かくもあらねば/27/04

あそこまで頭が固いなんて思わなかった………」
 とElder McNamaraとの会談を終えたVeronicaが息を吐く。このところ多くなった、深い溜め息である。
 VeronicaとElderの交渉は決裂した。Veronicaは衛星兵器を使い勝手としては悪いながら、戦前の遺産としていまもなお稼動し続け、圧倒的な威力を持っている兵器を見せ、外との交流の大事さを主張したようだったが、Elderは距離計をあくまで技術の粋としてしか見ず、両者の主張は平行線だった。

「まだ続けるの?」
 とkutoは言った。数日前まで、Veronicaが言っていた言葉である。
「やめる」とVeronicaは即答した。
「あ、そう。やめてどうするの?」
「Followers of the Apocalypseになる」とまたしてもVeronicaは即答であった。「だって、もう、やだ、こんなの。人前でさ、BOSです、なんて言える? ただのオタク集団じゃん、なんて馬鹿にされるのが精々だよ。それに比べれば、Followers of the Apocalypseのかっこいいこと。技術をちゃんと人のために役立ててんだもんね。雲泥の差だよ」

 どうやらVeronicaは本気らしい。これは止めることはないな、とKutoは判断する。
 しかしBOSのバンカーを出たところで四人のBOSが待ち構えており、彼女は自身の判断を後悔した。


「Veronica。おまえとElderのやり取りを聞いた」とリーダー格らしきBOSの男が銃を構えて言う。「おまえの思想は危険だ」
 何が悪いかといえば、遮蔽物が何も無いことである。Veronicaなら、この4人くらいはPower Fistだけで薙ぎ倒すだろうが、その間に一度も銃撃を喰らわないということはありえないだろう。Veronicaは避けられるのだろうが、Kutoにそんな芸当は無理だ。流れ弾でも当たれば、蒸発してしまう。
 咄嗟に距離計を構えかけたが、一日一回しか使えないと言われたことを思い出す。既にFreesideで使ってしまっている。

 戦うことも逃げることもできない。
 となればできることはひとつしかない。KutoはVeronicaの前に進み出て言った。
「みなさん、聞いてください。Veronicaはいま、生理中なんです」
 BOSの男たちがどよめく。背後で「あ?」という不機嫌そうなVeronicaの声が聞こえたが、気にしないことにする。
「生理中だと、どうなんだ?」と代表格らしいBOSの男がおずおずとした調子で尋ねる。
「不安定になります。Veronicaは、ただでさえ多感なんです。そんな彼女が生理になってみなさい、怒りっぽくなって、Elderと口喧嘩くらいは日常茶飯事になってしまいます」
「そういうものか?」
「そういうものです」
 背後から怒気を感じる。BOSに撃たれる前に、背後から殴り倒されて殺されるかもしれない。
「あの……」とBOSのうちのひとり、声の調子からすると随分と若そうな男が手を挙げた。「ぼくの彼女がこの前デート中に急に怒り出して帰っちゃったのも、生理中だったからなんでしょうか?」
「たぶん、そうですね」
「おれの同僚の子も、そういえばふたりで残業してたら急に……」とやはりひとりのBOSが言う。
「生理中だったんでしょうね。ご愁傷さまです」
「そういえば、おれも……」とリーダー格の男が言う。「かあちゃんや娘が冷たいんだが、あれも生理中だったせいなのか………?」
「そうでしょうね。女性にはよくあることです」
「そうか………」

Challenge: Speech≧95→SUCCEEDED

 BOSたちはバンカーに戻っていった。


BOSが阿呆の集まりだってことを再確認した」とVeronicaがあきれ返った表情で言った。「あとあんたも
「え? そう? 的確なコメントだったと思うけど………」
「あのねぇ……」Veronicaは語気荒く何か言いかけて、諦めたように首を振る。「ああ、もういいや。とりあえず、Followers of the Apocalypseの人とコネクションが欲しいんだけど……、何処に行けば会えるのか知ってる?」


「偉そうにしておいて、最後は人頼みなんだ
「訊いただけ。期待してない。ああ、もう」とりあえず適当に探してみるか、とVeronicaは踵を返す。
「基地みたいなところだったら知ってるんだけどな。前にお手伝いしたときに教えてもらったことがあるから」
「え?」とVeronicaはもう一度半回転してKutoに向き直った。「ほんと?」
「わたしが嘘吐くように見える?」
「そういうことを言うから、すごく信用できない」
 そんなふうに言われてしまったが、Followers of the Apocalypseの基地を知っているというのは本当で、これは以前にStripでEmily OrtalというFollosers of the Apocalypseの医者を助けたことがあったためだ。


「え? なに、ほんとなの?」とVeronicaは驚いた表情になる。「どこ? 教えて」
「そうやってすぐ厚かましくなるなぁ」

 VeronicaとKutoが出会った188 Trading Postから僅かに北西に進んだところにある掘っ立て小屋は、明確な目的を持つ人間以外には、ただの襤褸小屋にしか見えないだろう。だがそここそが、Followers of the Apocalypseの前線基地である。


 Veronicaを先に立たせて小屋の中に入る。小さな部屋の中、数人の男女が忙しそうに犇いている。受付にいたのは若い黒髪の女性だ。
「あー、あの、すいません」
 とVeronicaが遠慮がちに声をかける。Kutoに声をかけたときとは雲泥の差で、どうやら緊張しているらしい。
「はいはい、ちょっと待ってね」と受付の女性は机の上の書類を手早く纏めながら応じる。「えっと……、ご用件は?」
「BOSのScribeなんですが、Followers of the Apocalypseに入りたいんですけど」
「へ?」と奇矯な声をあげて受付の女性が顔を上げる。「BOSって……、Brotherhood of Steel? 冗談、じゃあないみたいね。Power Armor着てるし……。ほんと、珍しい


「あの、BOSだと駄目ですか?」
「そんなことないよ。うちは手伝ってくれる意思さえあれば、誰でも歓迎だから。お給料は安いけど」
 受付の女性はAlvarezと名乗り、BOSのScribeなら心強いと笑顔で応じた。どうやら、BOSから送り込まれたスパイではないかだとか、そんなふうに疑うつもりはないらしい。
「そちらの方も?」
 とAlvarez女史はKutoに水を向ける。
「あ、いや、わたしはただの付き添いで……」
「あら、そう。じゃあ、Veronica」とAlevarez女史はVeronicaに視線を戻す。「Followersはあなたのことを歓迎します。ただSchiller医師が入会の手続きとかをやってるんだけど、今日は悪いことに留守にしてるんだよね。今日はもう遅いし、悪いけど明日、もう一度来てくれる?」

 はい、とVeronicaが元気良く頷いたのは既に昨日のことである。
 Veronicaは荷物を取りに一度BOSのバンカーに戻った。Kutoはといえば、その間独自に行動していた。待ち合わせをしたKutoとVeronicaがFollowersの小屋の中で見たのは、物言わぬ死体の群れ。



「嘘………」
 Alevarez女史の死体に取りすがって、呆然とVeronicaが呟く。嘘、嘘、こんなのって、嘘、と。
 だが嘘ではない。みな、死んだ。Veronicaのせいで、罪もないFollowersが死んだ。
 さあVeronicaよ、復讐をするがいい

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