かくもあらねば/32/08
Cecilia
Lv. 9
S/P/E/C/I/A/L=4/10/4/5/8/6/3
Trait: Logan's Loophole, Wild Wasteland
Tag: E. Weapons, Science, Survival
Skill:
[S] M.Weapon=20
[P] E.Weapon=58, Explosives=25, Lockpick=50
[E] Survival=45, Unarmed=12
[C] Barter=14, Speech=14
[I] Medicine=35, Repair=20, Science=60
[A] Guns=16, Sneak=16
Perk:
[P] Run'n Gun
[E] Travel Light
[I] Comprehension, Swift Learner
[Other] Brainless, Heartless, Spineless
Equipment: Sonic Emitter, X-2 Antenna, Patient Gown
暖かい。
「こらっ……、もうっ、やめて」
思わずくすくすと声が漏れてしまう。Ceciliaは、己がBig Mtに来て以来初めて触れた暖かなもの、犬の身体を押した。犬はその手に反応し、次にはぺろぺろと舐めてきた。それが温かく、そしてくすぐったい。
犬とはいっても、頭部の半球状の硝子ドームには脳が見えているし、手足や胴体は機械化がなされたCyber Dogだ。しかしそのCyber Dog、CeciliaがRoxieと名付けたその犬は、ほかの個体とは違ってCeciliaを襲ったりはしなかった。
「きっと生まれたばかりだからだ」
そして作り出したのは、Ceciliaだ。
Roxieが生まれた経緯はこうだ。X-8での最初のテストを終えたCeciliaは、あるホロテープを発見していた。
(Dog and Robot splicing data?)
犬とロボットの合成データと書かれたホロテープの内容が如何なるものなのか、Ceciliaには想像が付かなかった。いや、考えるのを拒否していたのかもしれない。まさか読んで字の如くの意味だとは思わなかったのだ。
X-8に入ってすぐ左手の部屋で、そのホロテープを挿入する場所があった。データを入れると、すぐさま実験場と思しき奥の部屋の上部ハッチから、犬とロボットが降ってきた。生きた個体だ。何が起きているのか解らぬ2個体は、その次に巻き起こった電流と光の奔流の中に呑まれた。何も見えなくなった。
そして次の瞬間には犬とロボットが消え、このRoxieが尻尾を振っていた。
犬と機械の合成。
「生体実験」
ホロテープに収められていたデータは、まさしくタイトルに篭められたそのものの合成データだった。酷すぎる。こんな、生命を弄ぶような行為。Ceciliaは膝から力が抜けるのを感じた。
確かに生体実験はなくてはならないのだろう。ああ、そうなのだ。薬ひとつ作るにしても、身体を治すために臓器の役割を知るにしても、実物の実験材料がなくては、何もできない。
だがこのBig MTで行われている行為は、ただの遊びだ。それは繁茂しているLobotomiteやCyber Dogを見れば解る。子どもが玩具で遊ぶように新たな生き物を作り、飽きたら放置して、それを繰り返してきたのだ。
もう駄目だと思った。こんな世界で生きていけはしないと思った。
だが生まれたてのCyber Dogがいつの間にかCeciliaの傍に擦り寄ってきていて、その頬を舐めていた。
自分がなぜ生まれたのか、どういった生き物なのかさえ解っていない愚かな犬っころが、自分を慰めてくれた。それがCeciliaには、ただただ嬉しかった。
「ありがとう、Roxie」
それは口からついて出てきた名前だった。
しかし犬はぱたぱたと尾を振って喜んだからには、きっとその名が気に入ったのだろう。だから、ああ、この子はRoxieなのだ。いまのCeciliaの、唯一の友なのだ。
(もしかしてわたし、昔犬を飼ってたのかなぁ………)
Roxieの黒い毛を撫でながら、そんなことを思う。Roxieという名は、口をついて出てきたわけだが、何か聞き覚えがあるような気もする。Roxieという名そのものだったかどうかは覚えていないが、それに近い名前の犬が身近にいたような気もする。ちょうど、そう、こんな大きさの犬だった。
何はともあれ、Roxieのおかげで元気が湧いてきた。まだまだ先行きは不安だし、何もかもが覚束ないけれど、希望はあるし、友だちがいる。それはとても素晴らしいことだ。前へ歩けるだけの理由になることだ。
だがこれから為さなければならないことは、Roxieの存在を考えると、辛いことであった。
CeciliaはX-8でSonic Emitterのアップグレードを行わないといけない。それはDr. Mobiusがいる不可侵領域にある障壁を取り除くために必要なのだという。だがそのアップグレードのために必要な設計図は、どうやらGabeという犬が持っている可能性があるのだという。そしてそのGabeはThink Tankの科学者、Borousが飼っていた犬なのだという。
(いまはサイボーグ化しているっていうけど………)
Borousは厭な人だが、だからって、ほかの犬と同じように簡単には殺せない。いや、ほかの犬たちとて、できるだけ殺したくないのだ。
だが彼らはCeciliaを見つけるや否や、死ぬまで追いかけることを止めない。だからX-2 Antennaを振るう。だからSonic Emitterを撃つ。
それは、そう、仕方がない。相手のほうからやって来るのだから。少なくとも、そんなふうに納得することができる。
だがGabeに関しては、X-8のテストの場にいる彼のところに、こちらから出向かなくてはいけないのだ。相手がCyber Dogとなれば、まず間違いなく襲ってくるだろう。Roxieのようにはいかない。必ず襲い掛かってくるのだから、それを打ち倒さなくてはいけないのだ。
そんなふうに葛藤していられるうちは幸せだった。
「おっきすぎるよ………」
それがX-8のCyber Dog Guard Testの場でGabeと対面したCeciliaの口から漏れた正直な感想だった。
体高だけでCecilia以上あるそのCyber Dogは、ぱくと開かれたその大口からエネルギー波を射出してきた。咄嗟に頭を下げて避けたものの、そのあとが続かない。こんな巨体に対して、いったい何が効くのだろう。単なる犬ではない、生物兵器なのだ。
身体が竦んで動かぬCeciliaの前に、一匹の犬が躍り出た。
「Roxie、駄目!」
Ceciliaの制止も聞かず、Roxieは己より遥かに大きなGabeの前足に齧り付く。
Gabeは突き立てられた牙に痛みを感じるふうでもなく、ただ邪魔者を払うかのように足を振った。Roxieが飛んでいく。馬鹿な犬が。生まれたてで、己の存在意義さえ判らぬ犬が。
「それはわたしも同じだ」
そのCeciliaを、ただ純朴にRoxieは慕ってくれた。たぶん、ただ生まれたときに目の前にいたからなのだ。母親かきょうだいとでも思ったのかもしれない。守ってくれた。己の為すべきことを知っていた。
CeciliaはX-2 Antennaを振るった。巨大なAntennaの先が、Gabeの半球状のドームに覆われた脳にAntennaがぶち当たる。背骨に置き換えられた数々の戦前遺産の結晶が、Cecliaに強化プラスチックのドームをぶち破る膂力を与えた。
Perk: Spineless (STR+1、DT+1)
脳を周辺に巻き散らかして倒れるGabeを背にして、CeciliaはRoxieの様子を確かめた。振り払われて、岩に身体を叩きつけられたようだが、それだけだ。意識はしっかりしているようで、Ceciliaが抱き上げると、顔を舐めてきた。
「Roxie……、良かった………」
思わず涙が零れた。
『-Gabe!-』
とX-8の通信設備に割り込んできたのは、Dr. Borousの声だった。どうやらこの場の出来事を見ていたらしい。
CeciliaはRoxieとともに、Gabeの様子を確かめる。間違いなく死んでいる。Dr. Borousの沈痛な声を聞きながら、あの冷血な科学者にも情というものがあるのか、などと考えていたCeciliaの耳に、何か規則正しい電子音のようなものが聞こえてきた。
『-Lobotomite! GabeにはAtomic Coreが埋め込まれている。爆発するぞ!-』
『Borous? どうしてAtomic Coreなんかを……』
Borousの声にDr. Daraが反応する。それに応じたのはBorousではなかった。
『爆発するぞ! このMobiusの勝利だ!』
さらに割り込んできたのはThink Tankの科学者たちのものではない、老いた男の声だった。Dr. Mobiusだ。
「爆発って………」
躊躇している暇はない。CeciliaはRoxieの胴体を両手で抱えると、小高い盛り土の影に身を潜める。こんな土壁で爆発から逃れられるのかどうか判らないが、カウントダウンが正しいならば、建物から出るほどの余裕はない。
Mobiusの言葉は嘘ではなかった。Gabeの身体が爆発四散する。
『-Gabe………-』
Dr. Borousが呆然と呟くのが聞こえたが、彼の心を心配してやる余裕はない。Dr. Mobiusが攻撃を仕掛けてきたのは判っている。Ceciliaが生きていることを知れば、さらに追跡者を仕向けてくるだろう。その前にと、Sonic Emitterのアップグレードのための設計図を探す。
Gabeの身体は一部が接続できる強化パーツのようになっており、Ceciliaはその身体からLAERというエネルギー兵器を取り外すことができた。
Added: LAER
しかし設計図の類は見付からない。まさか、このテスト会場に、犬らしく埋めてしまったのだろうか。そんなふうに考えていたとき、Roxieが吼えた。彼は土を掘っていた。
「そこなの?」
と問うて見ると、もう一度吼える。まさかCeciliaの意図を理解しているとは思えず、しかしこの場所に何かが埋まっているのは確かなようで、それならばとCeciliaはShavelで土を掘り返した。
Added: Audio Sample - Gabriel's Bark
「あった………」
宝物を隠していたのだろう、Gabeの埋めた穴を掘り返して、Audio Sampleを発見する。
Ceciliaの感動が伝わったのか、嬉しそうに鳴くRoxieを、「偉いね」と褒めてやった。
『Audio Sampleを手に入れたか……』と、またしてもDr. Mobiusの声が響く。『まぁ、良い。どうせおまえはここで死ぬのだ。わしの可愛いRoboscorpionの手によってなぁ!』
Mobiusの声が聞こえなくなる前に、テスト部屋の巨大な鋼鉄扉が開く。現れたのは大量のRoboscorpionだ。
「Roxie、逃げよう!」
CeciliaはX-2 AntennaでRoboscorpionを蹴散らしながら、出口へ向けて走った。
テスト部屋を出た先も、Roboscorpionで繁茂していた。ビームが飛び交い、少しでも油断すれば接近して、尾の一撃を浴びせかけてくる。Ceciliaはだんだんと追い詰められていった。
Ceciliaの前に躍り出たのはRoxieだった。彼は接近しつつRoboscorpionに噛み付くや、首の力だけで壁にた叩き付けた。
何匹も何匹も、Roboscorpionは止め処なくやってきた。Roxieは身体を、耳を、牙をぼろぼろにしながらも戦った。牙がRoboscorpionの表皮から抜けなくなるまで。
「Roxie………」
Roboscopionが自爆、四散する。その爆破を浴びて、噛み付いたままのRoxieも無事ではすまなかった。
爆発で黒焦げになり、目も爛れて見えなくなっているにも関わらず、RoxieはCeciliaが近づくと小さく鳴いて、その手を舐めた。
「ありがとう………」
Roxieは、たぶん何も考えていなかった。ただ敵意を発した相手に噛み付いていっただけだ。
それでもCeciliaは、礼を言った。彼に理解できぬ言葉でしか、この気持ちを形にはできなかった。
「ありがとね、Roxie」
とっても馬鹿で、とっても無知で、それでいて、ありがとう、優しい子。
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