かくもあらねば/32/15
Cecilia
Lv. 20
S/P/E/C/I/A/L=5/10/4/5/8/6/3
Trait: Logan's Loophole, Wild Wasteland
Tag: E. Weapons, Science, Survival
Skill:
[S] M.Weapon=40
[P] E.Weapon=88, Explosives=30, Lockpick=50
[E] Survival=50, Unarmed=12
[C] Barter=20, Speech=50
[I] Medicine=50, Repair=40, Science=75
[A] Guns=16, Sneak=30
Perk:
[S] Weapon Handling
[P] Plasma Spaz, Run'n Gun, Light Step
[E] Travel Light
[I] Comprehension, Swift Learner, Robotics Expert
[Other] Brainless, Heartless, Spineless, Intense Training, Explorer
Equipment: Sonic Emitter, X-2 Antenna, Elijah's Jury-Rideged Tesla Cannon, Stealth Suit Mk2
『残念だが……、脳がなければ、ここから出ることはできない』
皺だらけの老人を連想させるDr. Mobiusの言葉は、Ceciliaに何の衝撃も与えなかった。予想できていたことだ。
「やっぱり、そうですか………」
『すまないが、こればかりはどうすることもできない』とMobiusは力なく言った。『わしの脳をくれてやれるなら、そうするんだが……、残念ながら、わしのはご存知の通り、Biogelの劣化とPychoとMentasの中毒のせいでぼろぼろだ。でなくても、経年劣化が酷い。わしのでなくとも、Think Tankの科学者たちのものも駄目だろう。古すぎて、Biogelから出したら使い物にならん』
Mobiusは、Robo-scorpionやThink Tankの科学者たちの話を通した人物像とは、まるきり別物に感じられた。
『想像していたよりも素敵だっただろう?』
全体的に老朽化し、右側のモニタが完全に破損している以外はThink Tankの科学者たちと全く同じサイボーグとなっていた穏やかな老人は、そんなふうに冗談めかしたものだ。
MobiusはThink Tankの科学者、Dr. Kleinたちと戦い続けていた。世界を再度滅ぼしかねない彼らを、彼らの技術を、外に洩らさぬようにするために。
『そんなにかっこいいもんでもないがね』
彼は悪の科学者Dr. Mobiusの像を作り上げ、その尖兵であるRobo-scorpionを作った。外の世界に出るためには心臓と脊髄、そして彼らのものではない脳を必要とさせた。ちょうど、この不可侵領域のように。
彼がこのBig MTを閉鎖してから、危険な改造生物やロボトミー技術を外世界に持ち込ませないことは、いちおう成功していた。Ceciliaがやって来るまでは。
自分の脳と交渉していたKutoが戻ってくる。
「どうだった?」
とCeciliaが尋ねると、Kutoは肩を竦めて首を振った。「ぜんぜん駄目。自分の脳があんなに意固地だなんて思わなかった」
『ああ、セクシーなおねえちゃんのほうか』とMobiusが言う。『そうか、駄目だったか。悪いね、左側に回ってもらわないと見えないんだ……。しかし、あんたの脳は素晴らしいな。あんたはBig MTが作られて以来、行われてきたロボトミー手術の、唯一の成功例だ。わしの脳はといえば、床と壁に公式を書き出しても足りないくらいでね。正直言って、あんたの脳が羨ましいよ』
「そりゃどうも」とKutoは気のない口調で応じる。「褒めるなら、あの脳にどうぞ。わたしは褒められても嬉しくないんで」
彼はCeciliaとKutoがこの不可侵領域の最深部にやって来た理由を完全に把握していた。そして、Ceciliaの生い立ちも。
CeciliaはKutoよりも何年も前に、Think Tankの科学者たちに拾われていたらしい。
Enclaveによって無理矢理改造されたその身体は、既に限界が来ていた。そのCeciliaを拾ったのがDr. Kleinたちが外の世界に派遣していた衛星だ。彼らは半端な迷彩効果しか保てなくなっていたCeciliaを研究し、Ceciliaの人間大の肉体を作り上げ、その中にCeciliaを埋め込んだ。それは人間の形をしているだけで、人間の身体ではない。人間は複雑だ。いや、人間に限らず、あらゆる生物は複雑なメカニズムで動いている。だから彼らが作り上げたそれは、肉と骨とでできた模造品だった。
初めはLobotomite以下の機能しか果たさないCeciliaだったが、Big Mtの鉄塔にCeciliaの生理機能をサポートする装置を取り付け、さらに名前をつけることで、自我をもつようになった。おかげでKleinらの思い通りにはならなくなったわけだが。
Think TankにKutoが攫われ、ロボトミーした彼女の脳が奪われてから、KleinたちはCeciliaを利用してKutoの肉体を取り戻すことにした。何せ、Ceciliaの身体は取替えがきく。いままで何度もCeciliaが機能を停止したとき、Kleinたちはその中身だけ回収させて、新しい身体にCeciliaを移していた。中身さえ無事なら、外部パーツは取替えがきく。そんなCeciliaに、己の脳を回収するという偽りの目的を与え、KleinたちはKutoの脳を得ようとしてきた。
『あんたは脳がなくても大丈夫そうだが、それでも個人的には持っていってもらいたいんだよなぁ……』とMobiusは言う。『あいつらに奪われたくない』
彼の言う、あいつら、とはThink Tankの科学者たちのことだ。彼らは心臓と脊髄を持たず、また彼らの脳ではBig MTを脱出できないようにMobiusが閉鎖した。だがX-2 AntennaやKutoの脳を手に入れれば、彼は外の世界に出て行く。そして数多くの改造生物や殺戮兵器が蔓延することになる。
「Kuto、どうにかして脳を取り戻せないの? 無理矢理、持って帰るとか………」
「あいつが手術用のプロトコルを抱えてるみたいでね……。脳が同意してくれないと、Auto-Docで手術ができないっぽい」まぁ、とKutoは顎に手をやる。「作戦はないでもないけど」
「作戦?」
「それより、きみ自身のことは判ったの、Sissy?」
そんなKutoの問い掛けに、うん、と頷いてCeciliaは簡単に思い出したことやMobiusが語ってくれたことを話した。
「成る程、本当に妖精はいたってわけだ」
と話を聞き終えたKutoは言った。Ceciliaが首を傾げると、Kutoは説明する。
「いや、牧師さまにしか見えない妖精さんのことは聞いてたからね。Sierra Madreのときはそれでやられたし……、なんかのトリックかと思ってたんだけど」
「牧師さま………」
そうだ、とCeciliaは思い出す。Ceciliaとともにいた男は、南部NCRからNCRに出向していたときには巡回牧師の真似事なんかもやっていた。そのほうが、人に紛れやすいから、なんて言って。
「Kuto、その牧師さまの……、わたしと一緒にいた人の名前、覚えてる?」
「え? なんで?」
「わたし自身のほんとの名前もそうだけど……、一緒にいた、あの人の名前が思い出せないの。Kutoは、覚えてるでしょ? 仲良くはなかったけど、いちおう、Good Springからの知り合いなんだし………」
「あー………」
ついとKutoは目を逸らす。
「もしかして、覚えてない?」
「ごめん、忘れた」Kutoは両手を合わせる。「っていうか、もしかすると、聞いてないかもしんないなぁ、って………。ほんと、ごめん」
「そう……」
べつに、いいや、とCeciliaは思った。どうせCeciliaはこのBig Mtから出られないのだから、記憶の中におぼろげに残るあの男にも、もう会うことは叶わないのだから。
「どうして?」だって、とKutoは言う。「せっかく、人間の身体に戻れたんでしょ? だったら、会いに行ったほうが良いんじゃないの?」
「人間じゃないんだよ」
そう、Ceciliaの身体は人間のそれではない。肉と骨と血で作り上げた、模造品だ。だから替えがきく。だからBig Mtの中でしか生きられない。脳も、心臓も、脊髄もない。だからBig Mtからは出られない。
「でも、X-2 Antennaとかがあれば、脳の代わりになるんだよね?」とKutoは言い返す。「じゃあ………」
『確かにX-2 Antennaを使えば、Big Mtの装置は騙せる。それは、この不可侵領域で実証済みだ』とMobiusが説明する。『というより、Think Tankとここの妨害装置の機能を停止すれば、X-2 Antennaすら必要ない。だがそれが限界だ。彼女の身体は、特殊だ。見た目は人間のそれだが、実際は違う。いま、Big MTにいるきみの身体は、きみの頭の中のTesla Coilは、目には見えないだろうが、Big MT中に埋め込まれ居る数々の外部装置に支えられている。X-2 Antennaはその身体を保つような生理学的な機能はない』
「もうちょっと解りやすく言ってください」
『人間は脳だけで生きているわけではないし、脳だけで考えられるわけじゃない。身体を通したあらゆる経験を蓄積し、解釈することで経験を得て、理解に通じている。それを可能にしているのは、脳だ。脳はすべてを司どるわけではにが、すべてが一度は経由する、中継地点ではある。そして彼女の場合は、脳の代わりをTesla Coilが果たしているわけだが、Tesla Coil単体では脳という非常に高度なコンピュータの代わりは勤まらない。だからBig MT中に置かれた鉄塔が、その処理を負担している』
『そうだ。それはTesla Coilの処理系に割り込みをかけるからだが、彼女の場合は少々違う。鉄塔からの補助処理が行われなくなるため、Tesla Coilが生理機能を維持できなくなる。だから彼女の場合は、Big Mtの敷地から出たところで、身体機能を保持できなくなるだろう』
「ふむ……」
Kutoは顎に手をやり、考える様子を見せる。
「だから、わたしは無理みたい。だから、もしKutoがあの人に会ったら………」
「いや、でも」とKutoはCeciliaの言葉を無視してMobiusに言う。「さっき、わたしの場合は脳がなくても大丈夫そうとか言ってませんでした?」
『それは、きみが完全な人間で、人間として生きた経験があるからだ。さっきも言ったとおり、人間は脳だけで生きているわけではない。経験が、人間を作る。そしてきみは人間として生きた経歴があるから、Tesla Coilで十分に生きていける。一方で彼女の場合は、コンピュータにたとえれば、演算する装置そのものであるTesla Coilaはあったとしても、それを補助するドライバがないようなものだ』
「わたしが脳がなくても大丈夫っていうのは、ほんとなんですか?」
『それは間違いない。現状でも、鉄塔からきみのTesla Coilへの補助演算は行われていないからな。むしろ、物理的な脳は怪我をしたり病気になったりと、単なる重荷になるかもしれないね』
「だったら、わたしの脳をこの子にあげれば、それでどうにかなりませんか?」
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