龍のいない国/02 When Freedom Calls -2
しゃがんで金庫の鍵を弄っていると、肩のところに温かいものが載せられた。その温かいものは、ふんふんと慌ただしく息を漏らしている。
「ちょっと待っててね。また変な生き物がいないかどうか見張ってて」
Lonは振り返らずに金庫の鍵に集中した。後ろにいた生き物――茶毛のハスキー犬はひと鳴きしたあとで静かになる。よく言うことを聞いてくれる犬だ。やはりもともとは人に飼われていたのだろう。
犬と出会ったのは、Concordへと向かう途中にあるスタンド、Red Rocket Truck Stopに立ち寄ったときだ。Mole Ratとかいう、だぶついた皮膚を持つ巨大な鼠から、Lonを守ってくれた。
犬は首輪も何も着けていなかったが人懐こく、Lonが歩くと傍らについて離れなかった。
時代が変わっても変わらない存在がいるということを温かくふわふわな生き物に触れることで知れたことは嬉しく、Lonは犬と行動を共にすることに決めた。
スタンドの中を調べてみたが、残念ながら人はいなかった。しかしスタンドのターミナルで、店の裏の洞窟の中に安全貯蔵庫があることを知ったため、Lonはそちらを調べてみることにしたのだ。
廃棄物置き場にもなっていたらしい洞窟の中はMole Ratの巣になっており、中には白骨化した死体があった。たぶん、この洞窟の中を防空壕代わりに使ったのだろう。
洞窟の中に入ったのは、しかし無駄にはならなかった。金庫を発見することができたからだ。
苦労して、ようやくLonはBobby Pinを使って金庫の鍵を開けることに成功した。
中身は薬品や地雷などで、とりあえず持っていても損は無さそうなものだ。Lonはそれらをすべて拝借することにした。
その日の夜はスタンドの中の椅子に座って夜を明かし、翌日は明け方とともにConcordへと向かう。
道中で出くわしたのは、人の死体、頭が二つある牛の死体、Mole Rat、巨大な虫の化け物、そして犬だけ。
(生きてる人はいないのかな………)
いや、そんなはずがない。死体はまだ真新しいものだったし、犬も人に慣れていた。何よりVault 111にやってきて夫を殺し、息子を奪った男たちとLonは出会っているのだ。
そう、人間は生きている。まだ出会っていないだけだ。それは体験として知っていて、そしてその体験の中で出会った人間が自分のが生きていた時代の善良な人間たちと違っていたにも関わらず、Lonはまだ希望を持っていた。
だからConcordに到着して、通りの奥のほうに見える自由記念博物館のほうが騒がしかったとしても、それはConcordに生存者がいて、きっと200年前と同じ町を生きていて、祭りをやっているのかもしれない、という程度にしか思っていなかった。
博物館の周りを取り囲む人々の手元から光が放たれていても、きっと花火か何かだろうと思っていた。思おうとしていた。
「あの、すみません」
背を向けていた女の肩を叩いてLonが呼び止めると、女は振り返った。手にはSwitchbladeを持っていた。振り返るやいなや、躊躇を見せることなくその手を振りかぶっていた。ああああ、と声が聞こえた。酷く耳障りな声が。
Lonは飛び出しナイフの刃を避けた。いや、避けようとして後ろに転んだ。転んだからにはもう逃げられない。
酷く光景がゆっくりに見えた。
周囲を見れば、犬はほかの男たちに襲われていた。男たちも、倒れたLonの身体に馬乗りになる女も、その風体は尋常なものではない。
犬は変わらなかった。
鼠は変わってMole Ratになった。
蠅も変わってBloadflyになった。
では、人は?
人は変わった。変わってしまったのだ。
Lonはそれを理解し、10mm Pistolを女の頭に向けて発砲した。
女の頭が柘榴のように弾け、鮮血が降り注ぐ。
Lonは頭を失って力なく倒れようとする女の身体を引き剥がし、犬を襲っている男たちに向けて連射する。
が、当たらない。
近くにいるならともかく、距離があるとまともに狙いがつけられない。当たり前だ。銃なんて撃ったのはこれが初めてだ。Vault 111で手にしたときは、そのグリップを握ることさえ怖かったのだ。簡単に当たるはずがない。
連射しているうちに弾が切れた。弾丸はまだ予備があって、しかし交換の仕方はどうやるんだっけ、ええい、くそ、こんなのを使うんだったら、もっと簡単に――。
殺した女のSwitchbladeを握って立ち上がろうとしたLonの目の前で、狂人の男が灰になって融けた。
目の前で起きた出来事が最初、正しく理解できず、レーザー銃で撃たれたのだと気づいたのは、上方から声が投げかけられてからだった。
「おい、あんた! Raiderじゃないな!?」
「Raiderに襲われているんだ! そこのLeaser Musketを取って助けてくれ!」
声の主は博物館のバルコニーにいる、まるで西部劇のシェリフのようなロングコートとカウボーイハットの男で、手にはレーザー銃らしきものを持っていた。男が示す先には死体と、男が持っているのと同じレーザー銃が落ちていた。
目の前で起きた出来事、これから起こる出来事、すべてが理解できたわけではない。
だがLonは為すべきことを定めてレーザー銃を手に取り、白けつつある朝日を背に博物館の中へと駆け込んだ。
←前へ
「ちょっと待っててね。また変な生き物がいないかどうか見張ってて」
Lonは振り返らずに金庫の鍵に集中した。後ろにいた生き物――茶毛のハスキー犬はひと鳴きしたあとで静かになる。よく言うことを聞いてくれる犬だ。やはりもともとは人に飼われていたのだろう。
犬と出会ったのは、Concordへと向かう途中にあるスタンド、Red Rocket Truck Stopに立ち寄ったときだ。Mole Ratとかいう、だぶついた皮膚を持つ巨大な鼠から、Lonを守ってくれた。
犬は首輪も何も着けていなかったが人懐こく、Lonが歩くと傍らについて離れなかった。
時代が変わっても変わらない存在がいるということを温かくふわふわな生き物に触れることで知れたことは嬉しく、Lonは犬と行動を共にすることに決めた。
スタンドの中を調べてみたが、残念ながら人はいなかった。しかしスタンドのターミナルで、店の裏の洞窟の中に安全貯蔵庫があることを知ったため、Lonはそちらを調べてみることにしたのだ。
廃棄物置き場にもなっていたらしい洞窟の中はMole Ratの巣になっており、中には白骨化した死体があった。たぶん、この洞窟の中を防空壕代わりに使ったのだろう。
洞窟の中に入ったのは、しかし無駄にはならなかった。金庫を発見することができたからだ。
UNLOCK(Novice)→SUCCEEDED
苦労して、ようやくLonはBobby Pinを使って金庫の鍵を開けることに成功した。
中身は薬品や地雷などで、とりあえず持っていても損は無さそうなものだ。Lonはそれらをすべて拝借することにした。
その日の夜はスタンドの中の椅子に座って夜を明かし、翌日は明け方とともにConcordへと向かう。
道中で出くわしたのは、人の死体、頭が二つある牛の死体、Mole Rat、巨大な虫の化け物、そして犬だけ。
(生きてる人はいないのかな………)
いや、そんなはずがない。死体はまだ真新しいものだったし、犬も人に慣れていた。何よりVault 111にやってきて夫を殺し、息子を奪った男たちとLonは出会っているのだ。
そう、人間は生きている。まだ出会っていないだけだ。それは体験として知っていて、そしてその体験の中で出会った人間が自分のが生きていた時代の善良な人間たちと違っていたにも関わらず、Lonはまだ希望を持っていた。
だからConcordに到着して、通りの奥のほうに見える自由記念博物館のほうが騒がしかったとしても、それはConcordに生存者がいて、きっと200年前と同じ町を生きていて、祭りをやっているのかもしれない、という程度にしか思っていなかった。
博物館の周りを取り囲む人々の手元から光が放たれていても、きっと花火か何かだろうと思っていた。思おうとしていた。
「あの、すみません」
背を向けていた女の肩を叩いてLonが呼び止めると、女は振り返った。手にはSwitchbladeを持っていた。振り返るやいなや、躊躇を見せることなくその手を振りかぶっていた。ああああ、と声が聞こえた。酷く耳障りな声が。
Lonは飛び出しナイフの刃を避けた。いや、避けようとして後ろに転んだ。転んだからにはもう逃げられない。
酷く光景がゆっくりに見えた。
周囲を見れば、犬はほかの男たちに襲われていた。男たちも、倒れたLonの身体に馬乗りになる女も、その風体は尋常なものではない。
犬は変わらなかった。
鼠は変わってMole Ratになった。
蠅も変わってBloadflyになった。
では、人は?
人は変わった。変わってしまったのだ。
Lonはそれを理解し、10mm Pistolを女の頭に向けて発砲した。
女の頭が柘榴のように弾け、鮮血が降り注ぐ。
Lonは頭を失って力なく倒れようとする女の身体を引き剥がし、犬を襲っている男たちに向けて連射する。
が、当たらない。
近くにいるならともかく、距離があるとまともに狙いがつけられない。当たり前だ。銃なんて撃ったのはこれが初めてだ。Vault 111で手にしたときは、そのグリップを握ることさえ怖かったのだ。簡単に当たるはずがない。
連射しているうちに弾が切れた。弾丸はまだ予備があって、しかし交換の仕方はどうやるんだっけ、ええい、くそ、こんなのを使うんだったら、もっと簡単に――。
殺した女のSwitchbladeを握って立ち上がろうとしたLonの目の前で、狂人の男が灰になって融けた。
目の前で起きた出来事が最初、正しく理解できず、レーザー銃で撃たれたのだと気づいたのは、上方から声が投げかけられてからだった。
「おい、あんた! Raiderじゃないな!?」
「Raiderに襲われているんだ! そこのLeaser Musketを取って助けてくれ!」
声の主は博物館のバルコニーにいる、まるで西部劇のシェリフのようなロングコートとカウボーイハットの男で、手にはレーザー銃らしきものを持っていた。男が示す先には死体と、男が持っているのと同じレーザー銃が落ちていた。
ADDED: Short Leaser Musket
目の前で起きた出来事、これから起こる出来事、すべてが理解できたわけではない。
だがLonは為すべきことを定めてレーザー銃を手に取り、白けつつある朝日を背に博物館の中へと駆け込んだ。
←前へ
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