「口の中に指が入った」Sumikaが自分の小さな口を指差して言う。「口の、中に、小指が
「ああ、だからか」Siはシリンダーを分解して掃除をしつつ応じる。「小指が痛いと思った。噛んだだろ、おまえ」
噛んだよ
「痛かった」
「それだけ? 乙女の口の中に指突っ込んでおいて」
40手前で乙女もないだろう」
SumikaはSiより11歳年上で、39歳だ。
「そういうこと言ってるんじゃなくてね、礼儀の問題でね……、ああもぅ」Sumikaが膨れ面をする。もともと顔が丸いので、膨れてみせると本当にまん丸になる。「だいたいさ、なんであんなこと言ったの?」
あんなこと?」SiはSumikaのほうに目をやらずに手入れを続ける。リヴォルバーは自動式拳銃に比べて故障が少ないが、手入れを欠かすとそれだけ故障しやすくなるため銃の手入れは怠れない。
手伝うって。Ringoって行商人のことで」
人助けしろっていうのはおまえがよく言っていることだろう」
「そりゃあ、人助けが良いことだよ。でもね、わたしが言っているのは手助けすることにした理由」SumikaはいつもSiのコートに入っている彼女用の座布団の上で胡坐をかく。「なんであの女の言うことを簡単にきいたの?」
「美人だったから」
それは半分本当だ。
「それだけじゃないでしょう」Sumikaは言う。長い付き合いだ、Siのことは見透かしている。「あのKutoって女が、Aniseに似ていると思ったからじゃないの」

Anise
かつてSiが住んでいた教会の牧師の娘であり、11年前に襲撃者によって連れ去られた女、Anise。髪は黒かったが、彼女もKutoと同じように褐色の肌とグリーンの瞳だった。

「似てないだろ、別に」とSiは嘘を吐いた。「肌と目の色だけで」
」Sumikaが言う。「そんなふうに思ってないでしょう」
都合良く銃のメンテナンスが終わった。銃をホルスターに戻してSiは敷布団の上に寝転がる。「おれは寝る」
「え……、ちょっと、もう寝ちゃうの?」
「長旅だったからな」
あなたはご飯食べて女と酒飲んで気持ち良くなってるかもしれないけれど、わたしはご飯もちょっとしか食べてないし、お酒も飲んでないんだけど」
「なんでだよ」

いつもはSumikaはSiが食事をしているときに同じ皿から切り分けて自分の食事とする。酒も同じで、Siのグラスから勝手に彼女専用のコップに注いで飲む。彼女は体格のわりに結構な酒飲みだ。
食堂であっても食事の仕方は変わらない。それは彼女の姿がSi以外の人間に見えないからだ。妖精のような彼女がちょこまか動き回っていても、まったく感知されない。

「だってSilas、今日はちっちゃく切り分けてくれなかったじゃない。それに今日はワインだったから、グラスの足が高かったし……。もし零しちゃったらSiが零したように見られるから印象悪くするかもしれないし………」
一応気を遣われていたらしい。
Sumikaの言う通り、彼女の仕出かした失敗は基本的にその周りにいる人間、普通はSiのせいだと思われることになるのだ。

Siは溜め息を吐いてみせてから、荷物の中の非常食の袋からドライフルーツをSumikaのほうへと投げてやる。
お酒は?
「今日は我慢しな」Siは再度簡易ベッドに潜り込む。「改めてあの店で買って飲んだほうが美味いのが飲める」
「不公平だなぁ……」とSumikaはぶつぶつ文句を言ったが、表情は少し嬉しそうに見えた。
すぐにSiは寝付いた。

子供の頃の夢を見た。AniseもJohnnyも教会にいたが、Sumikaはいなかった
油の音で目を覚ます。キャンピングカーの外でSumikaがエプロンをつけて料理をしていた。いつも着ているオーバーオールもそうだが、彼女に合うサイズの洋服は人形用のものくらいしかないので、着ている衣服はほとんどが彼女の手製だ。
酒量でもそうだが、彼女は掌に乗るくらいの身体の大きさのわりに頑丈で、力がある。小型のフライパンを引きずったり、菜箸を操ったりする程度は可能だ。料理に関しても苦労は多いようだが、何とか可能である。しかし瓶の蓋を開けるのが苦手で、今もフライパンの前でウィスキーの小瓶の蓋にしがみ付き、必死で回そうとしていた。
この光景を他人が見たら、いったいどのように見えるのだろうか。Sumikaの存在は他人には感知できない。フライパンや瓶が独りでに動いているように見えるのか、Siが料理をしているように見えるのか。今までの経験からでは、おそらく後者だろうと思う。Sumikaの存在というのはそれだけ希薄で、曖昧なものなのだ

「あ、Silas……、おはよう」Siが起きたことに気付いたSumikaが肩で息を切らせて挨拶をする。未だに瓶の蓋は開けられていない。
Siは無言で瓶を掴み、蓋を回して開けてやった。
「ありがとう」
Sumikaはにっこり笑って小瓶を受け取る。この笑顔は17年間まったく変わっていない。Siはこれだけ変わってしまったというのに。
「町に来たんだから、わざわざ作らなくても良かったのに……。あのサルーン、24時間営業って書いてあったぞ」
「そうだけど……、ほら、節約したほうが良いじゃない。食材はあるんだし……」Sumikaは自分の身体の倍以上ある菜箸を操りながら言う。「それに、このほうがゆっくりできるじゃない?」
Siは特に否定も肯定もしなかった。Sumikaの作った料理と昨日のうちに汲んでおいた水を飲む。放射能汚染を受けていない、純粋な水だ。なんとなく味も違って感じられる。

●水
200年前の核戦争によって、アメリカ全土の淡水は大部分が放射能の影響を受けて汚染された。
しかしこの西海岸では汚染の割合は非常に小さく、浄水器付きのダムも存在しているために汚染されていない水も他の地域と比べれば大量に存在している。

昼過ぎになってから昨日のサルーンのTrudyに聞いた医者の家へと向かう。
Good Springの医師、Doc Mitchellは禿頭の人の良さそうな老人だった。彼はSiを見て、「珍しいな……、この町に同じ時期に2人も旅の人がやってくるだなんて」と言った。
一瞬Sumikaのことを言っているのかと思ったが、Kutoのことを指しているのだと気付く。

気を取り直してSiは最近この近くで殺されたという人物について尋ねた。その人物は自分が探している人物かもしれない、と言って。
「男性だよ。年齢は……、三十代の後半から四十代の前半といったところだろう。人種はヒスパニックで……、髪は黒い。豊かな髯。身長は190cm近い大柄な男性だ」
ドクターの挙げた特徴はどれもSiの探していた人物の特徴に当て嵌まっていた
SiはSumikaに向かって目配せする。彼女は眉間に皺を寄せて悩ましそうな表情をみせたが、素直にMitchell医師の脇をすり抜けて診療所の奥へと入っていく。
SiはMitchellに視線を戻して頷いてみせた。「たぶんおれの探していた男だと思う。彼の遺品などはなかったか?」
「遺品か………」Mitchellは顎に手をやる。「それはある。いつか彼の遺族や友人が訪れた際に返却しようと思ってね。きみが彼の関係者だというのなら、それを渡すのは吝かではない。だが……、それを確かめる必要があるね。きみは、彼といったいどういう関係なのかな?
「彼は運び屋で、重要な荷物を運んでいた。だがその重要な荷物の情報が流出して……、おれは彼の依頼主の知り合いで、もし彼が敵対する組織の襲撃を受けたら、その重要な荷物を確保するようにと頼まれた」

半分以上は嘘だったが、死んだ男に関する情報は本当だった。彼はMajor Expressの運び屋で、さる重要な荷物を運んでいた。だがその荷が何なのか、何処に運ぼうとしていたのかまでは知らない。

「では彼の名前と、運んでいた荷の名前は言えるかな?」
「彼の名はともかく、荷については明かしたくない。機密情報だからな」
SiはSumikaを待ちつつ時間稼ぎの嘘を吐く。彼女には診療所の中を探らせて、運び屋の男の情報を収集させている。
「それについては問題ないよ。悪いとは思ったが、いつか彼の友人が来るときを思って彼の手荷物を見させてもらった。そのときに彼の依頼内容が書かれたメモも見させてもらったからね。だからわたしは依頼については知っている」
「なるほど」とSiはどうでも良い相槌を打つ。
「さぁ、知っているのなら言ってくれないかね」
Sumikaが息を切らせて戻ってきた。彼女はSiの肩にとまると、「名前はJim、荷物はPlatinum Chip」と言った。

(プラチナ製のチップ?)
チップとは、カジノで掛け金の額を現すのに用いられる、あの薄い円盤型のチップのことだろうか。しかも白金製の。なぜそんなものを運んでいたのか。
荷の意図はわからなかったものの、SiはドクターにSumikaから聞いた内容をそのまま伝えた。
「なるほど……、確かにその通りだ。依頼内容に書かれたメモにはPlatinum Chipと書かれた。領収書にサインがなかったところを見ると、おそらく荷を運ぶ途中だったのだろうね」
「では、その荷を渡してくれないか? あんたにはその分のcapsを払う。なにせ大事な荷を預かっておいてくれたんだからな」

●caps
現在のアメリカ大陸で最も流通している通貨。コーラなどのキャップ。
NCRなどの組織は新たにドル紙幣などを流通させようと試みたことがあったが、核戦争から200年、現在まで変わらず瓶の蓋が主流である。

Mitchellはゆっくりと首を振った。「残念ながらその荷はこの場にはない。彼を撃ったであろう男たちに奪われてしまったようでね。彼の遺品といったら………」ドクターは棚の上から二つ折りのショットガンを手に取り、テーブルの上に置いた。「これだけだ。きみは彼の個人的な知り合いではないようだが、良かったら持っていって欲しい。彼の友人や家族がいたら、渡してくれ」

運び屋のJimという男についてSiはほとんど知らなかったが、一応頷いてショットガンを受け取っておいた。
「やっぱり良い人そうな人に対してこういうことをするのは気が引けるなぁ……」などとSumikaが肩の上でぶつぶつ言っている。

「Jimを撃った男というのは、どんなやつらだった?」Siは改めて訊いた。
「残念ながら、わたしは彼を撃った男たちを見てはいないんだ。町で聞いて回れば、誰か見たという者もいるかもしれないがね。特にサルーンのTrudyに訊いてみるのが良いだろう。誰かが知っている情報は、たいていは彼女の耳にも入ってきている」
「見ていないっていうのは……、いったいどういう状況だったんだ?」尋ねつつ、そういえばDoc Mitchellは急患としてJimを持ち込まれ、手術をしたのだということをTrudyに聞いたのを思い出した。「あんたのところにJimを持ち込んだ人間がいたはずだが……」
「彼をわたしのところに運んできたのはVictorだよ。ロボットらしからぬ風変わりなやつさ」

Mitchellは僅かに微笑んで言った。Victorというロボットに対して悪感情を抱いているわけではないらしい。
ロボット?
Sumikaが小さく声を挙げた。その声の内容を、Doc MitchellはSiの言葉として受け取ったらしく、頷いた。
「そう……、とはいえわたしが彼について知っていることはあまり多くはないね。彼はとても友好的だ。彼のことは直接、彼に尋ねるのが良いだろう。彼は町の南端の家に住んでいるよ」

礼を言って診療所を出ようとしたとき、新たな訪問者があった。それは若い女2人で、ひとりは昨日出会ったKutoだった。彼女はSiを見つけると微笑んで手を挙げた。
「こんにちは、先生。今、お時間よろしいでしょうか?」と言った女は昨日サルーンで見かけたような顔だった。
「いや……、すまない。今話中でね。もう少しで終わるから」とMitchell。
「いや、もう聞きたいことは聞かせてもらった。ありがとう」Siは言い、Jimのショットガンを持って立ち上がる。これは何処かの町で換金することにしよう。
「そうか………。大した情報を提供できなくてすまなかったね」
その場を去ろうとしたSiだったが、Kutoに呼び止められた。
「牧師さま……、お時間があったら、ちょっとご一緒いただけませんか?」
Sumikaが横で何やら言ったのが聞こえたが、Siは頷いて同席した。
「それで……、用件というのはなにかな、Sunny?」とMitchellはレザーアーマーを着込んだ女性に向かって言った。
「わたしたち、Powder Gungersと戦うことにしたんです。昨日CobbのやつがProspector Saloonにやってきて……、Ringoを出さないなら、仲間を連れて町に襲撃に来るって言ってきて、それで……。Kutoの協力もあって、TrudyやPete、それにあのケチなChetも協力してくれることになったんです。Chetは弾丸とアーマーを提供してくれただけで、戦いになったら自分は店を守るって言ってましたけど、それでもみんな戦うことに同意してくれてします。わたしたちが先生のところに来たのは、先生も協力してくれないかと思って……

■Tagスキル
KutoはTagスキルとしてExplosionを取得している。この理由は本クエスト、Ghost Town Gunfightですべてのチャレンジを成功させるためである。
チャレンジ対象はTrudy, Chet, Pete, Dr. Mitchellであり、必要とされる条件が対象スキルが25-30とこのレベルにしては高めである。しかしGood Springの郵便ポストの中には様々な雑誌があり、チャレンジ対象がSpeechやBater, MedicineスキルであるTrudy, Chet, Mitchellは元のスキルが低くない限りは雑誌の効果でチャレンジを成功させられる。しかしPeteのみ対象スキルがExplosionであり、ExplosionのスキルをブーストするPatriot's CookbookはGood Spring内では見つからないため、Tagで設定することで無理矢理チャレンジを成功させている。
なおTagにExplosionを設定していないSiはもちろんPeteのチャレンジを突破できていない。

「なるほど、戦いか………。戦いは何処でもある。いつでも変わらない。そんなとき協力し合うことを忘れてはならない」Mitchell医師は呟くように言い、KutoとSiに視線をやる。「見ず知らずの町のために戦うことにしたとは……、大したものだ。もちろんわたしも協力しよう。この足のせいで戦うことはできないし、物資も少ないが……、できる限りのことはしよう」
「ありがとうございます!」
礼を言い、SunnyとKutoが目を合わせ、頷き合う。

MitchellはStimpackを幾つか提供してくれた。SiはSunnyとKutoとともに診療所を出た。
「あなたがKutoの言っていた、協力してくれるっていう牧師ね?」Sunnyは自己紹介をした。「わたしはSunny。よろしく」
戦いになるって?」とSiは尋ねた。昨日Kutoから聞いた話では、穏やかに決着するかもしれないという話だったが。
「そうなんです。Cobbって人、もうPowder Gungersの仲間を呼びに行っているみたいで……」Kutoはしゅんとした表情を見せて言った。「すみません、こんなことに巻き込んで……
本当だよ」とSumika。
「いや……、そのほうが楽だ」とSumikaの言葉を無視してSiは言う。「襲撃は何時頃あるんだ?」
「たぶん、今日の夕方くらいだと思う。仲間を呼んでくる時間を考えるとね」とSunny。
「物資は十分なんだろう?」
「はい。TrudyさんからはProspector Saloonを提供してもらえましたし、Peteおじいさんからはダイナマイト、MitchellさんからはStimpackを貰えましたし、あと雑貨屋のChetさんからは銃弾とレザーアーマーを……」貰った物資をKutoは次々に見せる。「あ、これ、着ます?」
「あんたが着たほうが良いんじゃないの?」とSunny。「薄着すぎ
「そう?」
とkutoは首を傾げたが、確かに彼女はホットパンツにタンクトップとかなりの軽装だ。
「そうだそうだ。いい年の女がする格好じゃないぞ」とSumikaが言うが、彼女も40代手前の服装とは思えない丈の短いオーバーオールを着ている。
「レザーアーマーとか暑いんですよね……。肌の感触が気持ち悪いし」とKuto。
「慣れればそうでもないよ」とSunny。

若い女は戦いを前にしても緊張感がないと思いながら、Siは雑貨屋の店主から譲ってもらったという弾丸を確認する。44口径の弾丸はなかったが、357口径の弾丸はあった。Siの拳銃はひとつは44口径、もうひとつは357口径の弾丸を扱うものなのでありがたい。

■武装
プレイ中では基本的に正規の方法で手に入れた武器やアーマーのみ使用することにする。
ただしどちらのプレイ時でもRPの関係上必要だという設定にすれば、最大3個まで正規ではない方法によって装備を得ることを可能ということにしている。
上でSiは.357口径用拳銃(.357 magnum revolver)と.44口径用拳銃(.44 magnum revolver)を持っているという設定になっている。.357 magnum revolverに関してはTrudyのサルーンで盗めるため問題がないが、.44 magnumは現在のレベルではChetの店でも周辺でも手に入らない。RPによる非正規の取得をすることもできるが、Siの場合は他に必要な装備もあるため、ここでは「.44 magnum revolverは設定上持っているが使用しない」という扱いにするに留めてある。


作戦会議のためにサルーンへと歩いていると、急に声をかけられた。
よぉ、相棒!

振り向くと、そこにいたのは胸のディスプレイに保安官らしき人物の絵を載せた、一輪の足を持つロボットだった。


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