かくもあらねば/26/02


「Si、大丈夫?」
 肩のところから声をかけるが、僅かに首を振るだけでSiの返事はない。
 呑み比べの翌日、昼を過ぎてからSiとSumikaは出発した。午前中いっぱい、Siは使い物にならなかったのだが、午後になってもほとんど変わらなかった。食事は喉を通らぬようだし、足はふらついている。

「だらしないなぁ」
 と言うのはCassidy Caravanの、いや、いまはどのキャラバンも持っていない、いち旅人になったCassだ。彼女は、「隊商の名義を売る代わりにNCRのRangerに頼みたいことがある」と言って付いてきたのだ。
 昨日の彼女の酒量は、少なく見積もってもSiの2倍のはずだが、昼過ぎまで寝ていたほかには特に酒の害はなさそうである。恐ろしく酒に強い女性だ。


 その彼女がなぜSiやSumikaとともに行動をしているかといえば、彼女がCassidy Caravanの売却に応じるにあたって突きつけた条件がそれだからだ。彼女は、Cassidy Caravanが襲われた所に来てほしい、とCassは言った。
「なんでだよ」とSiは二日酔いで不機嫌な表情で言った。
「ひとつの理由は、墓参り」
「墓参りなら、ひとりで行け」
「Rangerのあんたに見てもらいたいものがある」
 一緒に来てくれないってんなら、キャラバンの買収には応じない。そう言われてしまっては、頭が多少痛くなっても、縦に振るしかなかった。
「先にこっちの用件を済まさせてもらうぞ」とSiは苦々しげに言った。

 Alice McLaffertyに頼まれたもうひとつの仕事を済ませるためん、New Vegas、Freeside地区へ向かう。Henry Jamisonなる男が博打好きというのは事実らしく、Atmic Wandlerという店でスロットを回していた。

Challenge: Barter≧50→SUCCEEDED

 粘り強い交渉、というよりは、二日酔いのせいでほとんど恫喝といった形ではあったが、Jamisonにいまの地位を退かせることに成功した。


 Crimson Caravanへと戻り、Alice McLaffertyに報告を行う。CassとAliceとの間で、Cassidy Caravan売却の契約が交わされた。
「ご苦労さま」とAlice McLaffertyはSiを労った。「良ければ、もう少し働いていかない? あなた、Rangerにしておくには惜しいから」
「もうごめんだ」とSiは溜め息を吐く。「今日は特に、もう仕事はしたくない」
「ちょっと、わたしの用を忘れてない?
 とCassが口を出す。


「何かあるの?」とAlice McLaffertyが不思議そうな顔で問いかける。
「別件の仕事だ。あー、NCR大使館のDennis Crockerから伝言とかは?」とSiが縋るような表情で問う。
特に聞いていないけれど……、何か?」
「いや、ないならいい」
 どうやらCrocker大使とMoore大佐の交渉はまだ終わっていないらしい。もし呼び出しが来ていれば、それを言い訳にCassの要求をふいにできたのだが、そうもいかないらしい。

 仕方なく、彼女に従ってCrimson Caravanを出て、南へと向かう。
「ここ」
 と彼女が連れてきたのは、何の変哲もない道路に見えた。
「ここが……、なんだ?
「わたしの隊商が襲われた場所」
 成る程な、とSiは頷いた。墓参りに行くとか言っていたか。既に埋葬したのか、あるいはMojaveの風が掃除してしまったのか、いまではその痕跡はほとんどないが、Siには当時の状況がありありと想像できた。



ほとんどの荷は灰になったって聞いた。 最初にそう聞いたときは、火でも点けられと思ったんだけど、そうじゃなかった。燃えたっていうか……、分解された、みたいな。エネルギー兵器を使われたみたいな感じ」CassはSiを一瞥し、問いかける。「あんたに聞きたいのは、Caesar's Legionってのはエネルギー兵器だとか、そういうものを使ってくることはあるのかってこと。少なくともわたしは、見たことないんだけど」
 Cassの言うとおりで、Caesar's Legionの兵士たちはエネルギー兵器は使わない。基本的にはその身を武器としており、使っても実弾のライフルやカービン、あるいは爆弾を使う程度だ。これはCaesarの方針と関係があるらしいので、Legionがほかの集団に見せかけようと偽装のためにエネルギー兵器を使ったということもありえない。
「成る程、やっぱりな」とCassは吐き捨てるように言う。「隊商が襲われるってのは、わたしのキャラバンが初めてってわけじゃない」
「そりゃそうだろう。戦前じゃないんだぞ」
「そういう意味じゃなくって、このNew Vegas周辺で、積荷とかが灰になって、ってこと。数ヶ月前なんだけど、同じように何もかもが灰になったキャラバンがあるの。お願いがある。その調査を、手伝って」


 ちょっと作戦会議させろ、と言って、SiはCassから離れる。
「どう思う?」と問いかけるのは、勿論Cassに対してではない。
「エネルギー兵器で人を襲うって、あんまり聞かないよね」とSumikaが応じる。「けっこう高価だし、普通のRaiderは使わないはずだけど………」
「そういう意味じゃねぇ。あいつの頼みをどうするかって話だ」
「どうするかって……、SiはCassのお願いをきく代わりに、買収に踏み切らせたんじゃないの? だったら手伝ってあげないと」とSumikaは事も無げに言った。「戦うってわけじゃあないし、とりあえずの調査だったら良いんじゃないの? 隊商の人が襲われるっていうのも気分が良くないしさ。わたしの目だったら、ふつうに調査しているだけじゃあ解らないことでも解るかも」

 彼女がそう言うのであれば、Siとしては言うことを聞かざるをえない。基本的に、主はSumikaであり、Siはそれに従属しているようなものなのだ。



 Mojave Wasteland北西部、Jacobs Townへ向かう道中に、その事件現場はあった。こちらはCassidy Caravanとは違い、誰も片付ける人間がいなかったのか、襲撃現場がほとんど手付かずのままで残されていた。
Plasma Rifleが落ちてる……」とSumikaが早速、積荷の影に落ちていた銃を見つける。「やっぱりCaesar's Legionじゃないね。Brotherhood of Steelとかかな」



BOSなら大手柄だな」とSiは応じた。BOSとNCRは敵対している。
「でも、危険だよ。それに……、BOSとはなんか違う気がする。大きなキャラバンならともかく、Cassのとか、こういう小さいキャラバンを襲う理由がないよ。BOSって、基本的に狙うのは戦前の遺産だし……、Cassはそういう大きな荷物は扱ってなかったみたいだし、このキャラバンもそんな感じがする。それに、よく考えてみればPlasma Rifleなんて、BOSは使わないよ。もっと威力の高い武器を持ってるはずだし、それに、こんなところに武器を落としていくわけないと思う。たぶん、反撃されて落としたんだろうけど、素人だよ。薬莢も回収していないもの」
「ふむ」
 ひとまず、Plasma Rifleを見つけたことと、それを見てのRangerとしての感想を、Cassに伝える。
「Caesar's Legionじゃない、Raiderじゃない、BOSじゃない。じゃあ、なに?」と彼女は不機嫌そうな顔で応じる。
「知らねぇよ。エネルギー兵器を扱ってる、あんたのような小さいキャラバンを襲う理由があるような、素人の集団だ」
 Cassの表情が変わる。何かに気付いた様子であるが、思い当たるところがあるのか。
 なんにしても、Siの仕事は終わりだ。ここからなら、Stripも近い。NCR大使館で待機することにしよう。そんなふうに思っているSiのコートをCassが掴む。
「つい最近、もうひとつ隊商が襲われるって事件があったんだけど、そこも調査してくれる?」
「なんでだよ」
「もののついで。すぐ近くだから、良いでしょ?」
「やだ」
「すぐ近くだから」
 と引き摺られて辿り着いた場所は、決して近場ではなく、New Vegasから南東のだいぶん離れた場所であった。辺りは既に暗く、調査どころではない気がしたが、もはや抵抗しても無駄そうだったので、


「Si、ここに人が倒れてる」
 と、早速夜でも遠距離でなければ目端が利くSumikaが言った。
 近づいてみると、倒れているのは下着以外は何も身に着けていない、髪の短い黒人の男であった。腐敗がだいぶん進んでおり、一日二日前に殺されたわけではないことが解る。野生動物に食い散らかされなかったのは幸運といえるだろう。
身包み剥がされた感じだな。商人か? 逃げたけど、殺されたとか」
「違うと思う。エネルギー兵器の傷じゃないよ、これ。実弾で撃たれてる。それに、たぶん、身包み剥がされたのは、死んでだいぶ経ったあとじゃあないかな」Sumikaが考えるような口調で言う。「隊商仲間だったら、Cassが判ると思うから、訊いてみれば?」


 その死体を見た瞬間、Cassの表情が一変した。ライフルを死体の腐った頭部へ向けて撃ち放つ。
「やっぱり、そうか。襲撃の糸を引いてたのは、Crimson CaravanVan Graffだ」


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