リサイクルライフ/2
承
浮気なぼくら NAUGHTY BOYS
1
「梨花、梨花、ストップなのです!」
「なに」
「圭一と沙都子が話しているのですよ」
「それ、どういう状況で?」
「ちょっとらヴらヴな雰囲気なのです。邪魔しちゃいけないのですよ」
「ちょっと、どれ? 見えないんだけど」
「こういうのを出歯亀というのです」
梨花はプレハブ二階の出入口の真下にいる。ここなら入口の声が聞こえ、少し顔を覗かせれば玄関に立っている沙都子と圭一が見える。
「ちょっと……、これ、誰ですの……、綺麗過ぎて、ちょっと、恥ずかしい気が、しますわ………」
圭一は何も言わずに、自分の鎖骨の辺りを掻いている。
ちくしょう、萌えるじゃねぇか。
2
「あぁ……、やばいわ。どうしてこんなにあの二人は可愛いのかしら………。最近、沙都子を構うのが楽しくて仕方ないのよ……。あぁ、圭一、傷があるのがちょっとたまらないわね………」
「そういうことを声に出して言うのは、ちょっと憚られるのです」
「なに言ってるの。馬鹿じゃない? 声にも出せないような可愛さにどんな意味があって?」
「あって?」
「丁寧語よ」
玄関では、沙都子がはにかみ、俯きつつも、積極性のない圭一を中に入るように促しているようだった。圭一は一度躊躇したようだったが、中に入る。
「あぁ……、もう、ここで入ったらお邪魔じゃなくて?」
「誰なのですか」
「うちの玄関って、薄いから中の音が聞こえるのよね。激しいとすぐわかるって、あとで教えておかないと」
「下品なのです」
「失礼じゃなくって?」
「なくって?」
3
圭一が目を覚ますと目覚ましが鳴った。すぐに止める。夏の太陽は早く、高い。
喉が渇いていたが、潤す前にまず外に出て、郵便ポストを覗く。最近はこれが日課になっていた。
圭一にとってどうでもよい、村内で回される連絡網のようなものしか見当たらないのが常だったが、今日は違った。一枚、何の変哲のない郵便葉書が見えた。それだけをめがけて手を伸ばすと、他の郵便物が足元に落ちた。
宛名は圭一になっていた。差出人の住所は東京だ。圭一が応募した絵のコンクールの応募先と合致している。
急いで裏返すが、中が糊で閉じられているタイプだった。端を掴んで引き剥がそうとするが、なかなか掴めない。爪が一度引っ掛かるが、破れてしまった。
悪戦苦闘して、ようやく葉書の右上のところに剥がしやすいように糊が貼られていない部分があることに気づく。剥がす。
予想通り、コンクールの入賞の通知だった。大賞や準大賞といった大きな賞ではなく、特別賞、となっている。
圭一はほっとしていた。
4
自分がどれだけのものを完成させたか、圭一にはわかっていた。絵を描くためには、何が良くて何が悪いか、という比較力もなくてはならない。だから、絵を送ったことで少なくとも何らかのアプローチがあるであろうことは予想できていた。
問題は送ったのが人物画だったということで、学生向けのコンクール受けはしないだろうと思っていたのだ。賞はもらえず、代わりに審査員からの個人的な連絡でも来るかもしれない、と考えていたのだが、圭一としては、この特別賞という位置がちょうど良かった。
特別賞は賞金20万円だ。それは絵の価値としては微々たる金額に違いないだろうが、圭一には絵で食っていく気はないので直接金銭に繋がらないような連絡を受けても意味がない。
ただ、沙都子に何かを買ってあげられるだけの手ごろな金が欲しかったのだ。
できれば沙都子を描いた絵を他の人間に見せたくはなかったのだが、あのときはあれしか描けなかった。描けるような美しいものが、沙都子しかいなかったのだから仕方がない。大賞でなくて良かった。胸をなでおろす。
葉書には、あとは授賞式の日時が書かれていた。圭一はこんなものには出る気はなかったが、賞金は授賞式で渡されるらしい。
賞金の問題と、地方のコンクールだと他に比較する相手がおらず大賞を取ってしまうだろう、という理由から、東京のコンクールにしたのだが、やはり東京には面倒ごとが多い。やめておけば良かった。
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