アメリカか死か/14/03 Operation: Anchorage -3
銃を撃っても弾が当たらない。そんなときにどうすれば良いのか。
(よし、無理だな)
Lynnは早々に諦めた。自分は射撃が得意ではないのだから、こんなことをやっても無駄だ。
そういうわけで、銃を捨てて拳で殴り進んでいくことにした。
幸い後半の作戦は装備の選択権があり、近接戦闘用の装備にPower Fistがあったので楽に作戦を進めることができた。
中国軍のJingwei将軍を倒し、すべての作戦が終了する。目の前が真っ白になり、気が付いたときにはLynnは極寒のアンカレッジではなく、Capital WastelandにあるBOS Outcastの前線基地にいた。どうやらVRシミュレーションは無事に終わったらしい。
近くで機械の様子を見ていたらしいOlinがシミュレーションを終了したLynnを見とめ、McGrawを呼びに行くと言って出ていく。
「なんとか終わったか………」
いろいろとリアルな訓練だった。痛みも、寒さも、VRだというのに、その中で死ねば本当に死んでしまうのではないかと思うほど。
銃に慣れていないLynnには辛い訓練だったが、Ritaなら大丈夫だろう。彼女もPower Armorを着られるに越したことがないので、この訓練を受けようとするだろうが、その前に彼女には相談したいことがあった。VR作戦中に遭遇した、ある敵のことだ。あとで時間を作りたい。
そんなことを考えながら待っていると、笑顔のMcGrawがやってきた。
「ああ、ご苦労だったね。きみならやれると信じていたよ。さぁ、武器庫を開けてくれ。好きなものを持っていっていいよ」
と促され、頷いて彼の先導されるがままについていく。武器庫への通路はOlinやSiblyや、ほかのOutcastたちによって固められていて、物々しい。余程この中には重要な物が入っているらしい。
しかしその中に、Ritaの顔が無かった。
「Ritaは?」
と尋ねれば、McGrawは立ち止まり、振り向いてから、またすぐに歩みを再開した。「彼女はいつの間にか姿を隠していてね……、逃げたのかもしれない」
「逃げた?」
「彼女はわれわれに怯えていたようだからね」
McGrawの表情は、あくまで笑顔で、しかしLynnはその後ろに赤黒いものを見た。
(まさかこいつら、Ritaを………)
殺したのか。
いや、違う。Lynnがそう判断を変えたのは、単なる希望観測的願望というわけではなかった。
武器庫の通路に佇むPower ArmorのOutcastたちは、明らかに周囲を警戒していた。Lynnに対して、ではない。ここにはいない存在に対して。地下施設なのだから、その相手はSuper Mutantであるはずがない。ならばそれは、Ritaだ。
彼女が何か仕出かしたことは確かだが、Power Armorを着込んだ男たちがこれだけ警戒しているのだから、まだ無事だろう。
「どうした? さぁ、早く開けてくれ」
McGrawが笑顔で詰め寄る。
武器庫を開くというのは、彼らの思惑通りにするということだ。気が進まなかったが、しかし銃を突きつけられているに等しいLynnには、今のところ他に選択肢が無い。武器庫脇の端末と、腕のPip-Boyを接続すると、承認の文字とともに武器庫の扉が開いた。
「おぉ……、これが特殊なPower Armorか。素晴らしい。完全な状態だな」中に踏み込んだMcGrawが、武器庫中央に鎮座しているPower Armorを眺めて嘆息した。「Lynnと言ったか。武器の持ち出しを許可する。Olin、彼を手伝ってやれ。それと、備品のリストを作ってくれ。わたしはあれの捜索に戻る」
あれ、というのはRitaのことだろう。McGrawは武器庫から去っていく。
武器庫の中に入っていくOlinを見ながら、女性であり、Power Armorを着ていない彼女を人質に取って交渉をするのが無難だろうか、とLynnは迷っていた。
完全な状態のT-51 Power Armor、Chinese Stealth Suit、Shock Sword、Gauss Rifle、その他、様々な武器や弾薬。
想像していたよりも、素晴らしい備蓄だった。
(これだけあれば………)
BOSのLyonsとも対等以上に戦える。もうOutcastの立ち位置に甘んじることはない。これからは、こちらが正式なBOSを名乗ってやる。
だがその前に、対処しなければならないことがある。
(あの女………、あれを見たのか?)
Ritaという、金髪のインディアンの女。Lynnという白人の男のほうがVRシミュレータに入っている間に、彼女はOutcast基地内部を探索していたようだった。そして、見てはならないものを見た。
(男のほうが疑わないなら、そのまま武器でも持たせて返してやれば良し。女を探すようなら、殺す)
McGrawの決断は固まっていた。
VRシミュレータのある機械室内部を探していると、Sibleyがやって来た。
「Sibley、女は見つかったのか?」
「いや、まだだ。だが、先にこっちのほうを対処しようと思ってな」
と言うなり、SibleyはMinigunをMcGrawに向けて構えた。
彼が何を言っているのか、理解できなかった。
「何を……」
「いやぁ、長かったぜ。あんたの糞みたいな命令で動くのは。だがそれももう終わりだ。じゃあな、糞McGraw」
Sibleyの指がMinigunの引き金にかかった瞬間のことである。
「そんなことだろうと思った」
射撃音がした。
崩れ落ちるSibleyの背後に、自動拳銃を構えたRitaが立っていた。
「きさま……?」
「おいおい、ちょっと待ってくれ」とRitaは手を広げて見せた。「あんたのことを助けてやったんだ。銃を向けられる謂れはない」
反射的に武器に手を伸ばしかけたMcGrawは、確かめるようにRitaの顔を眺めまわした。
しばらく沈黙があったのち、彼は後ずさるように部屋を出ていこうとする。
「おまえを拘束する。おい、誰か! 誰か来い!」
「おい、そっちには行かないほうが………!」
Ritaが言い切る前に、McGrawは部屋を飛び出した。
その瞬間に、彼の首は通路側から撃ちだされたレーザー光によって切断された。
「言わんこっちゃない」
Ritaは呟くと、機械室の壁から通路の奥を覗く。Power Armorを着た男たちが、3人、こちらを警戒している。銃声がここから聞こえたと判断されたのでなければ、Ritaがここにいることは、まだばれてはいないはず。
(あいつは無事なんだろうな………)
心配なのはLynnのことだけだ。ぐずぐずしていると、彼を人質に使われてしまうだろう。
こちらから攻撃を仕掛けるしかないが、Power Armor複数人への攻撃となると、 M79 Grenade Launcherの40mm榴弾を使わざるを得ない。だがこれを使えば、Lynnへも被害が出るだろう。彼が適切に対処できなければ。
変身能力があるとはいえ、今までWastelandで生きてこれたのだ。彼の判断を信じるしかない。
「なんであんたはここに来た!?」
Ritaの声が響いた。
何処からそれが聞こえたのかは解らなかった。だが声が聞こえた瞬間、LynnはT-51と呼ばれていたPower Armorの陰へと跳んでいた。
爆発音が巻き起こる。もうもうと煙が巻き上がり、視界が悪くなる。この中では、レーザーも通らないはずだ。
ぐずぐずしている暇は無かった。爆発はRitaのグレネード・ランチャーによるものだろうが、この程度でPower Armorは破壊できない。LynnはT-51 Power Armorを手探りで着込む。
(動ける………)
確かにVRシミュレーションはトレーニング効果があったらしい。
Lynnはそのまま、煙の中に突っ込んだ。目の前に現れた赤いPower Armorを殴り倒す。射撃音が響く。拳銃とMinigun。
視界が晴れれば、立っていたのは煙で黒く汚れたRitaだけだった。傍には頭を撃ち抜かれたPower Armorがふたつ、転がっている。それと、こちらはMinigunを受けたらしい、Olinという女性も。Lynnが組み伏せた男も、Power Armorで増強された力で殴られたためか、絶命していた。
「済んだな」とRitaがLynnを一瞥して言った。「Power Armor、着られるようになったな。よくあんな下手糞な腕で、あのシミュレーションをクリアできたな」
「頑張ったので。で、きみのほうは、何か見つけたの?」
「ついてこい。わたしが見つけたもの……、こいつらが隠したがっていたものを見せる」
そう言うと、Ritaは通路に面した扉のひとつに近づく。どうやらその扉はロックされていたらしいが、Ritaが無理矢理鍵を抉じ開けたらしい。
扉の中の部屋には、椅子、注射器、ロープ、鋸、血痕、そして死体。
「そいつの名前は、Gary 23というらしい」とRitaが言った。
「23?」
「たぶん、仮称だろうな。理由は知らんが、そういう名前だってコンピュータに載ってた。Vault 108で発見されたらしい」
死体はVaultのJumpsuitを着ていて、背中には108の数字が印刷されていた。
Vaultの住人なのでPip-Boyを着けているはずの左腕は、存在していなかった。Ritaの言っていた通り、Outcastたちは無理矢理Pip-Boyを奪おうとして失敗したらしい。
「おかげで、座標もわかったよ」とRitaが言った。「次の目的地は、Vault 108だ」
(よし、無理だな)
Lynnは早々に諦めた。自分は射撃が得意ではないのだから、こんなことをやっても無駄だ。
そういうわけで、銃を捨てて拳で殴り進んでいくことにした。
幸い後半の作戦は装備の選択権があり、近接戦闘用の装備にPower Fistがあったので楽に作戦を進めることができた。
中国軍のJingwei将軍を倒し、すべての作戦が終了する。目の前が真っ白になり、気が付いたときにはLynnは極寒のアンカレッジではなく、Capital WastelandにあるBOS Outcastの前線基地にいた。どうやらVRシミュレーションは無事に終わったらしい。
近くで機械の様子を見ていたらしいOlinがシミュレーションを終了したLynnを見とめ、McGrawを呼びに行くと言って出ていく。
「なんとか終わったか………」
いろいろとリアルな訓練だった。痛みも、寒さも、VRだというのに、その中で死ねば本当に死んでしまうのではないかと思うほど。
銃に慣れていないLynnには辛い訓練だったが、Ritaなら大丈夫だろう。彼女もPower Armorを着られるに越したことがないので、この訓練を受けようとするだろうが、その前に彼女には相談したいことがあった。VR作戦中に遭遇した、ある敵のことだ。あとで時間を作りたい。
そんなことを考えながら待っていると、笑顔のMcGrawがやってきた。
「ああ、ご苦労だったね。きみならやれると信じていたよ。さぁ、武器庫を開けてくれ。好きなものを持っていっていいよ」
と促され、頷いて彼の先導されるがままについていく。武器庫への通路はOlinやSiblyや、ほかのOutcastたちによって固められていて、物々しい。余程この中には重要な物が入っているらしい。
しかしその中に、Ritaの顔が無かった。
「Ritaは?」
と尋ねれば、McGrawは立ち止まり、振り向いてから、またすぐに歩みを再開した。「彼女はいつの間にか姿を隠していてね……、逃げたのかもしれない」
「逃げた?」
「彼女はわれわれに怯えていたようだからね」
McGrawの表情は、あくまで笑顔で、しかしLynnはその後ろに赤黒いものを見た。
(まさかこいつら、Ritaを………)
殺したのか。
いや、違う。Lynnがそう判断を変えたのは、単なる希望観測的願望というわけではなかった。
武器庫の通路に佇むPower ArmorのOutcastたちは、明らかに周囲を警戒していた。Lynnに対して、ではない。ここにはいない存在に対して。地下施設なのだから、その相手はSuper Mutantであるはずがない。ならばそれは、Ritaだ。
彼女が何か仕出かしたことは確かだが、Power Armorを着込んだ男たちがこれだけ警戒しているのだから、まだ無事だろう。
「どうした? さぁ、早く開けてくれ」
McGrawが笑顔で詰め寄る。
武器庫を開くというのは、彼らの思惑通りにするということだ。気が進まなかったが、しかし銃を突きつけられているに等しいLynnには、今のところ他に選択肢が無い。武器庫脇の端末と、腕のPip-Boyを接続すると、承認の文字とともに武器庫の扉が開いた。
「おぉ……、これが特殊なPower Armorか。素晴らしい。完全な状態だな」中に踏み込んだMcGrawが、武器庫中央に鎮座しているPower Armorを眺めて嘆息した。「Lynnと言ったか。武器の持ち出しを許可する。Olin、彼を手伝ってやれ。それと、備品のリストを作ってくれ。わたしはあれの捜索に戻る」
あれ、というのはRitaのことだろう。McGrawは武器庫から去っていく。
武器庫の中に入っていくOlinを見ながら、女性であり、Power Armorを着ていない彼女を人質に取って交渉をするのが無難だろうか、とLynnは迷っていた。
*
完全な状態のT-51 Power Armor、Chinese Stealth Suit、Shock Sword、Gauss Rifle、その他、様々な武器や弾薬。
想像していたよりも、素晴らしい備蓄だった。
(これだけあれば………)
BOSのLyonsとも対等以上に戦える。もうOutcastの立ち位置に甘んじることはない。これからは、こちらが正式なBOSを名乗ってやる。
だがその前に、対処しなければならないことがある。
(あの女………、あれを見たのか?)
Ritaという、金髪のインディアンの女。Lynnという白人の男のほうがVRシミュレータに入っている間に、彼女はOutcast基地内部を探索していたようだった。そして、見てはならないものを見た。
(男のほうが疑わないなら、そのまま武器でも持たせて返してやれば良し。女を探すようなら、殺す)
McGrawの決断は固まっていた。
VRシミュレータのある機械室内部を探していると、Sibleyがやって来た。
「Sibley、女は見つかったのか?」
「いや、まだだ。だが、先にこっちのほうを対処しようと思ってな」
と言うなり、SibleyはMinigunをMcGrawに向けて構えた。
彼が何を言っているのか、理解できなかった。
「何を……」
「いやぁ、長かったぜ。あんたの糞みたいな命令で動くのは。だがそれももう終わりだ。じゃあな、糞McGraw」
Sibleyの指がMinigunの引き金にかかった瞬間のことである。
「そんなことだろうと思った」
射撃音がした。
崩れ落ちるSibleyの背後に、自動拳銃を構えたRitaが立っていた。
*
「きさま……?」
「おいおい、ちょっと待ってくれ」とRitaは手を広げて見せた。「あんたのことを助けてやったんだ。銃を向けられる謂れはない」
反射的に武器に手を伸ばしかけたMcGrawは、確かめるようにRitaの顔を眺めまわした。
しばらく沈黙があったのち、彼は後ずさるように部屋を出ていこうとする。
「おまえを拘束する。おい、誰か! 誰か来い!」
「おい、そっちには行かないほうが………!」
Ritaが言い切る前に、McGrawは部屋を飛び出した。
その瞬間に、彼の首は通路側から撃ちだされたレーザー光によって切断された。
「言わんこっちゃない」
Ritaは呟くと、機械室の壁から通路の奥を覗く。Power Armorを着た男たちが、3人、こちらを警戒している。銃声がここから聞こえたと判断されたのでなければ、Ritaがここにいることは、まだばれてはいないはず。
(あいつは無事なんだろうな………)
心配なのはLynnのことだけだ。ぐずぐずしていると、彼を人質に使われてしまうだろう。
こちらから攻撃を仕掛けるしかないが、Power Armor複数人への攻撃となると、 M79 Grenade Launcherの40mm榴弾を使わざるを得ない。だがこれを使えば、Lynnへも被害が出るだろう。彼が適切に対処できなければ。
変身能力があるとはいえ、今までWastelandで生きてこれたのだ。彼の判断を信じるしかない。
*
「なんであんたはここに来た!?」
Ritaの声が響いた。
何処からそれが聞こえたのかは解らなかった。だが声が聞こえた瞬間、LynnはT-51と呼ばれていたPower Armorの陰へと跳んでいた。
爆発音が巻き起こる。もうもうと煙が巻き上がり、視界が悪くなる。この中では、レーザーも通らないはずだ。
ぐずぐずしている暇は無かった。爆発はRitaのグレネード・ランチャーによるものだろうが、この程度でPower Armorは破壊できない。LynnはT-51 Power Armorを手探りで着込む。
(動ける………)
Perk: Power Armor Training (Basic)
確かにVRシミュレーションはトレーニング効果があったらしい。
Lynnはそのまま、煙の中に突っ込んだ。目の前に現れた赤いPower Armorを殴り倒す。射撃音が響く。拳銃とMinigun。
視界が晴れれば、立っていたのは煙で黒く汚れたRitaだけだった。傍には頭を撃ち抜かれたPower Armorがふたつ、転がっている。それと、こちらはMinigunを受けたらしい、Olinという女性も。Lynnが組み伏せた男も、Power Armorで増強された力で殴られたためか、絶命していた。
「済んだな」とRitaがLynnを一瞥して言った。「Power Armor、着られるようになったな。よくあんな下手糞な腕で、あのシミュレーションをクリアできたな」
「頑張ったので。で、きみのほうは、何か見つけたの?」
「ついてこい。わたしが見つけたもの……、こいつらが隠したがっていたものを見せる」
そう言うと、Ritaは通路に面した扉のひとつに近づく。どうやらその扉はロックされていたらしいが、Ritaが無理矢理鍵を抉じ開けたらしい。
Challenge: Lockpicking≧25 → SUCCEEDED
扉の中の部屋には、椅子、注射器、ロープ、鋸、血痕、そして死体。
「そいつの名前は、Gary 23というらしい」とRitaが言った。
「23?」
「たぶん、仮称だろうな。理由は知らんが、そういう名前だってコンピュータに載ってた。Vault 108で発見されたらしい」
死体はVaultのJumpsuitを着ていて、背中には108の数字が印刷されていた。
Vaultの住人なのでPip-Boyを着けているはずの左腕は、存在していなかった。Ritaの言っていた通り、Outcastたちは無理矢理Pip-Boyを奪おうとして失敗したらしい。
「おかげで、座標もわかったよ」とRitaが言った。「次の目的地は、Vault 108だ」
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