かくもあらねば/15/02
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これがM-235 Missle Launcher、これがRapid-Fire G-28 Grenade、そしてこれがAuto-Repair機能、とMr. Houseは地下演習場で、Platinum Chipに格納されていたデータによってOSのアップデートを行ったSecuritronの性能強化を実演してみせた。
『これで単機あたりのSecuritronの戦闘性能は、従来のタイプと比べれば235%にまで上昇した。New Vegasの街は、あらゆる外敵を追い払うだろう』
そう笑うMr. Houseの様子は、新しい玩具を手に入れて見せびらかす子どもそのものに感じられた。
『素晴らしい体験だっただろう?』
地下演習場から最上階に戻り、モニタのMr. Houseはそう言った。
『これで広域電波の届く範囲のSecuritron……、Strip周辺に関しては十分だ』
「この戦力で、NCRやCaesar's Legionに戦争でも仕掛けるつもりですか?」
『まさか』音声だけだったが、Mr. Houseが笑ったのがわかった。『特にNCRはわたしにとって、重要なお客様だよ。たとえ彼らはこのNew Vegasをわたしから掠め取ろうとしているとしてもね。さて、New Vegasを守るための話し合いを再開しようじゃないか。わたしはね、きみにわたしの片腕となってほしいのだよ。もちろん危険な仕事ではあるが、きみの経歴から、きみならそのような危険に対処できるであろうことを期待している』
Mr. House。
目の前の、正確には目の前のモニタを通じて会話している男がNew Vegasにおいて絶大な権力を有しているのは知っている。莫大な財産を持っているということも。
彼の申し出は悪くはない。が、危険ともなれば話は別だ。
『きみにはFortification HillのCaesar's Legionの駐屯地に行ってもらいたい』
つい先ほどValpus Incultaを通してCaesarからのFortification Hillへの招待の話があったばかりだったので、Kutoは思わず変な声をあげそうになってしまった。
『どうした?』
「えっと……」正直に言うべきかどうかの判断がつかず、Kutoはまず相手の考えを訊いてみることにした。「もしかしてCaesarを暗殺しろとか、そういうお仕事ですか?」
『まさか』Mr. Houseは強い口調で否定した。『彼はまだ利用価値のある男だよ。毛の一本も傷つけるわけにはいかん。もっとも、彼の頭に毛が見つけられればの話だがね』
Mr. Houseはそう言って、自らのジョークを笑い飛ばした。
『やってもらいたいのは、Fortification Hill頂上の遺棄された地下施設に入ってもらうことだ。施設の目印はLucky 38やPlatinum Chipに描かれているロゴだ。施設へはPlatinum Chipを使えば入ることができる。報酬は期待してくれて良い。やってくれるね?』
Kutoはすぐに頷いた。というのも、これが口約束に過ぎず、依頼を受けるだけ受けておいて逃げ出すこともできるからだ。
『それは結構。さて。問題はいかにしてFortification Hillに乗り込むかだが……。男ならLegionに入るということで、簡単なのだが、女性ではそうもいくまい。さて』
Kutoは逡巡した後、手を挙げて言った。「あの、実はもうCaesarから、Fortへの招待が来ているんですけど……」
『なるほど。それは都合が良い』
Mr. Houseが即答したので、Kutoは少々驚いた。
「驚かないんですか?」
『驚くことではない。LegionがStripにまでスパイを潜り込ませているのは重々承知だ……。ではこれを持っていきなさい』
Platinum Chipが返却される。異様な価値を持つ物体が、またKutoの手の中に戻った。
NCRのRanger、Mr. Houseの陰謀、そしておそらくLeigonの招待も、すべてがこのNew Vegasの地で複雑に絡み合っている。しかし今のところ、それらはこのPlatinum Chipひとつに集中している。
これは彼らの目的そのものではない。手段だ。だが今この場において、KutoがNew Vegasの力そのものを握っているといっても過言ではなかった。
KutoはLucky 38のスイートルームで簡単に出発の準備を整えた後、Lucky 38を出た。BooneとED-Eを探そうと、メインストリートに出て辺りを探していたときに、声をかけられた。Legionと接触したばかりだったので、吃驚した。
相手はLegionではなかった。Caesar's Legionでは、女はすべて奴隷にされるから、女の兵士はいない。
その人物は白衣を着た、医者のような風体の女性だった。青い目にブルネットの美女だったが、色気のない黒い眼鏡が美しさを損なっていた。
「あの……、あなた、Lucky 38から出てきたわよね?」
女性はおずおずとした調子で言った。
「そうですけど」
「Mr. Houseの知り合いか何か?」
「えっと……、彼から仕事を頼まれた、運び屋みたいなものです」
「彼とは親しいの?」
「そういうわけでは……。ただのお仕事上の関係です」
言外に、おまえは誰だ、という調子を含みつつKutoは応じた。
「そう」女性は笑みを作る。「わたしはThe Followers of ApocalypseのEmily Ortal。よろしく。ええと、あなた、Mr. Houseが戦前から生きている人物だって、知ってる?」
「いちおう、そういう噂は知ってますけど」
「わたしたちは、彼のその延命技術について知りたいの。戦前の延命技術に関して知ることができれば、医療分野で多大な恩恵が得られるでしょうから。でもLucky 38には人間はだれも立ち入れなくって、Mr. Houseとコンタクトをとることさえできやしない。困ってたところで、最近Lucky 38に出入りしている人がいるっていう話を聞いたの。それで、頼みたいことがあって」
Emily Ortalの頼みごととは、Mr. Houseの所有するLucky 38の電子ネットワーク上にバグを忍び込ませることだった。それでThe FollowersはMr. Houseからデータを得られるようになるらしい。
The Followers of ApocalypseはHELIOS ONEにいたIgnacio Rivasも所属していた機関だ。人々のために戦前技術を復興させる技術者集団ということなので、Kutoとしても手を貸すのは吝かではない。
だがMr. Houseのネットワークに手を出すとなれば、New Vegas地区において絶大な権力を持つ彼を裏切ることになる。
Emilyによれば、電子的なやり取りはすべて暗号化されるため、Mr. Houseには気付かれず、Kutoに迷惑はかからないという。だがそれも怪しいものだ。戦前技術を復興させただけのThe Followersと、戦前の遺産がたっぷりあるNew Vegasを統治しているMr. Houseでは技術力が違う。彼女の言うことさえ、怪しいものだ。
ここ数日で起きた出来事や最近の勢力争い、そしてNew Vegasでこれから起こるであろうことを含めたKutoの返答はひとつしかなかった。
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