Primmの町を守る方法は3つだ。
1つは目はBeagleの言っていたPowder Gangersの拠点であり、元刑務所であるNCRCFにいるMayerという元保安官を連れてくること。2つ目はNCRの保護下に入り、彼らの庇護を受けること。3つ目はカジノで稼働中のPrimm Slimというロボットを補修して保安官に仕立て上げること。その中でSiは最も確実と思われる、2つ目の方法を選択した。
Primm門前に駐屯しているHayes中尉率いるNCRのテントに戻り、SiはNCRの保護を求められるかを尋ねたが、Hayesはそれだけの余裕はないと返答した。守ってやりたいのはやまやまだが、兵隊が足りない。NCRの法をPrimmに持ち込みたければ、ずっと南にあるMojave基地Knightという男に援軍の嘆願を直接する必要がある、とのことだった。

SiとSumikaは片道で半日ほどかかるMojave基地へと向かった。
その間、食事のときに僅かに交わした以外の会話はなかった。

Mojave基地でKnight少佐という男と話をしたが、返答は芳しくなかった。救援はしてやりたい、しかし物資も兵士も十分にない。隊をこの基地から動かすことはできない、と。
基地にいたRangerの話によると、NCRの上層部は兵士をVegasに程近いMcCaran基地Forlorn Hopeに向かわせているらしい。NCRの現在の目的はダムの制圧とVegasへの介入だ。PrimmやMojave基地のような辺鄙な場所に構っている暇はないということだろう。


●Ranger
NCR軍の特殊部隊。
人数は少ないがその錬度は他のNCR兵士と比べて格段に高く、個々人に特殊な装備が与えられている。


NCRは肝心なときにあてにならない。そうすると1つ目か3つ目の方法を選択するしかない。しかしPrimm Slimというロボットを修復するのは難しいだろうし、直せたとしてもProtectronでは保安官として碌な働きはしないだろう。となると、Beagleの提案通りにNCRCFでMayerという名前の元保安官の現脱獄者を呼ぶしかない。

もう日が沈みかけている。今夜はMojave基地内に宿を取ることにした。幸い旅人向けに幾つかのベッドは開放されており、食事をするところもある。

(うーん………)

Beagle保安官補佐と会話をしてからというもの、Siの機嫌が相当に悪い。Sumikaもそれに気圧されて会話がない。だがずっとこのままは厭だ。何か会話をしなくては、と食事をしながら思う。

会話の内容を考えていると、Siの隣に誰かが座った。それは背中にライフルを背負った女だった。彼女はウィスキーとつまみを注文した。
と、その女性が急にこちらを見た。
なに見てんの?

自分に話しかけてきたのかと一瞬勘違いしたSumikaだったが、よくよく考えると女はSiを見ていたのだった。

「いや……、べつに」とSi。
「べつに? はぁ!?」女は手に持ったグラスを叩きつけるようにカウンターに置く。カウンターの中の店員が呆れたような表情で見ている。「気の利かないやつだね……、こっちは見世物じゃない。なに、あんたなにが言いたいの? この女、頭大丈夫なのかとか思っているんでしょう? 思っているんでしょう!? 大丈夫なわけないじゃない! 見ればわかるだろ! あんた馬鹿なの? ばーかばーか!

(うわっ……、酒臭い………

女がSiに顔を寄せて口を開くたびに、女の口から酒臭い息が漏れた。顔色は正常で呂律も回っているが、相当に酔っているようだ。今も言葉の隙間で酒を煽っている。こんなに酒臭い人間は見たことがない。まるで漬物だ。SumikaやSiも酒を嗜むが、ここまで飲む人間を見るのは初めてだ。
Sumikaははらはらしていた。Siは今、どんな表情をしているだろうか。この女性やBeagleのような、自分の考えていることをそのままにぶつけてくるような相手はSiは苦手だ。

「だから飲んで忘れようとしているの! え、わかる? ウィスキーだけ、ウィスキー飲んでいるときだけ冷静でいられるの!」と言う彼女はまったく冷静ではない。むしろ一人で激昂している。「飲めば元気だから……、飲めば……。くそぅ、西部でも飲めば無敵だったんだから……。商隊でだって……! くそぉ……、なにが安全な道はないだ! あの糞っ垂れJacksonが、手助けもしてくれないくせに無駄に止めやがって……! 糞っ垂れ糞っ垂れ糞っ垂れ! ぶっ殺してやる……! くそぉ、絶対ぶっ殺してやる、あの糞ども……!」
女はカウンターに頭を伏せ、両手でカウンターを何度も叩き、やがて静かになった。寝息を立てている。興奮しすぎて寝てしまったようだ。 

「その子はCassっていってね……」カウンターの中から店員の女が声をかけてくる。「NCRの兵士じゃない。あんたと同じ、流れ者。もとはCrimson Caravanの商隊を率いていたらしいけど、北のほうで隊を襲撃されてね……。仲間は焼かれ、荷は奪われて……、ひとり生き残ったんだってさ。それからずっとここで酒浸りってわけ」
「Raiderか?」とSi。
「彼女の話だと、単なるRaider集団じゃなくてLegionらしい。ま、彼女が思っているってだけだけど……、なんにせよ可哀想な話だよ。仇討ちしたいらしいけどね……、本当にCaesar's Legionが相手ならこの子ひとりでどうにかなるってもんでもない」店員は息を吐いた。「ま、とにかくそういう事情があるってわけ。だからあんたも、怒らないでやってよ。酔っ払いの戯言だと思ってさ」

Legion………!

●Caesar's Legion
現在のアメリカ西海岸、Mojave WastelandにおいてNCRに次いで巨大な勢力を誇る組織。
奴隷制度や決闘など、古代ローマを模範とした軍を育成している。銃や爆薬に頼らないその兵士たちの練度は非常に高い。またNCRと同様、独自の貨幣を流通させている。


翌日、Mojave基地を出る際に昨日食事をした店を見たが、Cassの姿はなかった。寝ているのか、それとも本当に復讐をしに行ったのか。

おまえさ………
Mojave基地を出て少し歩いたところで急にSiが話しかけてきたのでSumikaは驚いた。Mojave基地で新たに購入したコートのポケットの中で姿勢を正す。「は、はい!?」
「おまえってさぁ……」Siが長い沈黙を保ってから言った。「本当に、ああいう駄目人間が好きだよな
「え?」

(駄目人間?)
急に言われて何のことかわからない。

「昨日のさ、あの女といい……」Siは視線を前方に向けたままゆっくりとした口調で言う。「Primmのあの保安官補佐といい………」

Beagle保安官補佐のことは、昨日Primmで蹴られそうになったBeagleをSumikaが庇ったことを言っているのだろう。しかし昨日食堂で出会った女性、Cassに関しては何なのだろう。

「おまえ、ずっと見てただろう。あの女のこと……。あの女がさ、阿呆みたいに何か言うたびに、びくびくしながら………」ぽつりぽつりとSiが言う。「だから」

確かにCassを見てはいた。変わった女性だとは思った。仲間を殺され、仕事を奪われ、酒浸りの日々。復讐に誓う姿は何かを思い起こさせた。可哀想だと思った。だが彼女を見ていた理由の最たるものは、Siを見るのが怖かったからだ。

「駄目人間って……、失礼じゃない?」と勇気を出してSumikaは言ってみた。
「駄目人間だろう。特にあのCassって女なんか、酒飲んで騒ぐわ酔い潰れるわ、酷いもんだったじゃないか」
「Silasだってひとのこと言えないでしょ?」
Sumikaは胸の前で両手を合わせた。
苦しい。きっとこの会話のタイミングを逃したら、Siは離れていってしまう。だから頑張って、頑張って話をしなくては。以前の通りに戻らなくては。

 もうひとりになりたくない。

「ご飯は作れないし、洗濯はできないし……、朝はひとりじゃ起きられないしね」
「じゃあおまえはおれが駄目人間だから一緒にいるってことか」

 違うよ。

「そうかもね」
Sumikaは笑ってみせた。

ああ、これで元通りだ
きっと元通りだ、とSumikaは思った。
その日の午後、Primmの北部にあるNCRCFへ向かったSiはPowder Gangersに変装して潜入。入口の見張りひとりに気付かれかけたものの殺害し、元保安官のMayerと接触。彼を説得し、翌日には保安官を勤めさせることでNCRに罪の帳消しを認めさせた。

BeagleからKutoの行き先を聞いたSiとSumikaは、Kutoに遅れること2日、Niptonへと向かった。

Mojave基地にてCassの商隊がCaser Regionに襲撃された話を聞いたとき、Siは特に目立った言動をしなかった。だからきっと、Legionの兵士に出会ったとしてもSiは大丈夫だ、とSumikaは思っていた。彼は冷静なのだ、と。


それが間違いだと知ったのはNiptonに着いてからだった。

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