Dead Money
宵越しの金は持たない


Sierra Madreカジノを知っているかい?
埋められた死の赤い雲。
お宝を探しに集まる人々。
伝説、羨望、怨嗟に怨念、それらのすべて。
それはSierra Madreカジノ。

オープン記念にやってくるのは?
映画スターにポルノ男優。
光り輝くSierra Maderの文字。
薬中、強姦魔、正義の味方、誰でも歓迎。
それはSierra Madreカジノ。

誰にでも平等、Sierra Madreカジノ。
みんなで楽しめるSierra Madreカジノ。
いつまで経ってもオープンしないSierra Madreカジノ。

それはそう、Sierra Madreカジノのオープンの日。
それはそう、人類の終わりの始まりの日。
空から爆弾が落ちてきて、ちょっとだけ楽しみが伸びてしまった。

でもいま、あなたを待っている。
待っている。
Sierra Madreカジノ。

* 

気配。
全身の筋肉が緊張する。片腕を後方に伸ばしながらもう片方の手を地に着く。うつ伏せに倒れている。そうでなければ壁に押し付けられているのだろうが、しかし違う。倒れている。膝を曲げて立ち上がり、後方にいる気配に向けて手を伸ばす。掴んだ相手を引き倒して締め上げ、ホルスターから銃を抜こうとする。

ない。
銃がない。
少尉から貰った.357口径回転式拳銃も、Johnyから譲り受けた.44口径回転式拳銃も、Rangerとして支給されたハンティング・リヴォルバーも、どれもホルスターには収められていなかった。
どころか、ホルスターさえない

「痛い、痛いです………」
Siが締め上げた相手が苦しそうに言ったので、ひとまず手を放して解放してやった。
頭を振って、組み敷いていた女は立ち上がる。見知った顔だ。褐色の肌翡翠色の瞳、そして腰まで伸びる透き通るような銀色の髪の女

Kutoだ。


「あぁ……、もう、いきなり起き上がるんですもの。吃驚しました」とKutoは胸に手を当てて言った。「お久しぶりです、牧師さま
「動くな」
Siは再度ホルスターに手をやりかけ、しかしいつも持っている銃がそこにはないことを思い出す。銃がないだけではない。ホルスターも、雑嚢もない。それどころか服装さえも見たことのないツナギに着せ替えられている。
よく見ればKutoも同じようなツナギを着ていた。首にはチョーカーをつけている。否、違う。チョーカーではない。首に巻きついているそれは金属製のようで、以前見たときに彼女が身に着けているものとは違う気がする。まるで首輪だ。

彼女の首輪からは太い銀色の鎖が伸びていた。ふとSiは自分の首元に手をやってみて、同じ首輪が巻きついているのに気付いた。彼女の首輪から伸びる鎖は、Siの首輪にかかっていた。ぞっとする。得体の知れないものが首に巻きついている。鎖つきの首輪。犬のようだ

周囲は戦前の建造物の集まりのようだった。ほとんど風化しかけている建物は迷路のようで、今いる場所から外は見えない。空は一面赤みがかっており、薄暗い。何か異様な匂いがしている。酸っぱいような、匂い。

なぜこんなところにいるのか
だんだん頭がはっきりしてきた。そう、そうだ、思い出した。Nelsonの近くでKutoの姿を発見したSiは、彼女を追いかけたのだ。そして地下施設の入口を見つけた。その施設がLegionのものであろうと、Kutoもそこに逃げ込んだのであろうと、そう考えたSiは、施設に侵入した。中は簡単な防空壕ではなく、凝った作りの施設になっていた。地下へ続く階段があり、その傍には死体があった。その死体は作業着を着ていた。ちょうど、今Siたちが着ているような作業着だ。
さらに奥に進むと、ラジオがあった。スポットライトを浴びるそのラジオからは、女の声が流れていた。そして、そのラジオに近づくと。

近づくと、どうなったのか。
それが思い出せない。急に意識が途切れたような気がする。思い出せるのは、ラジオの歌声だけ。それに、そう、『SEEARA MADRE』の文字。ラジオでも流れていたその言葉。Seeara Madre。否、Sierra Madreか。

「ここはどこだ」とSiは詰問する。
わかりません。わたしもさっき目を覚ましたばかりですから」Kutoは目を瞑って小さく首を振る。「お互い未知の状況なんですから、もうちょっと穏やかに話していただけると助かるんですが」
「この首輪はなんだ」態度を変えずにSiは尋ねる。彼女と仲良くやる気はない。とりわけ銃のない今の状況では。
「さぁ……」
首輪だよゲームの参加者をここに括りつけておくための爆弾の首輪さ』
くぐもった声はSiとKutoがいる広場の噴水から聞こえた。

噴水からホログラムが空間に投影される。映し出されたのはローブのような衣服を身に纏った老年の男性の姿だった。モノクロであるため色合いは判別できないが、おそらくその髪も髯も真っ白だろう。
『馬鹿であろうと、賢しくあろうと、厭だと言う権利はある。それはきみたちの自由だ。だがそうなったら、きみたちの首に着けられた首輪が爆発し、頭と胴体がお別れすることになるだろうね』

さて、とホログラムの男は言った。ゲームの説明を聞く準備は良いかな、と。


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