Restoring Hope
夢を取り戻せ


コーヒーを淹れるために外に出る。
もう太陽はだいぶん高い。汗ばむほどの暑さの中、潅木の上に昇ってハニーメスキートのさやを取る。家の前に干しておいたコヨーテ噛み煙草も回収する。
即席で作った専用の出入り口から家の中に戻ると、Rexが小さく一吼えした。
「Rex、しー」
Sumikaが指を口の前で立てて見せると、それ以上は吼えず、大人しくしていた。あるいは最初から吠え立てる気はなく、単にSumikaを迎え入れるつもりで声をあげたのかもしれない。第一印象は悪かったが、Rexは良い子だ。

■コーヒーの淹れ方
コヨーテ噛み煙草を水で洗い、土や泥を落としてから、丸一日天日干しにしておきます。乾いたコヨーテ噛み煙草を磨り潰し、油はひかずにフライパンで強火で一分ほど炒めると色が黒く変わってきます。炒ったコヨーテ噛み煙草に刻んだハニーメスキートのさやを混ぜます。
マグカップに三角錘状にしたフィルターを取り付け、頂点が下に来るようにおきます。その上に炒ったコヨーテ噛み煙草とハニーメスキートのさやを混ぜたものをスプーン大匙3杯(8g相当)入れ、中央に窪みができるように整えます。
90℃前後のお湯を用意します。目安としては、沸騰してから1分程度おいておいたくらいの温度です。最初に粉全体が軽く濡れるくらいにお湯を注ぎ、蒸らします。30秒蒸らしたところで、一気にお湯を注ぎます。これでコーヒーの完成です。お好みでBrahminの乳などを混ぜてお召し上がりください。

Sumikaがコーヒーを作っている様子をRexは観察していたようだったが、やがて飽きてしまったのか、四足をとことこと動かして隣の部屋に行ってしまった。
しばらくして、が聞こえてきた。Sumika、Sumikaという、男の声だ。
消え入りそうなその声は、まるで幼子のようだ。

「Silas」
Sumikaはコーヒーカップを持って隣の部屋へと移る。そこにはやつれた顔をしたSiがベッドに座っていた。
「Sumika……」いるのか、と彼は叫ぶように言った。
「いるよ、ちょっと待ってね。今コーヒー淹れたから、テーブルに置くからね」
以前のように、すぐに姿を見せなかったからといってSumikaを怒鳴りつけるようなこともなく、あぁ、あぁ、と頷くSiの様子は痛ましかった。それは頭に巻かれた包帯という物理的なものもあるが、彼がSumikaが見えなくなってしまったことによる行動の変化のほうが大きかった。

Sumikaが見えなくなったのは良いことだ
もちろんSumikaのことを唯一感知することができる人間であるSiの目に、彼女の姿が映らなくなったのは、なるほど悲しいことだ。
だがもともとが異常だったのだ。普通の人間には、Sumikaの姿は見えないはずで、彼の場合は何かしらのショックで、おそらく頭に銃弾を受けたことを切っ掛けに、Sumikaのことが見えるようになってしまった。その存在に気付いてしまった。

そしてまた、頭に銃弾を受けたことで、見えなくなった。
存在はまだ捉えられる。声も聞こえる。触れればわかる。それらの点で、やはりまだ普通ではない。だが幾分ましになったのだ。そう思えば、Sumikaのことが見えなくなったこと自体、なんでもない。

だがSiはSumikaが見えなくなったことを泣いて悲しんだ。
その姿がとても悲しく、同時にとても嬉しかった。

ふたりでコーヒーを飲む。Rexにはミルクをあげる。
久しぶりの落ち着いた時間だった。

ここはNew Vegas南にある、NCRの秘密の拠点のひとつだ。数人が居住できる程度のスペースや設備が整っているが、現在は南部NCRから派遣されてきたSiのためだけに開け放たれている。SiとSumikaの場合、第三者が近くにいると会話が交わし難いため、こうしてふたりだけでいられる場所を提供してもらえるのはありがたい。

Strip、Topsの社長であるBennyの死体の発見後、Topsは騒然となった。
しかしそれ以上に大変だったのはSiだった。頭を撃たれた直後に動いたというのもあろうが、彼にはSumikaの姿が見えなくなっており、混乱していた。踏み込んできたNCRの兵士によって場は鎮圧され、混乱したSiの身柄は大使館に引き取られた。
NCRの介入があったため、ArcadeとはTopsで別れた。彼はあくまでSiについてこようとしたため、もしSiが何か口添えすれば同行許可を上に願うことも可能だっただろうが、行動の覚束なかったSiにはそれさえも不可能だった。
Topsの社長の部屋の隣で遭遇したYes Manという奇妙なSecuritronは、理由は不明であるが、NCRがやってくる前に機能を停止してしまった。Sumikaが存在していることを証明してくれるものが、またひとつ消えてしまったということになる。
Siたちは、新たな任務まではこのRangerの秘密の拠点で待機せよと命令された。

「なかなか来ないね」
伝令の人、とSumikaは編み物をしながら言った。見えなくなってからというもの、Sumikaと長いこと話をしていないと不安になってしまうようなので、積極的に話をするようになった。
「何だ?」とSiはリヴォルバーの分解清掃をしながら応じる。
「新しい任務の人」
「べつに」彼はこちらを見ずに言った。「来なくても良い」
そういうわけにはいかないでしょ、とSumikaは諭す。「お仕事してお金貰ってるんだから」
「いつ辞めても良かった」
辞めていれば良かった、と吐き捨てるようにSiは言った。


伝令のNCR兵がやってきたのは、昼を少し過ぎた頃だった。
伝達は書面によって為された。任務内容はふたつ。
ひとつは、ここより東のForlorn Hope基地へ向かい、基地の支援活動をせよ、という内容。Forlorn Hope基地といえば、Caesar's Legionとの戦闘が頻発している地域にほど近く、猫の手でも借りたいほどの窮乏状態だと聞く。おそらくPlatinum Chipの奪取に失敗し、宙ぶらりんな状態にあるSiを体良く利用しようという腹だろう。
もうひとつは、Platinum Chipの追跡を続行し、可能ならば奪取せよ、という、実質これまでの任務の継続だった。その内容自体に奇矯なことは何もない。奪取に失敗したとはいえ、未だPlatinum Chipはその本領を発揮していない。Mr. Houseが運び屋に依頼したというそのチップを取り返すには、まだ余裕があるということだ。
目を引いたのは備考の項目だった。Topsの社長、BennyからPlatinum Chipを奪った正体不明の女、通称Kutoと、つい最近まで同行していた人物がいる。現在その男はKutoとは別れ、Novacにいるため、その人物に会い、彼女の目的や背景を探れ、と書かれていた。

(なんだってやってやる)

この任務が終わったら、もうNCRとの関係は終わりにする。そのことはNCR大使館のDenis Clockerを通してNCR本部や南部NCRに伝達してもらっている。返事はまだないが、おそらく引き止めようとするだろう。しかしもう、NCRの兵士としては働けない。これ以上、Sumikaの存在を失いたくない

現在の自分に見切りをつけるため、SiはNovacへと旅立った。


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