男は何所かちぐはぐに感じられる人物であった。
 Desperade Cowboy Hatに隠された髪は白髪で、少なくとも四十は越えているであろう。顔には相応の皺も刻まれていて、年齢を感じさせるのであるが、Kutoに向けてくる表情はやけに若く、Sunglasses Green越しの瞳は少年のように活き活きと輝いていて、いまいち実際の年齢が判然としない。
 装備も同じで、Desperade Cowboy Hatや Armored Dusterは戦い慣れた保安官を連想させるものなのだが、水筒だの食料だのが吊られた背中のLeather Backpackはまるで旅行者のようであり、極めつけは手に持っている武器である。Scope Kitつきの Crossbowなのだ。この銃と爆薬の時代に、である。

とはいえ、彼がKutoに襲いかかろうとしていたWhite Legsを倒してくれたのは、腕に突き刺さった矢を見るに間違いない。しかしいったい、なぜこのWhite Legsは動かなくなったのか。矢が刺さっているのは腕だけで、致命傷には見えないのだが。
(とりあえず、止めを刺しておこう)
 Kutoは9mm PistolをWhite Legsの頭に向けた。いくらKutoでも、この距離ならば外さない。

 そう思ったのだが、銃弾は命中しなかった。
「お嬢さん、とりあえず逃げましょう」
 白髪の男がぐいとKutoの腕を引っ掴んで駆け出していた。おかげで、9mm Pistolを取り落としてしまう。
 が、彼のおかげで助かった。直前までKutoがいた場所に、銃弾が放たれていた。撃ってきた方向を見れば、複数のWhite Legsが迫ってきていた。

「あの」とKutoは男に手を引かれて崖の反対側への吊り橋を駆けながら尋ねる。「さっきの矢は……」
「あれはただのCrossbow Boltですよ。お手製で、ちょっとした効果が付いていますが」
Perk: Crossbow Specialist (効果付きの矢を作成)
「あれで反撃すれば、逃げなくても良いのでは?」
 男はくると振り返り、Kutoに視線を合わせた。なぜかKutoは、その瞬間に酷い嫌悪感のようなものを感じた。彼のその瞳が、やけに恐ろしく感じたのだ。
「残念ながら、これ一つで」と男はCrossbowをちらりと見やる。「彼らを全員倒すのは難しいかと思います。戦わないに越したことはありませんし、逃げるが勝ちです」
 そうは言っても、一本しかない吊り橋を渡っているのだ。敵も狙いがつけ易かろう。今も弾丸が飛び交っている。これなら反撃したほうが確実だと思わないでもないのだが、武器を持つ本人が否というのなら、無理矢理言うことを聞かせるわけにもいかない。

 が、吊り橋を渡り切った崖の反対側に向かっても敵がいるとなっては悠長なことは言ってはいられない。崖の上に現れたWhite Legsは銃を構えてこちらを狙っていた。
 撃って。
「撃っ……」
 Kutoが言い切る前に白髪の男の腕が動き、素早くCrossbowに矢を装填、撃っていた。
Perk: Rapid Reload(リロード速度上昇)
その動作はほとんど機械のように素早く、精密だった。撃った先を見ずとも、Kutoにはその矢が命中したことがわかった。
「外しました」
「へ?」
「いや、外したというか……」
白髪の男はCrossbowを下げて撃った先を睨む。Kutoも視線をそちらに向けると、崖の上のWhite Legsは倒れ伏していて、そのすぐ傍らに浅黒い肌の帽子を被った男が立っている。
 こっちに来いとでも言うように、その帽子の男は手招きをして何やら叫んでいた。手に拳銃を持っており、倒れているWhite Legsに向けているので、どうやら白髪の男が撃つ前にあのWhite Legsを倒したようだが、味方とは限らない。無視して逃げたほうが良いかもしれない。
 しかし白髪の男は、「どうやら敵意はなさそうですね」と言うとKutoの腕を掴んで男に近づこうとする。
「ちょっと……」Kutoは引き摺られながら言葉を紡ぐ。「危ないんじゃないですか?」
敵意がないようなので、大丈夫です」
敵意がないって………」
 そんなの、この遠距離でどうやってわかるというのか。会話も交わしたわけでもないというのに。何か根拠があるというのか。
 目を見て問い質したかったが、単に引き摺られているからというだけではなく、Kutoにはどうしても彼の目が見られなかった。

「こっち!」
 近づくと、帽子の男がそう言っているのがわかった。彼は銃をKutoたちの背後、吊り橋に向ける。見れば、吊り橋を渡りWhite Legsたちが追いかけてきていた。
 帽子の男が拳銃を連射する。吊り橋を繋ぐ綱に当たったのか、あるいは橋が老朽化していたのか、吊り橋の綱が切れ、White Legsたちは落ちていった。

「White Legsに襲われて生きてるの、とても珍しい。あんたたち、とても幸運ね」
 と帽子の男は片言の英語で言った。銃を向けて警戒している様子ではあるが、武器を構えていない白髪の男とKuto相手に撃たないということは、やはり敵意はないのだろう。
「助けてくれて、ありがとう」と白髪の男が手を差し出す。「ぼくはDidi
「おれ、Follows Chalk
 と帽子の男は武器を下ろしてDidiの手を握った。
 その後、ふたりの男の視線がKutoに集中する。こうなっては、名乗らないわけにはいかない。「Kutoです」と答えておく。
 
「あんたたち、Civilized landsから来たのか?」
「Civilized lands?」
四角い山や、固い土のある場所だ。違うのか?」
 Follows Chalkが言っているのは、戦前の建築物や道路のことのようだ。となれば、Civilized landsとはMojave Wastelandなど、戦前の設備がある程度残っているような場所を指すのだろう。逆に言えば、この場所は文明化されていない場所ということだ。
「たぶん、そうかな」とDidiが答える。「ぼくは北のほうから来たんだけど……。きみは?」
「わたしは西海岸……、Mojave Wasetelandからです」とKutoは正直に言った。
「そうか」とFollows Chalkは満足げな表情で頷く。「たぶんJoshuaがあんたたちと話したがると思う。ここは危ないし、良かったらEasten Virginまで来ないか?」
「Joshua?」
 Kutoは思わず聞き返してしまった。
 Follows Chalkはなんでもないような顔で、頷く。「Joshuaは、とても良い人だ。おれたちの友だちだ」

(Joshuaって、Joshua Graham………?)
 KutoはMojave WastelandでHappy Trail Caravanとともに出発する直前、Jed Mastersonから聞いた言葉を思い出していた。

「ああ、そうだ、出発前に言っておきたいんだが、Josha Grahamという名前には気をつけろ
「Joshua Graham? 誰ですか?」と、そのときKutoは尋ねた。
「とにかく、気をつけろ。New Canaanを混乱に陥れている男だ炎の魔人って別名もある。化けもんみたいなやつらしい」

(いや、それ以前にも……)
 何処かで炎の魔人の名を聞いたことがあったような気がする。しかし、何処だっただろう。思い出せない。
 Jedは、Joshua Grahamには気をつけろと言っていた。しかしFollows Chalkの言うJoshuaが、当のJoshua Grahamなのかどうかわからないし、何よりこの場に独りで佇んでいては危険だ。得体の知れない白髪の男、Didiとともに、KutoはFollows Chalkの村へと向かうことになった。





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