天国/01/00
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拝啓 旦那さま
突然のことで申し訳ありません。
ですがこの異国の地、戦うことしかできないわたしにはこのような形ででしかご恩をお返しすることはできません。
はるかかなたの地で産声を上げて後、何年もが過ぎた。
あなたの父は……
没落した貴族
あなたはこの世間に、衰退しつつある貴族の娘として歩み出た。
持っている資産といえば家だけ。しかし、家門の苦境にもかかわらず、
家人たちはあなたが子供のころから、貴族たることの厳しさ、
そして宮廷生活について、よい教育と訓練を施したのだった。
わたしは遠い異国の地で生まれました。わたしの父は武士で、この地でいえば貴族か軍人といったところでしょう。
武士の家では男の子が喜ばれますが、父にはわたし以外の子には恵まれませんでした。だから彼はわたしに男の子に教えるような弓術や馬術を教えてくれました。
あなたは立ち上がって話せるようにあるやいなや
世の中のことどもを学び始めた。
あなたは幼年時代を……
宮廷小姓
幼年時代を過ぎようとする少女の頃、あなたは地方貴族の宮廷に送られ、
そこで過ごす事となった。そこであなたが最初に学んだことは、
謙遜し、貴族たちの家事の給仕をすることだった。
しかし、彼らのチェスやゴシップ、叙事詩や宮廷恋愛からでさえも、
あなたは大人の、闘争と競争の社会について学んだのだった。
あなたはまた、子供たちが棒を持って相手を叩きあう野蛮な遊びから、
大人が用いる剣との類似について学んだのだった。
わたしはその後人買いに連れ去られてこの遠い異国の地に売られました。父は攻めてきた賊と戦って死にましたが、この地での差別と非道はそれ以上にわたしにとって大きな衝撃でした。朝から晩まで、息吐く暇もない生活。それだけなら良かったと思いますが、だんだんとわたしを買った家の主人は要求を大きくしていきました。
わたしはその家から逃げ出しました。といっても、有色人種のわたしにこの地で生活していくだけのあてはありませんでした。
そこから先は旦那さまの知っての通りです。
その後、青年となった頃、あなたの人生に変化が訪れた。
あなたがなったものは……
密漁者
この変化はあなたにとって唐突のものとも思えたが、
あなたが一人前の女となるにつれ、
あなたの周りの世界も変わり始めた。
並の出来の連中が金貨のために必死であくせくしているのは頂けない。
あなたは地方貴族の所有林に入り、森の恵みをいただくことにした。
法律なんかくそ食らえ。
牡鹿や、イノシシ、ガチョウを狩って、こっそり肉を売りさばく。
見張りの目の前で木を切り倒し、薪にしては冬を凍える
多くの者たちを暖めてやる。
もちろん、いくらかの小銭と引き換えにだ。
金も伝もなかったわたしには、幼い頃の武芸を頼って獣を狩って生活するしかありませんでした。
いつしか自分も獣になってしまったような気がしました。
貴族の領地に入って獣を狩り、見つかって矢をいかけられて怪我をして死にかけていたとき、もしあなたに会っていなければわたしはとうに死んでいたでしょう。
わたしの怪我を治療してくれたあなたが。
わたしの身の上も聞かずに雇ってくれたあなたが。
わたしのことを初めて人間扱いしてくれたあなたが。
わたしを貴族の手から庇ってくれたあなたが。
わたしは嬉しかったです。
しかし、すぐにすべてが変わり、
あなたは冒険者として歩み出すこととなった。
それはなぜかというと……
金と権力を求めて
あなただけが、なぜ今までの暮らしをなげうち、
冒険者とならねばならなかったか知っている。
あなたは数少ない財産をなげうってわたしを助けてくれました。
だから今度はわたしがあなたを助ける番です。
わたしには幼い頃に身につけた武芸の腕しかありません。ですが、これできっとあなたを助けてみせます。必ずや大金を手に戻ってきます。
あなたを突き動かすのはいまや自分の利益だけだと皆知っている。
金持ちになりたい。
権力を持ちたい。
尊敬されたい。
畏れられたい。
誰もが従いたいとる存在になりたい。
自分の名前を他人に知らしめたい。
その名が出ると場が静まりかえる、そんな存在になりたい
全てが欲しい。
誰にも邪魔させるものか……
冒険者となりカルラディアに馬を進める
あなたは、カルラディアの地へ。
覇権を目指し諸王国が割拠する地へと辿り着いた。
騎士、傭兵、殺人犯、冒険者、
命を賭して富と権力、そして名声を求めるものたちの避難所へ。
大きな危険と、より大きなチャンスが横たわるこの地で、
過去をふりほどき、新しい生をはじめrのだ。
今、遠くに訓練中を望む丘の上で、
運命をこの手中に握っているのを感じる。
いかなる途を選ぶのも自由、そして、いかなる途を進もうとも、その往く手には大きな冒険が待ち受けているのだ。
必ずやあなたを助けてみせます。わたしの受けた恩の、何分の一かでも返して見せます。
待っていてください。
そしてわたしがまた戻ってたとき、もしよろしければ、きっとまたメイドとして雇ってください。
長くなりました。ひとまずこれで失礼させていただきます。お体にお気をつけてお過ごしください。
かしこ。
ラン
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