Orrisの手が持ち上がるのが見えた瞬間にSiは引き金を引き絞っていた。
Siの手からリヴォルバーが落ちた。Orrisが首の動きで弾丸をかわし、Siの手から銃を叩き落したのだった。

正直なところSiは驚いていた。Orrisという男は、防御力は高いが動きにくいメタルアーマーに身を包み、実包を使わないハンティング・リヴォルバーで小銭を騙し取っているだけの男だと思っていた。しかし実際の彼は至近距離で銃の射線から逃れ、弾丸が耳の脇を通過する際の衝撃波もものともせずに攻撃を仕掛けてきた。

叩き落された.357口径の代わりに.44口径を抜いたが、それはハンティング・リヴォルバーの弾丸によって弾き飛ばされた。暴発こそしなかったが、またフレームが曲がって使い物にならなくなってしまったかもしれない。
金がないのに、と思いながらSiは.357口径回転式拳銃を掴んで射線から逃れるために廃車の影に隠れた。目前で火花が飛ぶ。

叩き落されただけだったので、.357口径は壊れてはいなかった。目詰まりもないことを確認して背後に向かって射撃する。いつのまにか起き上がり、Siの背後に迫っていたOrrisの仲間が手の甲を撃たれてもんどりうった。

「まだいるっ!」

Sumikaの声に応じるかのように倒れていた男たちがSiに攻撃を仕掛けてきた。たった今手を撃たれたばかりの男も、先ほど足を撃たれた男も、みな手にナイフや棒を手にして襲い掛かってきたのだからたまらない。おまけにOrrisがリヴォルバーでSiを狙っている。

Orrisの狙いは正確で、おかげでこちらは狙いがつけられない。

Orris以外の敵をすべて倒す頃には、手持ちの.357口径の弾丸は尽きてしまっていた。護衛が必要な一般人に見せかけるために武装を減らしていたことと、その減らした武装の中で市街戦用にホローポイント弾を多めにしたのが失敗だった。Orrisのメタルアーマーはホローポイント弾では貫けない。

「Si? どうしたの!?」様子を見かねたSumikaが小さく叫ぶ。
弾切れだ
弾切れって………
絶句するSumikaを押しやる。「その辺に隠れてろ」
「弾切れか!?」Orrisが叫ぶ。「大人しく出て来い! 質問に答えれば命だけは助けてやるぞ!」
Orrisはハンティング・リヴォルバーで狙い続けている。Siは大人しく銃を放ってから廃車の陰から出た。
「ここまでよくもやってくれたな……」顔を動かさずに視線だけを動かして、Orrisが怒りを孕んだ口調で言う。「NCRか? それともThe Kingsのやつらか?」
両方だ、とは言えない。Siは足元に落ちているハンマーに視線をやった。今では死体になったOrrisの仲間が持っていたものだ。しかしハンマーで銃に立ち向かうのは少々辛い。
「おい、なにを考えてる? 大人しく手を挙げて、質問に答えろ。NCRか、The Kingsか?」
お手上げだ

Siは手を挙げた。袖口から飛び出した投げナイフがOrrisの喉笛に突き刺さる。二歩足を進め、ナイフを振りぬく。Orrisは声もあげずに喉から大量の血を噴出させて死んだ。

降りかかった血飛沫を拭い、二挺の拳銃を回収する。やはり.44口径は駄目になってしまっていた。.357口径のほうは弾丸がない。ホテルに残してある分もたいした量ではないので、どこかで調達する必要がある。
後ろを振り返ると、Sumikaが目に涙を溜めて浮いていた。
大丈夫か?
Siは声をかけて彼女の髪に触れようとしたが、手が返り血で汚くなっていたので、やめた。

King演劇学校に戻ると、The Kingは笑顔で手を広げた。
「Orrisのことは上手くやってくれたようだな?
「見ての通りだ」Siはまだ血の痕が残る肩を竦めてみせた。
「巧妙にとはいわないまでも、確実に仕事をこなしてくれたわけだ。それで十分だよ。今後もご贔屓に、ってところだ」

「あんなに強いだなんて聞いてないぞ」
おたくはもっと強いんだろう?
どうやらThe KingはOrrisがどのようにして荒稼ぎをしていたか知っていたようだ。自分の部下を向かわせなかったのも、Orrisの腕を心得ていたからなのかもしれない。

次の仕事は、The Kingの友人を襲撃した人物を探れというものだった。
「ここから北に位置しているOld Mormont Fortに彼らはいる。彼らが襲撃者のことを覚えているかどうかはわからんが、まぁ、行ってみてくれ」
彼は犯人を捜せと口では言っているが、その口ぶりをみる限りでは、襲撃者の正体はNCRであると検討をつけているようであった。今度はSiにNCR退治をさせるつもりかもしれない。
「今度の相手はなんだ?」と首を回してSiは尋ねた。「ガンマンの次は軍人か? プロレスラーか? 忍者か?」
モヒカンの女かな」
「そんな女はいねぇ」

Freeside地区北のOld Mormont Fortには、確かにモヒカンの女がいた。

ここに来る前にNew Vegasのすぐ外側に位置しているGun Runnerで弾丸を調達して心にゆとりがあったのが幸いだった。もし切羽詰った状況であれば、彼女に声をかけられた瞬間に投げ飛ばしていたかもしれない。
「ちょっと、あなたボランティアの人?

モヒカン女は美しい顔立ちをしていた。綺麗な声だ。これでモヒカンでなければ彼女の容姿は完璧だろう。彼女は完璧な存在が許せない正確なのかもしれない。一見すれば人肉喰らいのRaiderと見まごうヘアスタイルでありながら、彼女の知性を讃えた瞳は目立っていた。

「あんまりじっと見てると失礼だよ」と確実にSiよりも女のヘアスタイルに注目していたSumikaが注意した。
好き好んでこの髪型にしているのだるおから、失礼ということはないだろう、と反論したSiだったが、ふたつの理由で諦めた。ひとつは目の前にSumikaのことを知らない女がいるために彼女と会話ができないこと。もうひとつは彼女がモヒカンというヘアスタイルを好んでいるわけではなく、サッカー選手や赤いパンツを履いたボクサーがパンチパーマをしているように、自然にモヒカンになってしまう髪質なのかもしれないと考えたためだ。

ボランティア?
「違うの? だったら薬品を届けに来てくれた人? だったら広場の真ん中のところに置いてちょうだい」
薬品が足りてないのか?」
「Freesideの病人と怪我人の割合が多いのは知ってるでしょう? 今ある物資ももう長くは持たない」
「なるほど」
「で、なんの用?」と薄いブルーの瞳でモヒカンの女は睨んできた。「ボランティアでも、物資を持ってきたわけでもない。怪我人ってわけでもない。冷やかし?」
「薬って、なにが必要なんだ?」
Med-X、Rad-AwayFixer……、何もかもがFreesideには足りない。なに、もしかして何かあるの?」女は顔を輝かせた。「十分な支払いはできないけれど、今後治療の代金を安くすることくらいはできる。なにがあるの?」
「いや……、ない」Siが言うと女の顔が引き攣ったので、付け足す。「すまん

なんとなく沈黙の間ができるのが怖くなってSiは言う。「あの、こうやって寄付をを募るよりは、しっかりしたところから援助を貰ったほうが良いんじゃないか?
「そんなのわかってる。Crimson Caravanには救援を要請している。でも彼らはわたしたちのことなんて気にも留めない。まったく……、やってられない。で、結局冷やかしなわけ? だったらさっさと出て行ってくれる?」

彼女から声をかけてきたというのに酷い扱いだ、とSiは思ったが、怖いので口に出せない。
最近誰かに攻撃されて怪我したってやつらに会いに来たんだけど」
「そんなのはここにはビンゴの景品にするくらいいる」とモヒカン女はにべもない。
The Kingの知り合いだ
Siの言葉を聞くと、彼女は厳しい目つきをさらに険しくして、上から下までSiを睨みつけた。
「あんた、The Kings……、って感じじゃないけど………」細められていた目が開く。綺麗な瞳がよく見えるようになった。「もしかして、怪我してない? その手とか」
「いや」Siは首を振る。別に弾丸が直撃したわけではない。ナイフをいなしたり、ごみだらけの街路に手をついたりしたせいで傷だらけになっているだけだ。
しかしモヒカン女は強引にSiをテントの脇の木箱が積んであるところまで引っ張っていく。「手当てするから、そこに座って」と言って、Siの掌に消毒液を塗り、包帯を巻いた。当分は銃が握りにくくなりそうだ。
「薬がないんじゃなかったのか?」
わかってるんだったら、もうちょっと殊勝な態度を取ってくれる? なにやったらこんなになるわけ?」とモヒカン女は文句を言いながら手を診た。
「銃撃戦」
「子供みたいにおもちゃで撃ちあってたってわけ? まったく……」モヒカン女は掌の包帯の巻かれていない一点に目を留めると、Siの顔とその部分を交互に見た。「あなた、もしかしてNCR?
「なんでだよ」とSiは少し驚きを感じつつも答えをはぐらかした。
「人差し指のところにタコがあるから。しかも両手とも。そのへんのチンピラとかThe Kingsの見た目だけの阿呆じゃこんなに訓練した手にはならない」
「職業が探偵なら、名札にシャーロック・ホームズって書いとけよ」
「わたしはJulie Farkas。ここで医者をやってる」Julieと名乗ったモヒカン女は挑みかけるような視線を投げかけてくる。「で、あなたは?」
Silas Makepiece。職業は牧師The Kingの頼みで襲撃されたやつらに話を聞きに来た」
Julieの視線からは懐疑の色が消えない。「いまいちわけのわからない自己紹介」
「おれもそう思うよ」Siは肩を竦めた。

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