25日目

「心臓が止まるかと思いました」
マルニドはそう言って嘆息した。

ウルたちがスワディア王国の大都市、プラヴェンを訪れたとき、ちょうどハルラウス王の軍隊がそこに駐屯していた。
方々の街でのトーナメント優勝や、ノルド王国方面での海賊討伐はハルラウス王の耳にも届いていたらしく、ウルは彼と対面することができた。その場でウルは自称スワディア王国の正当な王であるイソラに関して話を持ち出した。

イソラの名を出したことで場は一時緊張した。ハルラウス王の護衛の兵士が武器を構えたが、王は笑い飛ばした。
おれの目の前でその名を出したやつは久しぶりだ。勇敢なのか、はたまたただ単に無礼なのか」
「平民の出で、礼儀を知らぬゆえ」ウルは嘯く。
「確かに全王、エステリヒは慈愛に満ちた男で娘を溺愛していた。だが愛に溺れて我を忘れてしまっては民にとっては災いでしかない。イソラは伝説の女王たちについて語ったかもしれないが、それもすべて過去のこと。女系国家は終わったのだ。イソラを女王に立てようとする人間は、ベージャー王国に奴隷として売られ、虐殺されるであろう民草のことを考えるべきだな。平時ならともかく、この戦時に女王を立てようなどというのは民草のことを第一と考えるならばありえないことだ」
ハルラウス王は言いたいことを言い終えると、ウルに耳打ちしてから会談を終わりにした。

「なんでだよ」
プラヴェンの街をマルニドとともに歩きながらウルは言い合う。
「イソラは今のハルラウス王政権のスワディアじゃあ、言ってみれば反逆者でしょう。反逆者に加担する可能性がある者として処刑されていてもおかしくなかったでしょうに」
「そんなことすればイソラを恐れているってことを兵に主張するようなもんだろうが」

プラヴェンは栄えた街だ。市場は活発で、競り合う商人たちの声は絶えない。人の数が多く、身を包む衣装は華やかだ。それだけ衣服に金を使う余裕があるということだろう。外壁は高く強靭で、一方で建物は硬いだけではない趣がある。そしてなにより、戦時であるというのに出歩いている女や子どもの数が多い。他の街ではこうはいかない。
「スワディアは酷い国だな」
ウルがそう呟くと「どこがですか?」とマルニドが意外そうな顔をする。「こんなに繁栄している街はそうはないですよ」
「プラヴェンが酷いと言ったんじゃない。スワディアが酷い国だと言ったんだ」
「同じです。いったいどこが不満なんです?」
「この戦時中のカルラディアで……、スワディアはどこにある?

足に何かがぶつかる。丸い目をした少女だった。前を見ていなかったらしく、勢い良くぶつかったためか、尻餅をついてしまっている。
ウルは少女の手を取って起こしてやった。傷はない。怪我はしなかったようで幸いだ。
後ろから母親らしき若い女がやってきて、見て戦いを生業としている人間だとわかったのだろう、ウルに謝ってきた。少女の頭を撫でてやった。
母娘と別れて、また歩き出す。

「ウルどのもいちおう子どもを可愛いとは思うんですね」とマルニドが急に言った。
「どういう意味だ」
「さっきのも、どういう意味です?」
「だから、ぶつからずにはいられんという話だ。スワディア王国はカルラディアの中央にあるんだぞ。ベージャー、ノルド、カーギット、ロドック……、他の4つの国すべてと接しているんだ。酷い位置だ。それなのに、これだけ繁栄している」ウルは軍の駐屯地を振り返る。「だから実際、ハルラウスというのは有能な為政者なんだろう

少なくとも、あのイソラよりは。

ウルは別れ際にハルラウス王に耳打ちされた言葉を思い出した。
「生まれは平民でも、おれの信頼に応えられる人間を求めている。ウルギッド、おまえは面白い男だ。おれの軍に来るならいつでも歓迎しよう



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