマテルドは請け負ってやった。もちろん口から出任せである。土台が、立派な貴族とは何であろう。そんなもの、産まれてこの方目にしたことはない。

くだらない、とウィリアムは言って踵を返した。
「おれが……、おれが貴族だなんてな」

ベージャー王国領、レイヴァティンの街に着いたのはそれから二日後のことだった。白の一角獣隊長、ウィリアムは書状を携えて城へと赴いた。
戻ってきたときには、彼は騎士になっていた。白の一角獣、傭兵隊長が貴族になったということで、傭兵隊は酒場で大騒ぎだった。ウィリアム当人も、傷のついた顔には堪えようと努力した笑みが広がっている。

唯一、マンスールだけは渋い顔をしていた。
「何か気になることでも?」とマテルドは尋ねる。
「隊長が貴族になるだなんて、驚きです」
「気に入らない、と?」
「貴族には向いていない方だ」
なるほど、それはそうかもしれない。マテルドはマンスールの言に頷いた。とはいえ、やり方次第だ。下手に力を強めようとしなければ、世渡り下手でも地方貴族くらいは勤め上げられる。
「なるほどそうでしょう」とマンスールはマテルドに一度同意した後、しかし、と返した。「隊長はああいう人です。とにかく上昇志向が強い。衝突しやすい人だ」

それに、とマンスールは続けた。封土であるハヌンの場所は酷いですね、と。
ハヌンはベージャー領とカーギット領のちょうど国境にある、まさしく寒村であった。

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