天国/05/305日目
1458年01月21日
305日目
蠍、監視役に裏切りを示唆されること、ならびに初めての領地にて幼き日々を思い起こすこと
Name: Rana
Sex: Female
Level: 13
HP: 53
Attributes: STR12, AGI12, INT10, CHA12
Skills:
【STR】鋼の肉体3, 強打3, 豪投4
【AGI】武器熟練2, アスレチック4, 乗馬2, 略奪2
【INT】訓練2, 戦略2, 観測術1, 荷物管理1, 治療2
【CHA】説得3, 捕虜管理1, 統率力4
Proficiencies: クロスボウ175, 火器112, 片手武器102
Equipment: 貴婦人の頭布, サランの貴婦人のドレス, 痛んだ薄片の篭手, 粗雑なLeather Steel Greaves
Arms: 半剣, 攻城用の弩弓, 鉄のボルト, 鋼のジャリド
Horse: 重い駿馬
Companions: ユミラ, バートル
(なんでこんなことに……)
夜風に当たりながら、ラナは溜め息を吐いた。場所はカルラディア東方に広がる大砂漠にある、サラン領地のジャミヤード城である。
城の中は宴会で賑わっており、先程まではその場にいた。しかしあまりにも居心地が悪いので、同行者のひとりであるユミラにその場を任せて出てきたのだ。一応の会話術などは習いはしたものの、実際に貴族たちの晩餐会などに出たことはない。フライチン女伯の侍従をしていたときも、城の敷居を跨ぐのがせいぜいだった。ましてや貴族として紹介されることなど初めてである。
しかも明らかに夜伽にしか見えないラナが、急に貴族としてハキム帝に剣を賜ったというのに、サラン朝の人間たちは意外にも好意的に受け入れる様子を見せたのだから、驚いた。
「サランの貴族というのは、ああなのか………」
自分もサランの人間でありながら、ラナは疲れた気持ちで呟くしかなかった。つまりは、いいかげんということだろう。
そう考えてみれば、ハキム帝の行動も納得がいかないでもない。ラナを貴族として任命したのも、彼の気まぐれなのだろう。サランは現在、カルラディアにおいて最も力のない勢力であるが、その弱さもそこに生きる人間のいいかげんさと思えば納得がいく。
「おい」
ひとしきりサラン朝のいいかげんさに納得していたラナに声をかけてくる者がいた。全身が剣であるかのような殺気を纏わせるその男の名は、バートルという。
「おまえの行動は、ロドック王国に対する裏切りと考えて良いのだな」
ラナはぎくと身体を強張らせた。バートルはロドック王国からの同行者のひとりであるが、彼はユミラと違ってラナについてきているわけではなく、ロドック王国の食客だ。ラナが裏切らないかどうか、監視しているのだ。
「わ、わたしは……」
ぎゅうと己の身体で震えを抑え付け、ラナは必死で言葉を紡いだ。
「裏切ってなどいません。ハキム帝は同衾の最中でもわたしを警戒していました。おそらく今回の一件も、わたしを試そうとしているのでしょう。で、ですから、わたしは、その誘いに乗っただけです。警戒させないためなのです。裏切ってなど、いません」
寝台の中がどうなっているかは、実際に同衾したラナとハキム帝しか知らない。だからこその言い訳であった。
バートルはしばらくその鋭い目でラナを見つめていたが、やがて、ふんと鼻を鳴らして去っていってしまった。気が抜けた。ロドック王国を裏切るなど、考えられないことだから。
翌日、ラナは昨日の残り酒で痛い頭を引き摺って、ハキム帝から与えられた任地であるウズガへと向かった。
(カーギット・ハンに近いなぁ……)
カーギット・ハン国との間にはダルヤン城・シャルワ城があるものの、距離的には非常に近い。国境に近いということは、戦争になればそれだけ略奪の憂き目に遭う可能性が高いということだ。不安だ。
「あ、オアシスがあるね」
などと無邪気に言うのはユミラである。彼女はロドック王国から出立する際に酒場で声をかけてきた女で、ラナやバートルの任務とはまったく関係のない、商人の御息女である。どうやら親の取り決めた結婚に反発して、家を飛び出したらしい。
「旅をすると、こういう見たことのなかった風景や知らない人に出会えるから、素敵だね」
そんな感想を洩らせるのは、余裕というよりは世間知らずゆえだろうか。
ウズガはお世辞にも素敵だとは言い難い場所であった。オアシスを頼りに発展した村であることはわかるが、家畜は死に絶え、作物も狩れ果てている。何より、村人が挙動不審だ。外から来たラナたちに怯え、警戒の視線を向けている。
「略奪に遭ったな」
ぽつりとバートルが呟くのが聞こえた。おそらくはそうだろう。相手が賊か、それとも国軍なのかはわからないが。
先ずは村の代表者に挨拶に向かう。馬を下りてから村人に事情を説明し、村長のところへ案内してもらう。村長は左目に傷のある、不思議な風格のある男だった。
さて、どう説明したものかと考えあぐねていたラナの前で、その男はがばと土下座をした。
「このような村にお越しいただき、誠にありがとうございます」
そう言って頭を地べたに擦り付けるからには、以前税の取立てか何かで村を訪れた貴族に酷い目に遭わされた経験があるのかもしれない。
「あの、わたしは………」
正式な貴族ではない。ハキム帝の気紛れで領地を任されただけで、元はといえばあなたと同じ農民なのだ。
そう言いかけて、ラナは押し留まった。元が平民だということが明らかになって、相手が掌を返すかもしれないと思ってしまったのだ。見下されるのが厭だというわけではない。ただ、怖いのだ。何が怖いかといえば、目の前の男に武器を突きつけられることだ。
もしラナが貴族ならば、彼が武器を突きつけてくるなどということは考えられないことだ。なぜなら貴族に逆らうことは、その本人のみならず、親戚縁者あらゆる者が処刑されることになるからだ。
だがラナが貴族ではないならば、報復の恐れはない。貴族ではないからだ。農民に対して圧倒的な力を行使できる人間ではないからだ。自分と対等な人間だからだ。ならば、日頃の恨み晴らすべしとしてラナに武器を向ける可能性があった。
結局ラナができたのは、自分は若輩なので特段畏まる必要がないということを述べた上で、何か困っていることがあれば手伝うと申し出ることだけだった。
「はぁ、それは、非常にありがたいことですが、いえ、昨今盗賊が多くて……。はい、こちらとしても、いろいろとできる手は打っているのですが、ええ、残念ながら、収穫を奪われてしまうこともしばしばありまして、いえ、もちろん命あっての物種と申しますか、命が助かっただけありがたいことなのですが、ええ、いろいろと難しいこともございまして………」
手短に話せ、などと断じることはできず、辛抱強く話を聞いた結果、村長の言いたいことがどういうことかようやくわかった。
「つまり、穀物が6袋あれば良いのですね」
「領主さまにこんなことをお願いするのは、ええ、非常に心苦しいのですが、ええ、穀物が6袋もあれば、種蒔きを始められます。種さえ蒔ければ、後は村の者の力でやっていけると思いますので………」
ラナは頷き、これ以上村長の長話を聞いてはいられないとばかりに、踵を返して馬屋へと向かいかけたが、少し考えた後に、金の入った袋を渡した。
「これは……?」
村長は不思議そうな顔をしていたが、包みを開けるようにラナは言ってやった。
「500デナル入ってます。農具の修理とか、食べ物を買うのに使ってください」
領地を任せられる貴族にはなったものの、封土を与えられたばかりのラナにとって、500ディナルは大金である。しかしラナにはこの村を自分の故郷と重ねてしまい、見過ごすことはできなかった。
「はぁ………」
村長はまだ曖昧な表情のままだった。おそらくはラナの言ったことが理解できないのだろう。当たり前だ。農民に施しをする貴族など、ありえないものだ。とはいえ、とりあえず金を渡しておけば、そのうち使うだろう。
ラナは馬に乗り、穀物を集めるためにウズガを出立した。
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