白かった。息も、景色も。
(寒いな………)
 装備は防寒を意識したものであろうはずなのに、これだけの寒さを感じる。そのあたりはリアルということか。
 旧世紀のアメリカ合衆国、その北西端であるアラスカ。その中の都市、アンカレッジ。Lynnはその場所に来ていた。


 ここまでの経緯は数分のことであった。
 BOSのOutcastであるDefender Morrillに指示を受け、LynnとRitaはOutcastの前線基地へ向かうエレベータを降りた。


 地下で出迎えたのはDefender Sibleyという坊主頭の男で、LynnとRitaを見るなり、「Morrillから報告は聞いてる。武器はホルスターに収めて、口を閉じたままついてこい」と一方的な口調で言ってきた。Ritaが相手に聞こえるように舌打ちしたのを覚えている。

 基地として使われている戦前の地下施設内部を先導され、案内されたのは赤毛を角刈りにした男のところだった。
「Morrillが言っていた子たちだね。いやぁ、まさしくわれわれが求めていた人材だ。しかも、一度にふたりも!」


 その男、Protector McGrawは、耳障りなくらい明るい声でRitaたちを出迎えた。いやぁ、しかし素晴らしいね、その腕のコンピュータは。Pip-Boyとか言ったっけ。Vaultの人間はみな付けているんだよね。しかし無理矢理外すと動作しなくなるし、困ったもんだなぁと思っていたんだ
「で?」
 あんたたちの要求はなんだ、とまくしたてるMcGrawに対してRitaが一言で問うた。

Challenge: Perception→SUCCEEDED

「話が早いらしいね」とMcGrawの目が細められる。「われわれはこの基地の武器庫を開けたいんだが、その場所は特殊な方式でロックされている。そのロックを解除するためには、特定のインターフェイスを介してVRシミュレーションを完遂することが必要だ」
「そのインターフェイスってのが、Pip-Boyってことか」
「その通りだ」とMcGrawが冷たい視線のままで頷く。「きみたちはPower Armor用のトレーニングを受けたいらしいね。ちょうど良い。あのVRシミュレータは、戦前のPower Armorトレーニング装置も兼ねている。完遂すれば、しぜんとPower Armorが着られるようになるだろう」
「それと、もうひとつ……」
 CapitalにあるVaultのことで訊きたいことがあるのですが、とLynnが切り出すまえにRitaが手で制した。
 その様子に、LynnもMcGrawも不審な表情になる。

「いや、もうひとつ訊きたいことがある」とRitaは手を収めて言った。「武器を貰いたい。あんたたちなら、良い武器を持っているんだろう?」
 僅かに沈黙があってから、「そんなことか」とMcGrawが頷いた。「武器庫には大量の武器が保管されていると考えられている。そのうちいくつかは持っていっても構わない」
「それは……、助かる」
「じゃあ、早速案内しよう。ついてきてくれ」

 McGrawのあとをついて、LynnとRitaは地下通路を歩いた。
「さっきのは、どういう意味?」とLynnはRitaに小声で尋ねる。「そりゃあ、武器があるのはありがたいけど、それよりはVaultの情報だろう」
「あいつら、Pip-Boyを無理矢理外そうとしたが駄目だった、って言ってた」と表情を険しくしてRitaは答えた。「たぶん、Vaultの場所を知ってる。Vaultの人間も捕まえたかもしれない。下手にこちらがVaultのことを探っているとわかったら、何をされるかわからない」
「まさか……。McGrawは人の好さそうな人じゃないか。案内したSibleyはともかく」
「おまえは」Ritaがグリーンの目でLynnを睨む。「馬鹿だ」
 ストレートな罵倒に、Lynnは言葉を返せなかった。


 案内された部屋には壁際に大量の計算機があり、中央には卵形の機械があった。Vault 112にあったのと同じような。
 その部屋の主らしい、Specialist Olinという女性に、VR用の衣服を手渡された。全身に電極が装着された、タイツのようなこの服が、VR装置の起動には必要らしい。

Added: Nural Interface Suit

「変な格好」
 そんなふうにRitaが笑ったが、そこは大した問題ではない。
 問題は、そのスーツを渡され、Operation: Anchorageを受けるように言われたのが、Ritaではなく、Lynnだということだった。
 そのシミュレーションが対中国のために作られたものであるということは聞いていた。つまりは軍事シミュレーションということで、間違いなく銃を撃つ場面があるだろう。だがLynnは射撃は得意ではない。こういったことは、Ritaのほうが得意だ。どうやらMorrillは、Super Mutantの撃退に活躍したのがLynnではなく、RitaであるということをMcGrawに報告しなかったらしい。

「いや、これでいい」
 と、抗議しようとしたLynnの耳元でRitaが囁いた。
「おまえじゃ、この中じゃあ戦えないだろ。いざというとき、わたしが外にいたほうが良い」
「戦う理由なんて、無いだろう?」
「こっちはそうでも、向こうもそうとは限らない」とRitaは一瞬、周囲にいたMcGrawやOlinの装備に視線を向けた。「なんにせよ、何かアクシデントがあったときのために、わたしがこっちに残っていたほうがいい」

 彼女の言う通り、外で何かアクシデントが起こるとすれば、地下で変身ができないLynnは役に立たない。
 所詮はシミュレータ、言ってみればゲームだ。ゲームは得意ではないが、なんとかなるだろう。LynnはOperation: Anchorageを開始した。そしてアラスカの大地に放り出されたというわけだ。


 まったく、大したシミュレーションだ。寒さも、高山特有の息苦しさも感じる。たぶん痛みも感じる類だろう。
 Lynnは最初から装備していた拳銃を手に、慎重に進んだ。シミュレーションが開始された直後に出会ったBenjamin Montgomery軍曹という男によれば、Lynnの任務は中国軍の施設内部に侵入し、高射砲を破壊することだという。

 雪山を進んでいくと、早速中国軍兵士の姿が見えた。倒さなければ、見つかってしまうだろう。人に向けて銃を撃ちたくはなかったが、これはシミュレータだ、と己に言い聞かせてから銃を構えた。


(こ、こいつ………!)
 VR装置から出力される映像を見て、Ritaは驚いた。いや、Ritaだけではない。McGrawも、Olinも、Sibleyさえも、驚愕していた。

(へ、下手糞………!)
 シミュレータでのLynnは酷いものだった。
 銃が当たらないのは当たり前。セーフティをかけたまま引き金を引いたり、そもそも照準が相手に合っていなかったりする上、移動のときも堂々と身体を見せて移動したり、曲がり角でクリアリングしなかったり、アサルトライフル相手に正面から拳銃で撃ち合ったりともう滅茶苦茶だった。


「Super Mutantと倒したと聞いていたが……」
 唖然とするMcGrawに、「それはわたしだ」とRitaは言ってやった。「あいつは基本的に役立たずだ」
「そうだったのか……」McGrawは舌打ちした。「言い忘れていたが、シミュレーションで死亡した場合、こちらでも同様に死亡する」
「は?」
「シミュレーションは途中で打ち切ることはできない。きみのお友だちは、駄目なようだな」
 終わったら呼んでくれ、とOlinに言って、McGrawは部屋を出て行った。Sib;eyも。Olinという女の方は、何かフォローするようなことを言うでもなく、コンピュータの端末へと向かってしまう。

 とりあえず、既に始まってしまったものは仕方がない。ここから先は、Lynnの力を信じるしかない。
「さて」
 わたしはわたしで自由に動かせてもらうことにするか。Ritaは呟くと、そっとSimulation Podから離れた。


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