Jamesが向かったのはSmith家の向かいのWilson家、ではなくそのさらに奥にあった小さな小屋だった。
(こんなところに小屋があったのか………)

 Jamesはちょうどその扉に手をかけ、開けようとしているところだった。
 この小屋は何なのだろうと、Jamesはいったい何を意図してこの小屋にやってきたのだろうと、そう逡巡している間に、彼は扉を開けて中に入っていってしまった。
迷ったものの、彼を追って小屋の中に入ることにした。


 Lynnが小屋の中に入ると、Jamesは面白いくらいにわかりやすく驚愕の反応を示した。肩が浮き、身体は飛び上がり、身体を反転させた。
 きみか、と、ほっとした様子で呟く彼の表情は、しかしLynnの目には入らなかった。視界に飛び込んできたのは、血塗れのテーブルだった。テーブルに載った大型の冷蔵庫骨の入った檻屠殺場を彷彿とさせるが、檻の中に入っている白骨は明らかに家畜のものではない

 Lynnは吐き気がこみ上げてくるのを感じた。
 檻の中の死体は、明らかに人間のそれだ。
 そしておそらく、テーブルの上に広げられ、燻製にされるのを待っている肉も。


 人間の屠殺小屋

「つまりこれが、彼らの秘密だったというわけだ」
 Jamesの言葉がやけに耳に響いた。

 夕飯時が思い起こされる。皿に乗った肉、あれは動物のものではなく、人間のものだった。誰もが食べていた。だからLynnも食べた。食べてしまった。

「彼らはAndareを訪れる旅人を襲い、食料としていたのだろうね」同じ肉を食ったJamesが淡々とした口調で言う。「この目でこの場所を見るまでは確信は持てなかったが……、おかしいとは思ったんだ。こんな小さなコミュニティが、こんな辺鄙な場所であれだけ豊かに暮らせるはずがない。ぼくがこの場所の存在を知ることができたのは、Harrisさんのおかげだよ。Smith一家とWilliam一家とは別に、もうひとりだけこのAndreには住民がいるんだ。それがHarrisさんという老人だ。


 彼はぼくを見て、早く逃げろ、と言った。彼らは殺人者なのだから、可能な限り早く逃げろ、と。この小屋が怪しいと思って、ちょっと鍵を拝借してみたら……、これだ」落ち着いた様子で語っていたJamesだったが、ようやくLynnの様子に気付いたのか、心配そうな様子で、「大丈夫か、Lynn」と言った。
「こんなことが……」

 許されるのか。
 人が人を殺し、食うなどと、そんなことは許されるのだろうか。


「とりあえず、外の空気でも浴びよう」
 さぁ、出よう、とJamesに肩を貸してもらい、外に出る。

 待ち受けていたのは銃を構えたJack Smithだった。


 昼間とはうって変わって厳しい表情だった。手に持つ銃も昼間のものとは違う、相手を威嚇したり殺さず捕らえたりといったことはまったく考えていないであろう、腹部や太い血管に当たれば致命傷になりかねないライフルだ。
 同じく銃を構え、彼の後ろに立つ人々はSmith夫人とWilliam夫妻か。子どもたちの姿はなかった。

「Walkerさんがた」あくまで穏やかな落ち着いた言い回しで、しかし声質には凄みのきいた声で、Jack Smithは言葉を発した。「中で何を見たか、言ってもらいましょうか。返答如何によっては、あんたがたを殺さなきゃならん

 変身できさえすれば、拳銃の弾丸程度ならびくともしなくなる。ライフル弾は怪しいが、敵は三人。射線から身を隠すように動けば避けられる。
 問題はJamesの存在だ。彼を狙われたら守りきれない。流れ弾や跳弾が彼に当たる恐れもある。
 いや、それよりも肝心なのは、闇夜ということだった。これまでの経験上、闇夜の中で変身ができたことは一度としてない。Jamesに変身の理屈を聞いておけば良かった。

 LynnがJamesに目配せすると、反撃の様子ありと悟ったのであろう。「おっと、抵抗はよしてくださいよ」とJack Smithが言ってライフルを構え直した。「さぁ、答えを聞かせてもらいましょう。いったいあなたがたが何を見たのか

 死体だ
 おまえたちが殺した、食った、人々の死体だ。頭のいかれた殺人者め。

 Lynnはそう言ってやりたかったが、それをJamesが制した。

Challenge: Speech (20%) → SUCCEEDED


「いやぁ、驚きましたよ」とJamesは気の抜けた口調で言った。「小腹が減って外に出たんですが、つまみ食いしちゃいそうになりました」

 Jamesの冗談めかした言葉に、Jack Smithは少しの間難しい表情のまま睨んでいたが、やがて銃を降ろして、なるほど、と言った。「それは……、幸運でしたね。しちゃいそうになった、で。今あなたはこうして息をしていられるわけですから」


 Andareの外の道路を両の足で踏みしめるまで、Lynnは生きた心地がしなかった。

 Andareの住人は、その後LynnとJamesを解放してくれた。
 ふたりはAndareの住人とはそれ以上は話さず、ただRitaだけを連れて、未明のうちに東へと出発した。

 Lynnには納得できなかった
 争いにならなかったことは良いことだ。だがAndareをあのまま見逃したことについては気に入らない。Smith夫妻とWilliam夫妻は人殺しの人食いであったが、彼らの子どもたちは人食いの事実を知らなかったようなのだ。子どもたちだけでも連れ出すべきだった。
Lynnは出発間際までそれを主張したのだが、Jamesに退けられた。

 Rivet Cityへ向かう道中、改めてLynnはAndareの子どもたちについて、彼らを助け出すべきではないか、と告げてみた。
 それに対するJamesの返答は、こういったものだった。
「Lynn、きみは医食同源という言葉を知っているかな」
 Lynnが首を振ると、Jamesは説明しだした。
「中国の思想だよ。まぁ、食べ物が身体の資本というか、食をしっかりさせることで健康になろうという、そういった思想だ。その中には、身体のある部位が悪いときには、その部位と同じ部分を食べれば良い、という考え方もある」
「同じ部位って………」
 Andareの出来事が思い起こされる。中国人は、みな彼らと同じようなことをしてきたというのか。
 Lynnの考えていることを察したのか、Jamesは首を振った。「いや、つまりそれは、たとえば肝臓が悪ければ牛のレバーを食べるだとか、そういったものだよ。事実、こういった食べ方は効用があるらしい。まぁたとえば肝臓の栄養状態が悪い人なら、肝臓を丸ごと取り込むことで栄養状態が良くなるというのはいかにもありえそうなことだからね。口や消化器官を通して取り込まれることで多少の変質はするから例外はあるだろうけどね」一拍置いて、ただ、とJamesは続けた。「ただその医食同源を突き詰めていけば、こういう考えには至らないかな。つまり、人間が健康になるためには、人間を丸ごと食うのがいちばんだ、と」

 まさしくAndareだ。
 Jamesが言っているのは、彼らが小さな秘密だと、そう悪びれることなく言った行っていた食人行為だ。

「たぶん、その方法はある程度効果的なんじゃないかな。実際、Andareの彼らはとても健康そうだった。MegatonやRivet Cityとはもちろんのこと、Vaultの人間と比較しても血色は良いし、運動神経も優れているようだった。これが一概に人間を食べたことによる効用だ、とはいえないがね」
「人間を食べるというのは正当なことだと?」
「ま、少なくとも彼らはそれで健康を保っているようだ……。人間が人間を食べないのは、種の本能によるものだろう」とJamesは話題を変えた。「同じ種同士で共食いをすることに忌避感を持たなければ、その生物のコミュニティはお互い同士で食べあって、やがて絶滅してしまい、種の存続に関わる。だから共食いの性質を持つ種は進化するにつれて淘汰され、共食いをしない種だけが残った。Andareの人間が共食いをするのは、彼らが多少特異な人間だからだろう。たとえば飢餓だとか、そういった特異な状況に追い込まれたときに、本能の箍が外れたのかもしれない。しかし彼らは人間だ。それは変わらない。彼らが共食いができるようになったとしても、彼らのDNAに刻まれた食人への忌避感は消えはしないだろう。彼らの子ども……、Juniorくんたちは人を殺し、食うということを良しとはしないはずだ」
「だったら危険じゃないですか」
「彼らは言っていただろう? 家族がいちばん大事なのだ、と。おそらくだが、Juniorくんたちが人食いに嫌悪感を示したからといって、殺そうとはしないはずだ。もっとも彼らも人食いに関して罪悪感はあったようだから、それまでに精神を病んでしまわないかは心配だけれど」


 でも、とあくまで反論しようとしたLynnに対し、JamesはRitaを指し示して、それに、と言った。
「それに、Ritaが危なかったからね。ぼくらが彼らと子どもを引き離そうとすれば、おそらく戦いは避けられない。いざとなれば、この子が人質にされる恐れもあった」Jamesはそう言って、歯を見せて笑った。「ぼくも彼と同じだ。家族がいちばん大事なんだよ」

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