アメリカか死か/20/02 The American Dream -2
(インディアンだ……!?)
いちいち人種のことを言及するEden大統領に、得も言い知れぬ不快さを感じる。
そもそもRitaは、インディアンのことを何も知らない。Ritaのインディアンらしいところといえば、この赤い肌と、母が今際の際に残したという二つ目の名前、Silivertoeだけだ。
そうした知らないことを言われてなぜ腹が立つのか、自分でも不思議だったが、考えてみてわかった。
自分のことではないからだ。
いや、Ritaは確かにインディアンの血を引いていて、民族的にはともかく、インディアンなのかもしれない。
だがそれはかつてのアメリカの、古い分類であり、いまは無視されているものだ。Ritaにとってはどうでもいい概念だ。
そのどうでも良い概念をいちいち突いてくる。それがこちらの感情や思考を無視しているようで、腹正しいのだ。
『われらの愛するアメリカは、Super MutantやGhoulによって汚染されてしまった。非常に嘆かわしいことだ。偉大なるアメリカ合衆国を取り戻すためには、あの忌まわしいミュータントどもを根絶しなければならない』
とEden大統領は演説を続けていた。
『きみの父親の行った業績は、そのために最適だ。浄化装置を使えば、簡単にあれらのミュータントを根絶できる』
「おまえは……、Project Purityを何に使うつもりだ」
『このFEVの入ったアンプルを取りたまえ。これを浄化装置に差し込むだけで、行程は完了する』
Eden大統領の声とともに、モニタの下の装置が迫り出してくる。出てきたのは、掌で握れるほどの小瓶である。
「FEVだと……!?」
『改良型のFEVだ。古いFEVの影響を受けた生物をすべて殺す。大陸を浄化するのだ!』
FEVの影響を受けているのは、Super Mutantだけではない。普通の人間も、発現はしていないだけで、ウィルスの影響をある程度は受けている。既に人類は、戦前の人類とは遺伝子的には変わってしまった生き物だ。
もしこのEdenのFEVが古いFEVを受けた生物を殺すなら、Wastelandの殆どの生命を殺すに等しい。
FEVのアンプルを見た瞬間、バイクは突如として扉へと向きを変え、突進した。
『無駄だ』
とEdenが呟いた通り、バイクは扉に衝突したものの、破壊することはできなかった。Ritaは床に放り出され、這いつくばる。
「そんなことがやりたいんだったら、Autmunにでも頼むんだな」と、虫の息でRitaは言う。
『彼では不十分だ。この大地を変えるだけの資格は無い。きみのような粗野かつ野蛮な血こそが、このアメリカには必要なのだ。
かつてのアメリカは、失敗した! 先住民をアパッチとして使っておきながら、彼らを優遇しなかった! 彼らと手を取り合わなければいけなかったのに!
わたしは二度と同じ失敗は繰り返さない! 野蛮な先住民と協力してこそ、アメリカの未来は開けるのだ! さぁ、Ritaよ、手を取り合おう! アメリカ人になるのだ! でなければ死ね!』
狂ったコンピュータが、頭上で喚きたてる。
Ritaは何もできない。それだけの力が無い。いまや息をするだけで精いっぱいだ。
でも。
「Lynn………」
Lynn、Lynn助けて、とRitaは必死で叫ぶ。
Ritaは知らない。なぜいつもLynnが助けてくれるのかを。
Ritaは知っていた。いつでも呼べばLynnが助けてくれるということを。
「Lynn、助けて………」
だから呼ぶ。彼の名を。
『Lynnとは、あのMasked Raiderと呼ばれていた男のことだな』
そしてその声を遮ったのは、冷たい無慈悲なEdenの声だった。ああ、あれには驚いた驚いた、まったくもって、あんな生き物が存在しているとは思わなかった、とEdenは人工知能とは思えぬ軽快な調子で言う。
『いや、残念だった。わたしも以前から聞いていて気になっていたから、殺さず捕まえろ、とはAutmunには言っていたのだ』
だがまさか、こちらが攻撃するまえに死んでしまうとはな。
Edenが言うとともに、天井から巨大な筒が降りてくる。中が黄色い液体で満たされているそれは、どうやらEnclaveが研究用に用いているらしい。この場所に辿りつく間に、Feral GhoulやDeathcrowが入っているものを目撃した。
しかし、そこに入っていたのはGhoulやSuper Mutantではなかった。
肌に張り付くような黒衣を身に纏った男。
Masked Raider。
その首と胴体は、いまや完全に分断されていた。
『研究用として解剖はしてはみたが、まったく、この変身と呼んでいた機構が如何なるものなのかは理解が及ばなかった。わたしの前身として開発されたGM計画のコンピュータも、200年も経てば侮れない技術を持つことになるということだな。
さて、Rita。観念してもらえたのならば、そろそろ決断してもらえるだろうか。アメリカ人になるか、それとも死ぬか』
Ritaはもはや、Edenの声が耳に入っていなかった。
Lynnが死んだ。最初から、彼はヒーローだった。巨大なBehemothの腕を受け止め、見ず知らずのRitaやBOSのために戦ってくれた。
『アメリカ人になるか! 死か!』
GrayditchではBryanのために己の手を汚し、Vault 112やJefferson記念館では父やRitaを助けてくれた。Vault 101でも、Pittでも、彼はヒーローだった。
『アメリカか! 死か!』
「助けて………」
だからRitaは、呼ばずにはいられなかった。
「Lynn………!」
目の前の扉が真っ二つに両断された。
扉を破壊して表れたのは、黒衣を纏った人物。
Ritaの知る男と同じ、しかしどこか異なる雰囲気を持つ、怪人。
Masked Raiderは己が何なのか、わかっていなかった。
彼は突如としてCitadelの研究室で目覚めた。彼は己が、Vault 113での研究に基づいてクローニングされた人間だということは理解していなかった。
だが、たったひとつの目的だけは、まるで心の臓に刻まれていたかのように明確だった。外に出て、Super Mutantを倒し、北西へ疾走した。もうひとりの自分が呼ぶ場所を目指して。
そしていま、Masked Raiderはもうひとりの自分の死体が得体の知れないカプセルの中に入れられているのを見た。
その奥に存在するコンピュータを見た。
その手前にへたり込む、赤い肌の少女を見た。
Masked Raiderは吼え、コンピュータに向かって跳躍し、装備のナイフを抜き放った。落ちる勢いで、ナイフがコンピュータを上から下まで切り裂く。
友よ、おまえのためならば、Masked Raiderここにあり。
いちいち人種のことを言及するEden大統領に、得も言い知れぬ不快さを感じる。
そもそもRitaは、インディアンのことを何も知らない。Ritaのインディアンらしいところといえば、この赤い肌と、母が今際の際に残したという二つ目の名前、Silivertoeだけだ。
そうした知らないことを言われてなぜ腹が立つのか、自分でも不思議だったが、考えてみてわかった。
自分のことではないからだ。
いや、Ritaは確かにインディアンの血を引いていて、民族的にはともかく、インディアンなのかもしれない。
だがそれはかつてのアメリカの、古い分類であり、いまは無視されているものだ。Ritaにとってはどうでもいい概念だ。
そのどうでも良い概念をいちいち突いてくる。それがこちらの感情や思考を無視しているようで、腹正しいのだ。
『われらの愛するアメリカは、Super MutantやGhoulによって汚染されてしまった。非常に嘆かわしいことだ。偉大なるアメリカ合衆国を取り戻すためには、あの忌まわしいミュータントどもを根絶しなければならない』
とEden大統領は演説を続けていた。
『きみの父親の行った業績は、そのために最適だ。浄化装置を使えば、簡単にあれらのミュータントを根絶できる』
「おまえは……、Project Purityを何に使うつもりだ」
『このFEVの入ったアンプルを取りたまえ。これを浄化装置に差し込むだけで、行程は完了する』
Eden大統領の声とともに、モニタの下の装置が迫り出してくる。出てきたのは、掌で握れるほどの小瓶である。
「FEVだと……!?」
『改良型のFEVだ。古いFEVの影響を受けた生物をすべて殺す。大陸を浄化するのだ!』
FEVの影響を受けているのは、Super Mutantだけではない。普通の人間も、発現はしていないだけで、ウィルスの影響をある程度は受けている。既に人類は、戦前の人類とは遺伝子的には変わってしまった生き物だ。
もしこのEdenのFEVが古いFEVを受けた生物を殺すなら、Wastelandの殆どの生命を殺すに等しい。
FEVのアンプルを見た瞬間、バイクは突如として扉へと向きを変え、突進した。
『無駄だ』
とEdenが呟いた通り、バイクは扉に衝突したものの、破壊することはできなかった。Ritaは床に放り出され、這いつくばる。
「そんなことがやりたいんだったら、Autmunにでも頼むんだな」と、虫の息でRitaは言う。
『彼では不十分だ。この大地を変えるだけの資格は無い。きみのような粗野かつ野蛮な血こそが、このアメリカには必要なのだ。
かつてのアメリカは、失敗した! 先住民をアパッチとして使っておきながら、彼らを優遇しなかった! 彼らと手を取り合わなければいけなかったのに!
わたしは二度と同じ失敗は繰り返さない! 野蛮な先住民と協力してこそ、アメリカの未来は開けるのだ! さぁ、Ritaよ、手を取り合おう! アメリカ人になるのだ! でなければ死ね!』
狂ったコンピュータが、頭上で喚きたてる。
Ritaは何もできない。それだけの力が無い。いまや息をするだけで精いっぱいだ。
でも。
「Lynn………」
Lynn、Lynn助けて、とRitaは必死で叫ぶ。
Ritaは知らない。なぜいつもLynnが助けてくれるのかを。
Ritaは知っていた。いつでも呼べばLynnが助けてくれるということを。
「Lynn、助けて………」
だから呼ぶ。彼の名を。
『Lynnとは、あのMasked Raiderと呼ばれていた男のことだな』
そしてその声を遮ったのは、冷たい無慈悲なEdenの声だった。ああ、あれには驚いた驚いた、まったくもって、あんな生き物が存在しているとは思わなかった、とEdenは人工知能とは思えぬ軽快な調子で言う。
『いや、残念だった。わたしも以前から聞いていて気になっていたから、殺さず捕まえろ、とはAutmunには言っていたのだ』
だがまさか、こちらが攻撃するまえに死んでしまうとはな。
Edenが言うとともに、天井から巨大な筒が降りてくる。中が黄色い液体で満たされているそれは、どうやらEnclaveが研究用に用いているらしい。この場所に辿りつく間に、Feral GhoulやDeathcrowが入っているものを目撃した。
しかし、そこに入っていたのはGhoulやSuper Mutantではなかった。
肌に張り付くような黒衣を身に纏った男。
Masked Raider。
その首と胴体は、いまや完全に分断されていた。
『研究用として解剖はしてはみたが、まったく、この変身と呼んでいた機構が如何なるものなのかは理解が及ばなかった。わたしの前身として開発されたGM計画のコンピュータも、200年も経てば侮れない技術を持つことになるということだな。
さて、Rita。観念してもらえたのならば、そろそろ決断してもらえるだろうか。アメリカ人になるか、それとも死ぬか』
Ritaはもはや、Edenの声が耳に入っていなかった。
Lynnが死んだ。最初から、彼はヒーローだった。巨大なBehemothの腕を受け止め、見ず知らずのRitaやBOSのために戦ってくれた。
『アメリカ人になるか! 死か!』
GrayditchではBryanのために己の手を汚し、Vault 112やJefferson記念館では父やRitaを助けてくれた。Vault 101でも、Pittでも、彼はヒーローだった。
『アメリカか! 死か!』
「助けて………」
だからRitaは、呼ばずにはいられなかった。
「Lynn………!」
目の前の扉が真っ二つに両断された。
扉を破壊して表れたのは、黒衣を纏った人物。
Ritaの知る男と同じ、しかしどこか異なる雰囲気を持つ、怪人。
第三段落 |
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友よ、おまえのためならば
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- Masked Raider
- Lv. ?
- S/P/E/C/I/A/L=?/?/?/?/?/?/?
- Tag: ?, ?, ?
- Equipment: Shocker, Throwing Dagger, Arcade Industries Sweet Sneak Suit (MOD), Arcade Industries Sweet Sneak Helmet (MOD)
Masked Raiderは己が何なのか、わかっていなかった。
彼は突如としてCitadelの研究室で目覚めた。彼は己が、Vault 113での研究に基づいてクローニングされた人間だということは理解していなかった。
だが、たったひとつの目的だけは、まるで心の臓に刻まれていたかのように明確だった。外に出て、Super Mutantを倒し、北西へ疾走した。もうひとりの自分が呼ぶ場所を目指して。
そしていま、Masked Raiderはもうひとりの自分の死体が得体の知れないカプセルの中に入れられているのを見た。
その奥に存在するコンピュータを見た。
その手前にへたり込む、赤い肌の少女を見た。
Masked Raiderは吼え、コンピュータに向かって跳躍し、装備のナイフを抜き放った。落ちる勢いで、ナイフがコンピュータを上から下まで切り裂く。
友よ、おまえのためならば、Masked Raiderここにあり。
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