かくもあらねば/10/02
2
KutoたちがNovacの町を出立したのはNovacでの敵討ちの事件直後の未明のことだった。
Novacは居心地の悪い場所ではなかったし、なによりKutoとしては朝はまだまどろんでいる時間帯で、その時間に二本足で立って歩くというのは地獄のような思いではあったが、Booneに頼まれては仕方がない。まだ発覚していないとはいえ、町の人間を殺したことで彼は早々に出発したいと思っていたようだ。
Kuto、Boone、それにED-EはBounder Cityを目指すことにした。Great Khanの男たちが向かったという町だ。
「おまえの目的はなんだ?」
「へ?」
Novacを出立してしばらくして、Booneが急にそんなことを訊いてきたため、Kutoは一瞬思考停止してしまった。彼のほうから話しかけてくるなどというのは戦前の写真機で記録を残さねばならないくらいの希少事態だ。
「女ひとりで旅をするくらいだ。何かあるんだろう。Bounder Cityは何もない町だぞ。なぜそこを目指す?」
Kutoは返答に迷った。女がひとりで旅をするなら目的があるだろうと言われたが、Kutoが旅をしているのはもともとたいした目的からではない。Bounder Cityを目指す理由はPlatinum Chipのためだが、他人に話すのはあまり気が進まない。たとえ相手がBooneであっても。
「あ、あれなんでしょう」
Kutoは話を逸らすことにした。正面には戦前の建築物と思われる巨大な建物あった。Ghoul退治のときに行ったREPCOONに勝るとも劣らない大きさの建物だ。
「おい、話を逸らすな」とBooneは食い下がる。
「人の姿がありますね。あれはNCRかな。Booneさんのお友達もいますか?」
Booneは溜め息を吐いて首を振った。友達がいないという意味のジェスチャではないだろう。呆れられたようだが、しかしとりあえず話を逸らすことには成功した。
「あれはHelios Oneだ」
「Helios One……」KutoはBooneの言った建物の名を繰り返す。「NCRの建物ですか?」
「今のところはな」
「ずいぶんおっきいですけど、あれはどういう建物なんですか?」
「知らん」
「工場みたいですね。何かお金になりそうなもの、ありますかね」
「知らん」
「ちょっとあなたたち」Helios Oneの前で見張りをしていたらしき兵のひとり、女が近づいてくる。「ここはNCRによって立ち入り制限されている。許可なく入ることはできない」
KutoとBooneは顔を見合わせた。
「ちょっと遠くから見てただけなんですけど……」Kutoはなるたけ丁寧に言った。「ここは入ってはいけないんでしょうか?」
「Legionのスパイを入れないように、簡単に立ち入りができないようになっている」女軍人の口調は厳しかった。「何か理由があるなら別だけど」
「えっと、わたしの弟がここに駐屯していると聞いたんですけど……。彼が上手くやっているかどうか確かめたくって」
「弟? 名前は?」
「Johnnyです」KutoはBooneの腕に手を回した。「あ、こっちの人は護衛で……」
「Johnny……、聞いたことないけど、でも、最近は補充要員が多いからね」女軍人はKutoを上から下まで見つめた。「ま、こんな目立つスパイもいないでしょうし。良いよ、入って、弟さんを探して」
「ありがとうございます」
Kutoは頭を下げて礼を言った。女軍人の態度の変化を鑑みるに、彼女には弟がいるのかもしれない。
「終わったら問題を起こさないうちにさっさと出て行ってね」
「はい。ちなみに」とついでにKutoは尋ねることにした。「ここってどういう建物なんですか? けっこう物々しい感じですけど……、そんなに重要な建物なんですか?」
「本当は前線に行ければ良いんだけどね……。ここはダムが落ちた場合の最後の拠点だから」
女軍人によると、この建物、Helios Oneは電力を供給する発電プラントらしい。もともとはBrotherhood of Steelの駐屯していた場所だったが、NCRが戦闘を重ねて奪い取ったのだという。
「BoSは機能の一部を復旧させていたみたいだけど、逃げるときに全部シャットダウンさせていったの。わたしたちをコントロール装置まで行かせないように古いセキュリティシステムを作動させてね。あの糞どものせいで、もう、やってらんない」
(電気は持ち運びできないからなぁ……)
電池にすれば持ち運べるが、重い。労働に相当するお金にはならないな、と思いつつKutoは女軍人と別れてHelios Oneの中に入った。
「Booneさんがいるから、顔パスで入れるのかと思いました」
「おれは1st Reconだ。この辺りの所属じゃない。それより」とBooneが返す。「弟がいたなんて知らなかった。NCRだったのか」
「いませんよ」
「さっきいるって言っていただろう」
「あれは、ちょっぴりお茶目なジョークです」
「待て。嘘を吐いたのか」
「いえ、お茶目なジョークです」
「嘘だろう」
「お茶目じゃなかったですか」
「そういう問題じゃない」
喋りながら歩いている間に変わったところに来てしまった。今までは無骨な軍人の施設といった様子だったが、カーペットが敷かれていたり、戦前のものらしき変わった縦長の装置が置かれている。
「な、なんだおまえらは!」
向こうからそう叫びながらやってきたサングラスをかけた白衣の男は、Kutoの目の前で急停止した。
「そ、そうか! ぼくの代わりにやってきたやつだな! ぼくの代わりに派遣された人間なんだろう! そうなんだな!?」
男は目が血走っていた。喋り方が早口で聞き取りがたい。
危険を感じてか、BooneがKutoの腕を取って引き寄せる。その動作でBooneに惚れ直す。
「なんだおまえは」とBooneがサングラスの男を威圧する。格好良い。
「なんだ? 決まってるだろう、ここの主任だ。他になんに見える? ぼくがここの一切を取り仕切っている。このぼく、Fantasticなしに電力なし。なんせFantasticはここの主任だから。困っちゃうのはさ、外の集光ミラーがきちんと太陽を向いてくれないことで、最大の1パーセントの効率しか出せてないんだよ。タワーのコントロールをどうにかすれば良いんだけど。きみたちはべつにぼくの代わりに派遣された人間じゃないんだろう? まぁ最初からわかっていたし、そんな心配もしてなかったけどね」
BooneがKutoを背に、じりじりと下がる。
「タワーには糞っ垂れなセキュリティシステムが残っていてさ、NCRはこれまでにふたり殺されているから、なかなか部隊も出してくれない」Fantasticと名乗った白衣の男は気にせず喋り続ける。「彼らはぼくにオムレツを作って欲しいと言ってるんだけど、ぼくの手の中には卵がないわけさ。言ってる意味、わかる? 本来なら犠牲なくして成果なし、なんだけど、犠牲の出しようもないってわけ。で、それでだ、もちろんきみたちが行ってくれるんだよね?」
Booneはライフルか拳銃を抜くかもしれない、とKutoは思った。恐怖で。
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