0日目

ウルはシルリムの体毛と同じく真っ白な鬣を撫でた。彼女はウルが子どもの頃からともにステップの草原を駆けた親友のような馬だ。
彼女の背には鞍のほかに、交易品や食料などの荷物が括り付けられている。これからウルは彼女とともに旅に出るのだ。

はるかかなたの地で産声を上げて後、何年もが過ぎた。
あなたの父は……

ステップの遊牧民

あなたはステップの子、遊牧民の子として生まれた。
あなたの部族は不毛の草原地帯で、
大きなキャンプを張って放浪をつづけていた。
他の部族民と同じように、あなたの家族も他の何よりも馬を崇拝し、
あなたが歩き出すより早く馬の乗り方を教えたのだった。

「まずはどこに行くんだ?」とウルの兄が訊いた。
「海のほうへと行こうと思う」
ウルは答えつつ、最後の点検をする。荷も剣も弓も、シルリムの様子も問題は見あたらない。

あなたは立ち上がって話せるようにあるやいなや
世の中のことどもを学び始めた。
あなたは幼年時代を……

ステップの子供

あなたは雄大なステップを、草原の道と砂漠の道を学びながら、
自分の馬で駆け巡っていた。ときたま空腹を覚えることもあったが、
すぐにこの道なき国におけるてだれの猟師、開拓者となったのだった。
あなたの身体も、遊牧民の男として成長するにつれ、
力をつけたくましく成長したのだった。

「海か……。ノルド王国の領土だな」と行商人であるウルの父が反応する。「おまえを連れて行商に行くときはノルドのほうまで行ったことはなかったな。向こうは随分と勝手が違う。馬が少ないから、シルリムの食料や歩かせる道はきちんと選べよ」

その後、青年となった頃、あなたの人生に変化が訪れた。
あなたがなったものは……

行商人

この変化はあなたにとって唐突なものとも思えたが、
あなたが一人前の男となるにつれ、
あなたの周りの世界も変わり始めた。

目の前に伸びる開けた道の呼びかけに従い、
あなたは村から村へ、商品を売り買いして渡り歩いた。
決して裕福とはいえなかったけれども、
どんなひもじい暮らしの老人でさえも、
あなたの商品を高値で買い取るくらいの売り文句を吐くようになった。
そう、大貿易会社を打ち立てるには、今ならいいスタートを切れそうだ。

「兄様、お土産忘れないでよね!」と妹が元気良く言った。
「海沿いっていうと、魚かな」と弟が言う。
「こっちに持って来るまでに腐っちまう」と末弟の言葉に兄が豪快に笑う。
「綺麗な宝石とかかな。真珠だとか。いろんなところを巡ればいろんなものが見つかると思う」
「海に行くだけじゃないの?」急に妹が不安そうな表情になる。
「いろんなところに行ってみるつもりだよ。海だけじゃない。雪があるところとか、人がたくさんいるところとか。戻るのも、いつになるかわからない。長旅になると思う」
「兄様、そんなこと言ってなかったじゃない」
「心配かけると思って」
「どうして旅になんて出ちゃうの?」妹が涙をこぼす。「行かないでよ」
ウルは無言で妹の頭を撫でた。彼女に泣かれると出発しにくいが、いつまでもここで
ぐずぐずはしていられない。陽が昇りきっていないうちに出発しなくては、夜までに町には到着できない。

しかし、すぐにすべてが変わり、
あなたは冒険者として歩み出すこととなった。
それはなぜかというと……

さすらいの欲求

あなただけが、なぜ今までの暮らしをなげうち、
冒険者とならねばならなかったか知っている。

家族の皆と抱き合って別れを告げてから、ウルはシルリムの背に乗った。
「ウル」
彼の名を呼んだのは、ずっと黙っていた彼の母親だった。
「帰ってきてなんて言わないから、必ず無事でいてね。あなたがしたいようにしたら良い。でもたまには顔を見せて。わたしたちはみんな、あなたのことを愛しているのだから」
ウルは黙って頷いた。
彼と10も違わないその女は、実の母親ではない。ウルを産んだ母親は、ウルが産まれた直後に死んだ。ウルが生まれて数年してから新たに母親となったその女がウルを苦しめた。

いつ頃あなたの家が監獄となったのか、
家族がつまらぬものとなったのかそれはわからない。
だが、放浪したいという欲求があなたの生活全てを奪ってしまった。
恋焦がれるのははるかかなたの地か
遠くまで伸びる道か、
それとも旅行の気ままさか、
いずれにせよあなたはもうひとところに留まっておられない。
ただ歩き続けるのみ、そして決して後を振り返りはしない……

冒険者となりカルラディアに馬を進める

あなたは、カルラディアの地へ。
覇権を目指し諸王国が割拠する地へと辿り着いた。
騎士、傭兵、殺人犯、冒険者、
命を賭して富と権力、そして名声を求めるものたちの避難所へ。
大きな危険と、より大きなチャンスが横たわるこの地で、
過去をふりほどき、新しい生をはじめrのだ。
今、遠くに訓練中を望む丘の上で、
運命をこの手中に握っているのを感じる。
いかなる途を選ぶのも自由、そして、いかなる途を進もうとも、その往く手には大きな冒険が待ち受けているのだ。

義母が嫌いなわけではなかった。彼女は前妻の子であるウルや兄に対し、過不足なく愛情を注いでくれた。慈しんでくれた。決してあとに産まれた妹や弟たちと差別することなく、実の息子のように扱ってくれた。
だが彼女は決して実の母ではない。
それがウルを苦しめた。
あまりにも無防備で、可愛らしく、愛おしく、一生懸命なその姿がウルにとってどれだけ重く圧し掛かっていたか。彼女のために幾度眠れぬ夜を過ごしたか。呻いたか。



そんな日々も今日で終わる。
ウルは世界に向けて、一歩足を踏み出した。

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