おれはVictorだ。新顔さんよ、あんた、おれに何か訊きたいことがあるんだって?」

Victorと名乗ったロボットの口調はいやに親しげなそれだった。Mitcellが彼のことを「風変わりだ」と表現したが、確かに変わっている。

Securitronだね」とSumikaがVictorの種別について言う。Vegas周辺で警備や治安目的で普及しているロボットだ。
「ああ……」とSiは頷き、自分はVictorと話すことがあるのでサルーンにはあとで行くということを伝えるために連れの2人の女性のほうへと視線をやった。しかしKutoの姿はなかった。まぁ良いか、と思ってVictorに視線を戻す。「おまえがドクターの家に運んだっていう男について話が聞きたいんだが……」
「ああ、そのことか……」機械とは思えないしみじみとした口調でVictorが話す。「墓地であの騒ぎがあった晩、おれは夜に散歩と洒落込んでいた。そう、予感がしたのさ……。ちょうど撃たれた彼が埋められようとしていた。おれは状況を悟って銃を抜き撃った。バキューン! 彼を埋めようとしていた悪漢どもはおれに恐れをなして逃げていった。おれはすぐに彼を掘り起こしてドクターの元へと連れて行ったのだが……、残念ながら一足遅かった。やつはもう死んでいたよ」

「彼を埋めようとしていたのはどんなやつらだった?」
「残念ながらそこまでは見てないな、暗かったもんでね。だが町の他のやつらが見ているかもしれん。気になるなら訊いてみてくれ」Victorの排気音がひとつ上がる。「さて、おれは巡回の途中だ。これで失礼するぜ」
Victorは言うと、身体を傾けて行ってしまった。

変わっているでしょう?」とSunny。
「そうだな」Siは頷いた。「ところで、Kutoは?」
「Victorに気付いたときに、サルーンへ逃げちゃったよ。あの子、Victorが苦手みたい
「逃げたって?」
「Victorのほうは気に入っているみたいなんだけどね……、KutoのほうはVictorが嫌いっていうか……、怖いみたいなの。変に人間っぽいからね、あれ」Sunnyは肩を竦める。「Trudyも同じようなこと言ってたかな。確かに友好的に見えるけど、あの陽気なカウボーイみたいな喋り方も含めて、演技臭くて気持ち悪い、って」

なるほどな、とSiは思った。わからないでもない。Securitronは何度か見たことがあるSiだったが、あのような個性的なタイプを見るのは初めてだ。

サルーンに戻るとKutoがいた。彼女はばつの悪そうな表情で、「すいません」と言った。「あれ、ちょっと苦手で………
Ringo、TrudyやPeteという老人、そしてChetとDoc Mitchellを除くGood Springの全住人が集まっていた。
「では、始めます」とSunnyが言って対Powder Gungersの作戦会議が始まった。

どうやらGood Springの住人の多くは腕に自信があるらしかった。個々人が手入れをされた銃を持っており、戦いに関しては積極的だった。やがてMitchellも避難のためにやってきた。
その間、SiはJimを殺した男について聞いて回った。町の者の中には何人かJimを殺した人物を見たというものがおり、話を総合すると殺人者数人の男で、うち一人はVegasにいるような縞模様のスーツを着た蛇のような冷たい目の男だったということだった。

「あんまり大した情報じゃなかったね」とSumikaが言う。
「最近いろいろあってねぇ……、厭になるよ」とTrudyがラジオを弄りながら言う。「殺人は起きるし、Powder Gungersは来るし、ラジオは壊れるし……」
「ラジオが壊れたって?」と何気なくSiは尋ねた。「どんなふうに?」
「どんなふうにも何も……、とにかく聞けないの。なに、あんた直せるの? 直せるのならいくらかCapsを払うよ。このままだとラジオで世界の情勢やMr.Vegasの話を聞くっていう楽しみがなくなっちゃうからね」
Siはラジオを受け取り、検討をつけて電源周りを分解してみた。電源端子の一部が錆びていたので鑢で磨き、組み立て直すと正常に動いた。
「おぉ……、器用なもんだねぇ。ありがとう」とTrudyは50Capsを渡してきた。
「これだけか? そんな簡単な作業じゃなかったんだがね」と受け取った金を見てSiは言ってみた。
「ちょっと、Silas!」Sumikaが叱責する声が聞こえる。「意地汚いったら……」



「まったく、しょうがないねぇ……。いつもならこんなに払わないんだけど」と言いつつも笑顔でTrudyは25Capsを上乗せした。どうやらラジオが直ったのがよほど嬉しかったらしい。「ほら、これで十分だろう?」
Siは頷いてみせる。
まったく、もぅ……」とSumika。

「そろそろ襲撃が来そうだね」Sunnyが言った。「見てきたほうが良いかな」
「あ、わたしが行こうか?」と言ったのはKutoだった。
「あんたはやめたほうが良いんじゃない? 銃とか扱えないでしょうに」
「他のみんなはCobbさんに面が割れているでしょう? 牧師さまは男の方だし……、わたしだったら顔もばれていないし、警戒もされないと思う
Kutoの言うとおりだった。何かあったらすぐに逃げろ、とSunnyは言い、Kutoを送り出した。

しかし一時間経ってもKutoは戻ってこなかった。
遅すぎる」Sunnyが心配そうに言う。「なにかあったのかな………」
「銃声は今のところ聞こえてないな」Siは言う。
「あの子、とろそうだから銃なんてなくても捕まりそうな感じがする」
「それはあるかもね」とTrudy。「阿呆っぽいし
「わたしが行けば良かったかな………」Kutoをあまり好いていなかったSumikaも心配そうな表情だった。
「おまえ一人で行くと鴉に襲われたときとか危ないだろ」
Siは小声で言ってやる。Sumikaの姿は人間には見えないが、動物には見える。好奇心旺盛で嘴という武器を持ち、空も飛ぶ鴉は彼女の天敵だ。
「そうだけど………」
「あいつらのことだ、若い女を見つけたら何をするかわからん」とRingoという行商人が言う。
「うーん………」Sunnyが唸り、ライフルに手をかける。
「とりあえず、おれがいったん見てくる」Siは立ち上がって言った。
「わたしも行くよ」とSunny。
「いや、ひとりのほうが楽だ。何かあったときに対応しやすい。あんたはここを守っていてくれ」Siは言ってサルーンを出た。

両腰のホルスターに収められた二挺のリボルバーを確認する。急に誰かに出くわしたときに警戒心を与えないために抜きはしない。どうせホルスターに収めたままでも変わらぬ速度で抜き撃ちできるのだ。
警戒しながら進んでいく。Sumikaが前方に何かを見つけたと言った。
「男の……、あれ、たぶん、Cobbって男の死体だと思う………」
Sumikaの言うとおりだった。町の南方に置かれた廃車の傍にCobbの死体はあった。昨日サルーンで見たので間違いない。死体は足が千切れていた。火薬の臭いが辺りに漂っており、傷口も黒く焼け焦げていた。

はじめはCobbが持っていた爆薬を誤って爆発させてしまったのかと思った。しかしそうではなかった。Cobbの死体の上に紙片が乗っていた。紙片には文字が書かれていた。


牧師さま、およびGood Springのみなさま
わたしは用ができてしまったので、お先に失礼させていただきます。
お詫びといってはなんですが、おひとりでいるCobbさんを見つけたため、ポケットにダイナマイトを突っ込んで爆殺しておきました。後の方々はお任せします。

それではご健勝を祈りつつ。かしこ。
Kuto


は?
Sumikaが声をあげた。
「え、ちょ、なに、これ……? 自分から言い出しておいて……」Sumikaが何かに気付いたように顔を上げる。「あ、そうだ、しかもあの女、貰った弾薬とかレザーアーマーとか医薬品とかダイナマイトとか、全部持ったまま……、持ち逃げされた!
Siは言葉もなかった。
Kutoはもともとこうする予定だったのかもしれない。もともと自分は協力せずに、人々から物を集る目的で人々の協力を集めたのだ。Siに協力してくれるようにと頼んだ。愕然とした。

しかし放心している暇はなかった。目の前にPowder Gungersたちが迫っていた。人数は、5人。おのおのが銃を手にしている。そして彼らは死体の傍にいるSiを見て、きっとSiがCobbを殺したのだと思っている。
隠れてろ
SiはSumikaをコートのポケットに突っ込み、そのコートを脱いで岩陰に隠し、それから銃を抜いた。1人当たり2発ずつ銃弾を発射する。1丁6発の弾丸で、12発。5人に対して十分に足りるはずだった。

しかしPowder Gungersたちのうち何人かは、防弾のチョッキを着込んでいたようだった。頭を狙うまでの余裕がなく、多くの弾丸は胴体を狙って発射されたために、胸に弾丸が突き刺さっても怯むことなく撃ってきた。弾がSiの肩に突き刺さった。

Siは廃車の影に跳んだ。
「待てよ、待てよ」リボルバーは両方とも撃ち尽くしてしまった。新たに弾装に弾を込める。「待ってろよ……」

まだ相手は撃ってきている。複数人いるせいでいつ相手がリロードするのかよくわからない。Siは一か八かで飛び出し、目の前に見えた標的の頭に抜き撃つ。
死体が1、2、3、4、5。

足りたと思った。

足りていない。ひとつはKutoが殺したCobbの死体だ。もう1人いる。視界の端で銃を構えているのが見えた。間に合わない。

だが銃弾が発射されるよりも早く、男の頭が弾け跳んだ
撃ったのはSunnyだった。銃声を駆けつけてやってきたらしいGood Springのほかの面々もいる。
「まったく、無茶する……」Sunnyは慎重な足取りで近づいてくる。「1人で5人も倒すなんて、確かに凄腕ね。大丈夫? これで全員? Kutoは無事?」
「あぁ……」Siはコートを取り、Kutoの手紙を隠した。「Kutoは……、彼女はこいつらに捕まって危ないところだったが、なんとか助けられた。すぐに戦闘になって危なかったので、Primmのほうへと逃がしたよ。サルーンのほうも危ないと思ってな」
自分がなぜKutoのことを庇っているのか、Siは自問した。彼女はSiたちを騙して自分だけが利益を得ようとした。だがそのことを話して告発しようとは思えない。
なぜか。
やはりSumikaの言うとおり、Kutoがかつての家族、Aniseに似ていたからか

すぐにでもKutoの後を追いかけたかったSiだったが、怪我の治療をするのが先だと言われてMitchellのところで手当てをしてもらった。弾丸は貫通しており、そう深い傷ではないだろうということだった。
RingoやGood Springの住人たちには深く感謝された。

今日は一日休むようにといわれ、Doc Mitchellの診療所に泊まった。
「なんであんなに危ないことしたの?」
夜、Sumikaが涙を目に浮かべて言った。
「なにが」
「戦うときに、コート脱いだでしょう? なんで? あんなことしなければ簡単に勝てたのに………」
「おれは寝る」答えにくい質問だったので、Sumikaに背を向けて目を瞑る。
Sumikaは長いこと黙っていたが、やがて二言三言言葉を発するのが聞こえた。
「嬉しかったよ」と。「でもね、でも………」
翌朝、SiとSumikaはGood Springを出立した。

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