第一行
Baby Steps

「お前が大人になったら、何よりも勇気こそが男の男たるゆえんであることを忘れぬように。
いったん戦に向かう道に足を踏み入れたら、いかなる用事があっても、途中で引き返してはなりません。いったん目的地まで行って、それから引き返しなさい。
(『ポーニー族の族酋長の未亡人の教え――「息子よ」』 『レッドマンのこころ』より)


Lynn
Lv. 1
S/P/E/C/I/A/L=8/3/10/5/4/8/2
Tag: Melee Weapon, Science, Unarmed
Skill:
[S]: M.Weapon=35
[P]: E.Weapon=10, Explosives=10, Lockpick=10
[E]: B.Guns=31, Unarmed=41
[C]: Barter=16, Speech=16
[I]: Medicine=18, Repair=13, Science=23
[A]: S.Guns=25, Sneak=25
Perk:
[Others] Lawbringer
Equipment: -


 なんてことだ、というのが彼が目覚めて最初に認識した声だった。

 その声は男のもので、神よ、だとか、ちくしょう、だとか、とにかく神を崇めたり貶めたりしていた。

きみ」と男が言う。「きみ、聞こえるか?」

 彼の瞼の上には何かが覆いかぶさり身体は固定されていたため、周囲は何も見えなかったが、彼はその男が自分に対して呼びかけていることはわかった。男の言葉に敵意のようなものは感じず、現在自分の立場がまったく把握できないできていないこの状況で嘘を吐く理由もなかったため返答しようとしたが、口が動かなかった。

「ああ、いや、返答しなくて良い。動けないだろうから」男は彼の心を読み取ったかのように言った。「きみに意識があるということはこちらからでも確認できる……。ちょっと読み辛いけれども、まぁ健康だということもなんとかわかる。まだ起き上がれないだろうし、口を動かすのも億劫だろう。安静にしてくれて良い」

 男はそうは言ったが、彼は身体を動かそうとせずにはいられなかった。

 おれはだれだ。
 おまえはだれだ。
 おれはなぜ動けないのだ。
 ここはどこなのだ。
 おれはだれだ。

ぼくはJamesという」男はまた彼の言葉を読み取ったかのように言った。「きみと同じVaultから来た。ここのVaultじゃないけどね」
 Jamesと名乗った男の声は落ち着いた調子だった。若くはないだろう。壮年の男性のものだ。
 Jamesの言い方からすると、彼とJamesは見知りあった仲というわけではないのだろう。今始めてあったという感じだ。

(Vault……)

 Vaultとはなんだっただろうか、と彼は思い出そうとする。
 Vaultは……、そう、核シェルターだ。核戦争から逃れる人類を救うため、VAULT-TECが作り出した市民用の核シェルター。Vault同士は連結されておらず、放射線漏れを防ぐ為に完全密閉・封鎖されていたはずだ。Jamesという男が別のVaultからやってきたということは、外の世界の放射能汚染は収まったということだろうか?

「ここへはちょっとした調査でやってきたんだ。探し物があるかもしれないと思って……、まぁ探してたものは見つからなかったんだけれども、きみがいた。生きているようだったから装置から開放したんだけれども……」Jamesは言いよどんだ。「すまない。もしかするときみは恨んでいるかもしれない。いや、恨むことになるかもしれない。そうなったらすまない。だが………」

 Jamesの言葉を遮るように甲高いサイレンの音が鳴り響いた。小さく舌打ちが聞こえる。

「すまない。きみの母親に見つかったようだ。ぼくはもう行かなくてはいけない」

(なんだって?)

 彼は急に不安を感じた。自分が誰なのか、ここがどこなのか、それさえもわからないこの状況で、少なくとも自分に対して敵対的な態度を取っていない人物が行ってしまうというのだ。彼はJamesを引きとめようとしたが、身体は動いてくれない。

「目覚めるだけ目覚めさせておいて、本当にすまない。だがきみの母親はきみを傷つけることはないだろう。きみは大丈夫なはずだ。身体が自由に動き、目が開くようになったら自分で辺りを見て回ると良い。そして自分でどうするべきか考えるんだ。他人に、親に押し付けられた役割ではなく、自分で何を為すべきか、何を為したいかを考えるんだ。少なくとも今のきみには何の義務も責任もないんだから」
 Jamesは忙しなく喋ったが、彼にはその言葉が何を意味しているのかよくわからなかった。Jamesの言葉は曖昧であり、彼の知らない内容を喋っているように感じられた。
「本当に、すまない。また会えたらいくらでも罵ってくれても構わない。でもぼくはもうここにはいられない。きみの母親に殺されてしまうからね

(待ってくれ!)

 彼は叫びたかった。不安でいっぱいだった。
 母親とは、誰なのだ。自分には母親がいるのか。それはどんな人物なのか。Jamesを殺すという母親とは。

 彼は全身に力を込めてJamesを引き止めようとした。

きみが強く生きてくれることを願っている。それじゃあ」

 全身に力が入らない。
 Jamesの言葉の後に、足音のようなものが聞こえた。銃声のような音も。
 動けない。

 やがて何かがやってくるような気配を感じた。Jamesのわかりやすい足音はまったく違う、這いずるような音。

『起きたのね』

 女の声ではない。
 聞いてそれとわかる電子合成音。

『またおやすみなさい、わたしの赤ちゃん………』

 声とともに冷たい何かが首に触れた。
 全身に怖気が走った。
 彼はその恐怖の感情を力に変えて全力を振り絞った。機械の稼動音のようなものが聞こえ、首に触れるものの面積が増える。

 空気が変わった。
 身体が動く。
「おぉ………」
 声も出る。
 身体が冷たい。
 流れのない空気が身体に触れる。彼を拘束していた何かしらのものを打ち壊して外に出ることができたのだ。
 だが目には何かが覆いかぶさったような感じがして、何も見えないままだ。

『おやすみなさい………』
 電子合成音が聞こえたほうに向かって彼は左腕を突き出した。
 冷たいものが触れる。明らかに人間の肌の感触ではない。そう、声からわかっていたが、彼の目の前にいて語りかけてくるものは人間ではないのだ。機械だ。冷たい機械が左腕を圧迫していく。

 人間ではない。

彼は突き出した腕を一度後ろに振りかぶった。
 前に突き出す。
 冷たいものに当たり、そのまま突き抜けた。触れたものが壊れる感触。電子合成音が何度か小さく流れたが、やがて止まった。

 息が荒い。彼は半身を起こした姿勢だったが、どうにか周りの構造材に手をついて外に這いずり、立ち上がる。目は未だに見えない。

『駄目でしょう、暴力を揮うだなんて………』

 もう一度同じ電子合成音が、先ほど壊した機械とは違う方向から聞こえた。
(なんなんだ、こいつは………)
 まるで母親のように語り掛けてくる機械。
(なんなんだ、ここは………)
 機械以外の人の気配がまったくない、核シェルターVaultであるはずの場所。
おれは、だれなんだ………
 彼には一切がわからなかった。


 ただただ恐怖感だけに苛まれて、彼は目の見ないまま歩いた。壁や機械に何度もぶつかり、転んだ。そのたびに電子合成音を発する機械がやってきたが、彼はそれを打ち壊しながら進んだ。

 どれくらい歩いただろう。
 光。



 真っ暗の視界の中、何かの光を感じた。
 彼はそれに向かって走った。段差に躓いて転げたが、それでもすぐに立ち上がって走った。一刻も早くこの場所から逃げ出したかった。

 光がだんだんと強くなる。足の裏を伝わる感触も変わった。滑らかな構造材ではなく、小さな砂利や小石が混ざる地肌のよう。
 木の感触。
 出っ張り。
 光が急に強くなる。


『寄り道せずに帰ってきなさいね。美味しいご飯を作って待っていますから。いってらっしゃい』

 それが彼がそのVaultを出るときに最後に聞いた言葉だった。

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