「Good Springへは、礼拝のためにいらっしゃったんですか?」
サルーンへと案内してもらっている道中で女は柔らかに首を傾げて訊いてきた。

褐色の肌にグリーンの瞳という人目を引く容姿を持つ彼女は、Kutoと名乗った。整った容姿と突き出た胸、引き締まった腰元の美しい女だったが、彼女の容姿で最も目立つ部分は透き通るような銀色の髪で、肌の色と相まって非常に魅力的に見えた。

「いや、Good Springまで来たのは巡回牧師の仕事とは別件でね……、ちょっと人を探しに来た」Siは彼女の顔からできるだけ視線を離して軽く首を振る。「今の時代、キリスト教徒なんてVaultあがりくらいにしかいないからな、礼拝なんて滅多になくなったよ」

●Vault
Vault-TECによって核戦争以前に作られた核シェルターの総称。
アメリカ各地に点在しており、その数は100を越える。

「あ、でもこの町のお医者さんはVault出身ってお話でしたよ。Mitchellさんって方なんですけど……」Kutoは額に指をやる。「えっと、Vault22だか23だかだったような……」
「Vault出身か……、珍しいな」
「とっても素敵な方ですよ」とKutoは笑顔になる。無邪気な表情だった。「あ、ここがサルーンです」

Kutoは入口の椅子に座った赤茶けた肌の老人に挨拶して店の中に入っていく。どうやら知り合いのようだ。Siも軽く会釈をした。

寂れた概観だったが、中は一応整っていた。綺麗とはお世辞にもいえないが、照明や床などがしっかりしているだけ良い酒場だろう。他の場所、特に東海岸のほうだともっと酷い。
「この町は上等の水源があるらしくて、お水が美味しいんですよ。汚染もされていませんし……」

「早くあの野郎を出さねぇと、こんな小汚い町は焼き払っちまうぞ!」
Kutoの言葉は男の大声で途切れさせられた。


サルーンの中では女と男が言い争いをしていた。女のほうは腕を組んで冷静そうな様子ではあったが、チョッキを着た男のほうは今にも女に掴みかからんばかりの様子だった。
「なにかあったんでしょうか………」Kutoが目を丸くして言う。

言い争いはちょうど一段落したところだったようで、男は肩をいからせながらSiとKutoのほうへとやってきた。眉間に皺が寄っており、怒り心頭の様子だ。KutoがSiの背に隠れる。
すれ違いざまにSiは男から特有の臭いが漂っているのに気付いた。硝煙の臭いは珍しくはないが、それに加えて刺激臭が鼻をついた。

男が扉を蹴りつけてサルーンを出て行ったことを確認してから、SiとKutoはカウンターの席についた。
「吃驚しましたねぇ………」とKutoが耳元に口を近づけてきて囁く。
すまないね」言ったのは先ほど男と口論をしていた女性だった。カウンターの中へ入ったところを見ると、このサルーンの店員なのだろう。先ほどの男とのやり取りといい、女主人といった風格だ。「ちょっとごたごたがあってね……、ようこそ、Prospector Saloonへ。あんたは新顔だね」

女主人は自分の名はTrudyといってProspector Saloonの主人であると自己紹介をした。
「なにがあったんですか?」とKuto。
ちょっとね」
「さっきの男……、Powder Gangersか?」Siは尋ねてみる。
Trudyは特に驚いた表情をしなかったが、「よくわかったね」と言った。
火薬の臭いがしたからな」

「お察しの通りだよ」Trudyは事の詳細を話す気になったのか、溜め息を吐いてから説明を始めた。「だいたい一週間ぐらい前にRingoって行商人がこの町にやってきてね……。彼が言うには商隊が襲撃に遭ったから匿ってくれって言うんだよ。凄い怯えた様子だから形だけでもと思って隠れ場を提供してあげたんだけど、まさか実際にRingoの後を追ってやってくるやつがいるとはね……。Powder Gangersっていったら結構な規模の無法集団だよ。個人的にはRingoには夜の間にでも隠れて出て行ってもらって、Powder Gangersのやつらもそれを追ってこの町からさっさと出て行ってくれると助かるんだけど」

「Power Gangersの人たちを殺しちゃえば良いんじゃないですか? そうしたら後腐れもありませんし」
あっさりとそんなことを言ったのはKutoだった。

Cobbを殺せって?」とTrudyは眉間に皺を寄せる。先ほど言い争っていたPowder Gangersの男はCobbというらしい。「確かにあの男は卑劣で根性なしの屑みたいな野郎だけど、殺すっていうのはいくらなんでも………」
「そうですか?」とKutoは首を傾げる。

どちらかといえばKutoの判断のほうが今の世界では常識的だろうな、とSiは思った。殺さなければ殺される。法も社会機構もほとんど機能していない現代ではそれが基本的な合言葉だ。NCRがどうにかこうにか法を正そうとはしているものの、それはこんな小さな町までは行き届かない。Ringoという男を上手く逃がせたにせよ、Powder GanguersたちはGood Springに報復するかもしれないのだ。それならば先に襲撃者たちを退治してしまったほうが良いだろう。

■仮想ザッピングリプレイ
このリプレイではKutoの視点から見た回とSi(およびSumika)の視点から見た回をザッピングさせて進行させている。
実際のプレイ時はもちろん主人公(courior)はひとりであり、2人の主人公で同時にプレイするということは不可能なわけだが、KutoとSiは異なるルートを通ってVegasに到達しようとするため、「異なる解決方法を取らない限りは同じクエストは受注することができない」という枷をはめることで可能にしている。
なお、実際は「Kutoをエンディングまで到達させる→Siのシナリオを開始する」という順序でプレイしており、厳密にザッピングさせているわけではない。このためDLCシナリオなどではレベルに食い違いが生じる。

「ちなみにそのRingoさんという方はどちらに?」とKutoはさらに尋ねる。
丘の上のガソリンスタンド跡に隠れている。ドクターの病院の隣ね」とTrudy。「なに、まさかあんた、Ringoを助けようだなんて思っているわけじゃないでしょうね?」
「うーん……、まだ考え中ですけど………。ちなみにその人を積極的に助けてあげようって方はいらっしゃらないんですか?」
Sunnyなんかは、たぶん助けを求められれば助けてあげるだろうけれど……、Ringoは助けなんか求めないだろうね。スタンドに閉じこもって、銃を構えて震えているもの。そういう男なの。助けたってメリットなんてないよ。下手に助けようとすれば町が争いになる。相手は一応ギャングだ。銃撃戦になったらわたしたちみたいな一般市民にはどうしようもない」

「うーん……、そうでしょうか? 意外とみんなで協力してくれればどうにかなるかもしれませんよ」とKutoはにっこりと微笑む。「襲撃者っていっても、どうせ数人でしょう? だったら待ち伏せすればどうにでもなります。牧師さまとか、先ほどの銃の腕前は凄いものでしたし……」
Kutoの視線を受けて、Siは肩を竦めた。「まぁ」
「あんた、牧師さんかい?」とTrudyは少し驚いた表情になる。
「一応な。人を探しているんだが……、最近この町に来た旅人はいなかったか?」
「旅人ってねぇ……、この町は寂れた町だから、最近だとさっきも言ったRingoとCobbと、それとあんたの隣のKutoくらいだよ」

SiはKutoに一瞬目をやる。彼女ではない。彼が探している人物は男性だ。

「あぁ、あとこの前急患が担ぎこまれてきたっけね……」とTrudyが思い出したように言った。「怪我が酷くて亡くなったって話だけど」
「それは……、男か?」
「細かいことは聞いてないけど……、そういうことは直接ドクターに尋ねたらどう? ドクターの診療所は店を出て右手のほうにある白い建物だよ。もっとも、今訪ねて行ってももう寝てるだろうけどね。夜は早い人だから」
「そうか……、ありがとう」
Siは席を立とうとしたが、Trudyに引き止められた。
「ちょっと、一応店に入ってきたんだから注文くらいはしてくれない? 情報も提供したんだし。それにあんた、町に来たばかりだって言っただろう? この町にはうち以外に食事できるところなんてないよ。何か注文していきな」
彼女の言うとおりSiはGood Springに来たばかりで腹が空いていたので、食事を頼むことにした。どうせ今からドクターの家を訪ねても寝ているのだ。今日は落ち着いて泊まる場所でも探そう。

特に予定もないらしいKutoとともに夕食をとり、食後にワインで乾杯する。
ところで牧師さま」Kutoは僅かに赤みのさした頬を持ち上げ、耳元でそっと囁く。「牧師さまはまだこの町には滞在されるんですか?」

あっ

「ま、こっちの用件次第だな」聞こえた声を無視してSiは答える。
「もし、もし……、仮定の話なんですが……。先ほどのお話に出てきたRingoさんを助けようということになったら……、牧師さまはお手伝いしてくださいますか?」
Kutoのグリーンの瞳は天井の薄暗い照明から発せられる光を吸収して黒く輝いていた。吸い込まれそうだ、とSiは思った。
「手伝いの内容に依るな」

え、ちょっと……」と再度声がするが無視。

「上手く話をつけられれば簡単に済むと思うんですが……、牧師さまくらい腕が立つ人がいると心強いので」
「突っ立っているだけで良いと言うんだったら協力するよ」

ちょっとちょっとちょっと

声が五月蝿くなってきたので、Siは声の発生源であるコートのポケットに手を突っ込んだ。小指が硬いものに当たって静かになる。暴れている感触があるが、気にしない。
「ありがとうございます」とKutoはにっこり微笑んだ。「わたしはGood Springにいる間はPeteおじいさんの家に泊まっていますので」

サルーンを出てKutoと別れる。サルーンの主人であるTrudyに聞いた、放置されたキャンピングカーを探して中に入る。中は薄汚れていたが、ベッドなどが備え付けられてあって、寝泊りするのには十分そうだ。
Siはキャンピングカーの床に座り、銃を抜いて手入れを始める。

ちょっと……
コートの中から出てきたものがいた。それは背中に生えた三対の羽ポケットに入る程度のサイズ以外はほとんど人間の少女と同じ姿をしていた。癖のついた栗色の髪と丸い大きな茶色の瞳、服装は丈の短いオーバーオールといういでたちの、まるで妖精のような彼女は頬を膨らませて言った。

なにしてくれんの、Silas
彼女の名はSumikaという。彼女の姿はSiにしか見えない。


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