「Rexi!」
The KingはRexに駆け寄ると、跪いてひしとその身体を抱きしめた。
「見ないうちにかっこよくなったなぁ! 男子三日会わざれば刮目して見よ、とはこのことだ。知ってるか? 中国の諺だぜ。まさしくその通りだ!」

笑いながらRexの喉や腹、耳の後ろを撫でるThe Kingに、Siは冷ややかな視線を向けた。「ふたりきりにでもしてやったほうが良いのか?」
「いや、それには及ばんよ」とThe Kingは椅子に座りなおす。「で、どうだった?
「治療は終わったよ。いろいろと危なかったみたいだけど、もう大丈夫だろうって話だ」
「やっぱり、そうか……。おれが忙しいあまりに、かまってやらなかったから、病気になっちまってたんだな。可哀想なRexi………」
脳みそとかいろいろ弄ったみだいだけどな」
Siがいらぬことを言ったので、Sumikaは青くなった。
しかし驚くほど、The Kingの様子は変わらなかった。「どうなっても、RexはRexさ。何も変わっちゃいない。見た目だろうが、脳だろうが」

あまりにもあっさりしたThe Kingの態度に、Sumikaは驚愕するしかなかった。彼にとって、RexをRexたらしめているのが容姿でも、脳でもなければ、いったいなんだというのだろう

「で、話があった件だが」Siが本題を切り出したので、Sumikaは頭を切り替える。「Kutoはどこへ?」
Stripだ。残念ながら」とThe Kingは大袈裟に両腕を広げてみせる。「ちょうどその場にStripへのゲートパスや十分な金を持っている人間がいなかったから、それ以上は追えなかった。ただ、今日の朝にStripに入って以来、まだ出ていないのは確かだ」
「よく見つけられたな。さすがThe Kingsか」
あれだけ目立てばな……。Atmic Wrangerは商売あがったりだ。カジノで一晩、チップ1万枚近くやられたってよ。80枚が、1万枚だぜ。まったく、真面目に働いているほうとしてはやってられんよな」

どうやらKutoは、カジノで一山当てたらしい。
賭け事で一儲けした話を聞いて、Siもやろうと思ったりしないだろうか。Sumikaはちょっと心配になる。

「そうそう、Rexを治してくれた礼に、Freesideへのパスも作っておいた。偽造だがな」The KingはSiにメモを手渡した。「東ゲートそばの、Mick & Ralph'sって店だ。Ralphのほうに、おれの紹介だって言えば通じるだろう。ついでに弾丸や銃も買っていくと良い。急ぎだったら、Rexも連れていきな。きっと役に立つだろう」
大使館で聞いた話が正しければ、NCRの鉄道を通ってStripに直接入り込んだSiはもはやパスを必要としないはずだが、Siは素直に礼を言ってくれた。

東ゲート脇、Mick & Ralph'sでゲートパスを受け取り、弾丸を新たに購入し、その足ですぐさまStripへと向かう。
「あんたもついてくるのか」とSiがArcadeを振り返って言った。
「牧師に医者に、サイボーグ犬。いかにも何か起こりそうな取り合わせじゃないか。研究者としては放っておけないね。それに、Stripの最近の情勢も気になることだし」

Secritronで厳重に警備されたゲートを抜け、Si、Arcade、Rex、そしてSumikaはStrip地区に入った。2度目のStripは初めて見たときと変わらず華々しく、しかしどこか濁って見えた。
いくらKutoが目立つ姿をしているといっても、豪奢なドレス姿というわけではないだろう。闇雲に探しても見つからない、ということでNCR大使館へと向かう。
「Ranger FEか」Crocker大使は脂ぎった額に浮かぶ汗を拭く。
Kutoを見ていないか、とSiが尋ねると、Crockerは曖昧に頷いた。
「きみが以前に言っていた女性だね? ちょうど報告があったから、きみに遣いを出そうと思っていたところだったんだ……」
Crockerの回りくどい言い方に苛立ちを募らせていることを隠さず、Siは言葉を重ねる。「どこへ行った?」
「Topsだ。Stripでももっとも大きいカジノと言っても過言ではないだろう」
「了解。助かる」
Siに礼を言われ、Crockerは拍子抜けしたという顔をした。テキサスのRanger FEが礼を言うということに驚いたらしい。それだけ彼らが、同じNCRにも関わらず、Siのことを人間的に軽視しているということだろう。

SiたちはTopsへと向かった。
カジノの中には武器は持ち込めない。身体検査を受けるSiを見ながら、Sumikaは心配だった。
Siが本来任務で追うべき相手は、Kutoではない。運び屋、Jimを殺し、彼からPlatinum Chipを奪ったという縞のスーツの男たちだ。KutoがSiを先んじて情報を集め、行動しているから(そしてSiが彼女に執着を見せるから)彼女を追っているに過ぎないのだ。
Kutoひとりが相手ならば、たとえ武器がなくたってSiは勝てるだろう。しかしPlatinum Chipを奪った連中は、おそらく複数だろうし、人を殺すことをなんとも思っていないような相手だ。Siでも、危険かもしれない。

そう考えていると、Rexの唸り声が聞こえた。彼は客のひとりに向かって威嚇していた。脳を治療しても、唸り癖は治らなかったようだ。
「お客様、犬はちょっと……」と店員が苦い顔で言う。
「こいつはサイボーグ犬だ。犬じゃない」Siはすぐさま言い返す。「それに、こいつに常に見張らせておくから問題ない」
Siが指し示したのはArcadeだった。
「おいおい………、何を勝手な」Arcadeは首を振る。
「用件が済んだら交代する。それまでその辺で待っててくれ」

ArcadeにRexを預け、SiとSumikaはカジノの中を探して回った。広いStripやFreesideをひとりの人間を求めてすべて探すのは無理だが、ひとつのカジノの中を探し出すだけなら不可能ではない。
「上かなぁ?」
1階、2階を粗方探し終えて、Sumikaは言った。上階はホテルになっているらしい。
「そうかもな。だが部屋ひとつひとつ回るわけにも………」

そう話し合っていたとき、Siの背後に立つ人物がいた。Sumikaは目配せでSiに背後の存在を伝える。
その相手、帽子とサングラスを被った、おそらく店のボディーガードか何かからすれば、Siが急に振り向いたので驚いたのだろう。しかしすぐに表情を元に戻した。
Kutoさまのお知り合いで?」
Siが頷くと、ボディーガードの男は、Kutoから伝言があるため、スウィートルームで待て、と伝えてきた。

Tops1階奥にある部屋に案内されたSiとSumikaは、部屋を見て嘆息した。
「すごい部屋……」
人が泊まる部屋とは思えぬほど、広い。戦前はこれくらいの部屋が普通だったのかもしれないが、現代では考えられない。
ビリヤード台やバーのようなものも設置してあり、貴重な果物や酒が無造作に置いてある。
「よくこんな部屋、取れたなぁ………」言いながら、SumikaはThe Kingから聞いた話を思い出した。KutoはFreesideのカジノで一儲けしたらしい。「Si、こういう部屋に住もうと思って、ギャンブルしたりしないでね
「なんだよ、急に」
「ギャンブルって、当てにならないもんだから」
Siは鼻で笑った。 
「まぁ、ゆっくりするか」
そう言って彼はバーの椅子に座り、ワインのボトルを開け始める。
「ちょっと、大丈夫なの?」
Siは酒に強いほうだが、Kutoが何を考えているのかわからない以上、危険だ。罠にかけるつもりかもしれない。
Sumikaがそう言うと、Siは「心配しすぎだ」と囁いた。「カジノの中で銃ぶっ放すやつもいないだろう。ほら、おまえの好きな果物もあるぞ」
Siがバーボン用の小さなカップにワインを注ぎ、果物を小さく千切って寄越す。さらに奥からつまみを見つけてきて、それらも皿に開けた。しぶしぶSumikaはそれらに口をつけた。

しばらく黙って飲み食いしていたが、やがてSiが口を開いた。 
「機嫌悪そうだな」
「Silasは気分が良さそう」
「そりゃあ、酒は美味いし、食いもんは美味いし、リラックスできるしな」
「こういうところに住みたいの?」
「そういうわけじゃない。ただ……、最近は忙しなかったからな」
「そう?」

どちらかというと、テキサスの南部NCRで訓練や任務に明け暮れていたときのほうが忙しかったという気もする。あちらは人員が不足していたので、いつも忙しかった。こちらでのSiの任務は斥候だが、急く任務ではないので比較的自由に行動ができている。

Sumikaがそう言うと、Siは苦笑した。「まぁ、毎日任務ばっかりじゃあなぁ。でもこっちはこっちで、五月蝿いやつらばっかりだしな。昨日までいたところなんて、特にそうだし」
「Marcusは良い人だよ。ちょっと……、変な人だけど」
「Super Mutantでも、いろんなやつがいるな」
Siの指が伸びて、Sumikaの頭に乗った。
髪を撫でさするようなSiの指に両手で触れ、Sumikaは頷いた。「そうだね」

また少し沈黙が生まれた。
だが居心地が悪い沈黙ではなかった。久しぶりにふたりだけで訪れた沈黙は、この17年間、何度も共有したふたりだけの時間だった。
「Sumika」と久しぶりにSiがSumikaの名を呼んだ。いつもおい、とか、なぁ、で済ませてしまう彼は、大事なことがあるときだけSumikaを名前で呼ぶ。
「なぁに?」
「NCRは嫌いか?」

嫌いか、と聞かれたら複雑だ。
NCRがいなければ、Siは手当てを受けられずに死んでいただろう。NCRはSiを救ってくれた。
だが一方で、Siの才能を見出し、彼を兵士に仕立て上げ、Ranger Fairy Eyeを作り出したのもNCRだった。
嫌いだ。だが嫌いなだけで退けられるものでもないとも思っている。

もしおまえが厭なら、辞めるか?
Siの言葉は衝撃的だった。
彼は、辞めろと、もう辞めたらどうだ、とSumikaに勧めているのだろうか。もうおまえの力は必要ないと、そう言っているのだろうか。
それとも

『ベイビー、その部屋はお気に召したかな?』
急に声が飛び込んできた。男の声、蛇のような声は部屋の入口のドアインターコムから聞こえてきた。
『ハニー、きみの言うとおりに、まさか本当にやってくるとはな』蛇のような男の声の後ろで、女の押し殺した笑い声が聞こえた。『じゃあな、NCR。最後に良い時間が過ごせただろう? ゆっくり死ね

蛇のような男の声が誰なのかはわからない。しかしKutoが罠にかけたのだということはわかる。男の背後で聞こえた笑い声は、Kutoのものだ。間違いない。
しかしそれ以上彼女について考えている余裕はなかった。めいめい武器を手にした4人の男が部屋に飛び込んできたのだった。
Siの手に、武器はない。敵の手には、ナイフと拳銃。
サイレンサー付きのピストルから、気の抜けた音ともに銃弾が発射された。


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