「ここは一般人は立ち入り禁止。外の標識を見なかった?」
痩せぎすの中年女性がやってくる。
 Lynnの背後に隠れるBryanの態度を見る限りでは、彼女がDr. Liのようだ。
 とにかく最初に謝っておくことにする。「すみません。えっと、人を探していて……」
「人探しだったら、警備か誰かに訊いて。その辺りを巡回しているだろうから」
「いえ、Li博士を訪ねて来た人なんですが………」

 Liの表情が少し動く。が、その表情が何を意味するのか、Lynnにはわからなかった。
 警戒されているのかもしれない。Livet CityでのHarknessの言葉を信じると、Jamesは彼に顔と名前を覚えられるほど、このRivet Cityには留まらなかったのだろう。それよりは来たばかりのRitaのことを訪ねたほうが良い、とLynnは判断する。


Ritaという少女なんですが……。あなたに会いに、たぶん父親を探していると言っていたと思うのですが」
「ふぅん………」LiはじろじろとLynnを見つめ、「もしかしてあなたがLynn?」と言ったので驚いた。
 Lynnは頷いてみせる。Bryanを一瞥するが、彼は首を捻っているので、彼がLiにLynnのことを話したというわけではないのだろう。
「あの子、いろいろと厭そうな口ぶりだったから、よっぽど酷い人なんだと思ってたけど……。なに、あの子のことを追いかけてきたの?」
「いや、そういうわけじゃ……」LynnはLiの、Ritaと親しげな口ぶりが気になった。RitaはまだVaultを出てきて間もないという話だったはずだ。「あの、あなたは彼女とどういう関係なんですか?」
わたしは幼い頃のあの子に会ってるってだけ。あの子の父親はここでのことは話していなかっただろうから、知らなかったみたいだけど。わたしはMadison Li。あの子の両親とは昔、仕事仲間だった。それだけ」
「父親……、Jamesですね? おれは、彼を探しにここまで来たんです」
あの子と同じってわけね」
「彼がどこにいるか、知っていますか?」
「それはあの子にも訊かれた。わたしは彼が今どこにいるかは知らない」Liはもったいぶった口調で言う。「でも、どこに行こうとしていたかは知ってる。昔の研究室に行こうとしていたから」


「それはどこです?」
「あなたには話せない。あの子はJamesの実の娘だし、彼はVaultにあの子が残るのを望んだのに、彼の意に反して出てきてしまった。さっさと安全なVaultに戻すには、あの子にJamesに戻ってもらうしかないからね。でもあなたは違う。どういう理由でJamesに会おうとしているのか知らないけど………」
Jefferson記念館ですね?」LynnはLiの話を遮って言った。
Liの視線が、Lynnから背後のBryanへと動く。
「その子はRitaが連れてきた子ね」と冷たい声で言う。
「Ritaもそこへ行ったんですね? それだけわかれば十分だ」LynnはBryanをLiの視線から庇う。
「あなた、どうしてJamesを探しているの?」
「おれは自分の家族がどこにいるのか、それを知りたいだけです」LynnはLiに背を向ける。「ありがとうございました。失礼します。」

 Bryanを連れて研究室を出た。ふたりで同時に息を吐く。
怖いおばさんだよね」とBryanははにかんだ。
「そうだね」とLiも笑ってみせる。
「Lynn、今からすぐに、Ritaの行ったところに行っちゃうの?」
「そうしようかと思うけど……、どうして?」
「もうすぐ暗くなるよ。夜になると、この辺はSuper MutantとかCentaurがうろつくっていうし……、まぁLynnなら心配ないかもしれないけどさ、Ritaも、もしかしたら明日には帰ってくるかもしれないし……、うちに泊まっていけば?」
「そういえば、Veraさんはホテルをやってるんだっけ?」
「うん。たぶんLynnなら、安くしてもらえると思う」
 確かにBryanの言うとおりかもしれない。Super Mutantの1体や2体は問題にならないが、それは変身できた場合のことだ。いざというときに変身できない可能性があるかもしれないと思えば、万全を期すべきだろう。

 Bryanに案内してもらい、Rivet Cityの複雑な船内を歩く。
「ここだよ」とBryanが扉を開け、中に向かって叫ぶ。「Vera、ただいま」
「おかえりなさい」と水音や調理の火の音とともに、女性の声が帰ってくる。「もうすぐご飯だから、手洗って、それから手伝って」
 Bryanに促され、Lynnもホテルの中に入る。船内通路を歩いていて、扉の隙間から見た他の部屋とほとんど変わらない間取りだが、内装が違うためか多少印象が違う。奥のキッチンに向かっている小柄な女性の背中が見えた。
「うん。えっと、さっき知ってる人に会って」
「だれ? Ritaちゃん? もう1回来てくれないかな、あの子。ちゃんとお金払ってくれるし……、そうでなければ、格好良くて、お金持ちで、高身長で、優しい、そういう男の人が……」言いつつ振り返った女性は、BryanとともにいたLynnを見て、驚いた顔になり、すぐに顔を赤くした。


「お客、連れてきたんだけど」とBryan。
「どうも……」Lynnはどう声をかけて良いのかわからず、それだけ言った。
「あら、ごめんなさい、なんていうか、ええと、いらっしゃいませ、Wartherlyホテルへようこそ」Bryanの叔母、VeraはそうLynnに向けて言い、それからBryanを一瞥して、「ほかに人がいるなら、言ってよね」と言った。
「ね?」BryanはLynnを見上げて言った。「ここまでのやり取りで、だいたいVeraがどういう人かってわかったでしょ?

 Lynnが泊まりたいと申し出ると、よほど客に困っているのか、Veraは喜んだ。
「ぼったくられないようにね」とBryanが囁く。
「変なこと言わないの」VeraはBryanの頭を小突き、それからLynnに向き直る。「ええっと、お食事つきで120Capsですけど、よろしいですか?」
「Veraの料理は、まぁまぁだよ」
「お願いします」とふたりの喧嘩が始まる前に、Lynnは頷いた。

 せっかくだから、とBryanがせがむので、一緒に夕食を囲むことになった。Veraにしても、そのほうが作るのに楽だという。
「今日、研究室のほうに行ってきたよ」とBryanが言う。「Li博士って人に会ってきた」
「Li博士ね。わたしもあまり会ったことないんだけど……。あまり……、なんていうか、社交的な人じゃないからね」とVera。
「怖いおばさんだよね」
「そういう言い方はないんじゃない?」とLynnがいるのを気にしてか、Veraは悩ましげな表情で受け答える。「えっと、研究者肌って感じね」


「入ってくるなって怒られた」
「それでどうしたの?」
「Lynnが助けてくれた……、あ、そうだ」とBryanが思いついたように言う。「VeraにLynnのこと、紹介したっけ?」
「ええと、GrayditchでBryanを助けてくれた方……、ですよね?」
「いや、それはRitaのほうが……」
 Lynnは否定した。世辞ではなく、今は心の底からそう思っていた。自分などいなくても、Bryanの人生には大きな影響はなかっただろうが、Ritaがいなければ今、この場で彼と彼の叔母の穏やかな会話を聞くことは叶わなかっただろう。
RitaとLynn、ふたりとも助けてくれたんだ。えっと、明日、LynnはRitaのこと追いかけて、Jeferson記念館に行くんだって。Vera、あそこって行ったことある?」
「ううん、ないなぁ……。お役に立てなくてすみません」
「あ、いや……」Lynnは慌てて否定する。ふたりの会話が勝手に進んでいくので、変な方向に行きそうだ。
あの辺はSuper Mutantがけっこう多いから……。Ritaさんにも言ったんだけれど、もし行くなら、本当に気をつけないと危ないですよ」
「それは大丈夫だよ。だってLynnは……」Bryanはそう言いかけ、Lynnに視線を動かして止まる。Masked Raiderのことは言ってはいけないことだ、とおそらくRitaにでも言われたのだろう。「えっと、けっこう強いし」
「Ritaさんも、そんなふうに言ってたけど……、気をつけてくださいね」

 Lynnは頷いてみせる。あまり上手く言葉が出てこなかった。
 Bryanの叔母というところだから、30代か、もしかすると20代かもしれない。外見も喋り方も、若く見えるので、もしかするとLynnとあまり歳も変わらないのではないかとも思える。

「Ritaさんのことを追いかけてってことですけど」Veraがそう言ったので、Lynnは慌ててVeraから視線を逸らした。「もしかして、おふたりは恋人同士とか?」
「いや……」血の繋がりがあるせいか、Bryanと同じ発想をするな、と思いつつLynnは返答する。「彼女の父親に用がありまして
結婚を申し込むとか?」
「いえ、そういうことじゃなくって……。ただ個人的な用件があるだけです」

 その日、Ritaは戻ってこなかった。
 Li博士の口ぶりでは、RitaはJefferson記念館へ行ってもすぐにはJamesには会えないだろうと言いたげだった。おそらく彼は一時的に昔の研究室に立ち寄っただけで、またすぐどこかに行ってしまったのだ。Ritaもおそらく、彼を追っていったのだ。今からJefferson記念館へ行っても、たいした情報は残されていないかもしれない。
しかしほかに手掛かりもない。


 LynnはJefferson記念館へと向かった。


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