かくもあらねば/20/03
「旅人よ、Zionへようこそ。White Legsの襲撃を受けたそうだが、無事のようでなによりだ。歓迎しよう」
そう言った包帯の男は言葉を紡ぎながらも視線を下げたまま、一切こちらに向けず、.45 Auto Pistolの分解清掃を続けていた。明らかに歓迎するという態ではないが、この男こそがFollow Chalkが引き合わせようとした男、Joshua Grahamなのだ。下手な対応はできない。
Follow Chalkの案内を受けたKutoとDidiは、途中、Yao Guaiとかいう放射線変異を受けた巨大な熊に襲われかけたものの、無事にFollow Chalkの暮らすEasten Virginに到着した。汚染されていない水場をすぐ傍らに備えた、長閑な場所である。
ハイタッチする熊の如くに腕を振り上げるDead Horseに歓迎を受けたりなど、Follow Chalkの所属する部族、Dead Horseは温厚で人当たりが良く、旅人をよく持て成してくれる部族らしかった。これなら、Joshuaなる人物も、きっと温厚な人物であり、やはりJedが忠告してくれたJoshua Grahamとは別人なのだろう。そう思っていたところでFollow ChalkからJoshuaなる男のフルネームが、やはりJoshua Grahamなのだということを告げられた。相手が意図していないにせよ、まるで罠である。
Traits: Wild Wasteland今更、「やっぱり会いません」などとはいかず、Grahamがいるという洞窟を進まざるを得なかった。Didiはといえば、Joshua Grahamの名を聞いてもなんでもない顔をしていた。北のほうから来たと言っていたから、Joshua Grahamの名を知らないのかもしれない。とはいえ、Kutoにしても彼について知っているのは、Jedの警告だけなのだが。
「最近、新たにこの地にやって来たのはWhite Legsしかいなかったものでね。まさかMojaveから人がやって来るとは予想もしていなかった。嬉しいよ」とGrahamはまったく嬉しそうではない声音で言った。「Follow Chalkから聞いているかもしれないが、わたしはJoshua Grahamという。このZionに生きるすべての人々に対して安寧と幸福を約束するために、神の御許で働いている」
DidiとKutoはそれぞれ自己紹介をした。
「DidiにKutoか。よろしく。では、きみたちがこのZionにやって来た理由を聞いても良いかな?」
というGrahamの表現は柔らかであったが、声音はほとんど詰問である。Kutoは素直に、Mojave Wastelandから隊商とともにやって来て、White Legsに襲撃されてしまったということを説明した。
「ぼくは北のほうから……、Texasを目指して旅をしていたところだった。ちょうどWhite Legsに襲われている彼女を見つけたから、助けた」
なるほど、と一度頷いてからGrahamは少し逡巡する間を置いた後、言葉を紡ぐ。「きみたちにとって、良いニュースと悪いニュースがある。どちらから聞きたい?」
「良いニュースを」
「わ、悪いニュースで……」
DidiとKutoがそれぞれ言ったのはほぼ同時だった。
なぜ良いニュースから聞こうとするのか、それを問いかけるためにKutoはDidiに視線を向ける。
「とりあえず良い話があるのなら、それを聞きたいというものでしょう」
Didiはそんなふうに言うが、こういった問いかけが為される場合、良いニュースと悪いニュースはそれぞれ独立しているのではなく、悪いニュースが良いニュースを打ち消すようにできているものだ。
「良いニュースだが、もしきみたちがそれぞれの目的地……、DidiならばTexas、KutoならばMojave Wastelandに戻りたいのならば、われわれはその手助けをできるということだ。わたしの友人であるDanielが持っている地図はこの周辺地帯を網羅している」
「おお、良かったですね」とDidiが他人事ながら嬉しそうな口調で言った。「これで帰れますよ」
(帰りたくないんだけどなぁ………)
戻ればCaesar's LegionとNCRが待っている。どちらもKutoにとっては危険だ。
だがKutoは、Joshua Grahamの「悪いニュース」を聞く前に、心の裡を曝け出すつもりはなかった。というのも、このGrahamという男が何も見返りを求めずに「良いニュース」を出してきたはずがないのだから。相手の魂胆が見えるまでは、こちらの心の裡は曝さないでおくべきだろう。
「次に悪いニュースだが、今はわたしもDanielも手が空いておらず、きみたちの手助けをしてやることはできない」と、Grahamはほとんど予想通りの事を述べた後、信じられないような事実を述べた。「White LegsはCaesar's Legionだ」
「Caesar's Legion!?」
思わず声を発してしまってから後悔する。これではCaesar's Legionと関係が有るという事を吐露するようなものだ。
正確に言えば、とGrahamは特にKutoに気を払う様子も見せずに言葉を続けた。「正確にいえば、Legionになろうとしている集団だ。CaesarはWhite Legsに、New Cannanを殲滅、制圧することをLegionに加わる儀式としている」
「Legionですか。厄介ですね」とDidiがなんて事のない口調で言う。彼は北から来たと言っていたが、Legionについては知っているらしい。南へ向かうと言っていたので、あるいは元々南の土地の人間なのかもしれないが。
「さて、現在われわれが必要としているのは、戦前の遺産だ」とJoshuaは言う。「といっても、そう仰々しいものではない。ただの方位磁針だとか、簡単なものだ。そうした戦前の遺産の発掘に関しては、本来ならDead HorseやSorrowの手を借りるのだが……、今回対象とする場所は禁忌とされる場所で、彼らは近づきたがらない。禁忌を気にしないわたしやDanielは戦の準備で忙しく、手が空いていないのだ」
ぎろと包帯の隙間から覗かせる目は、ほとんど脅しであった。
Kutoは脅しに屈さざるを得なかった。
Mojave Wastelandに戻りたいわけではないが、さりとてこの文明からほど遠いNew Cannanで一生を終えたくはない。でなくとも、Yao Guaiがうろつく危険な土地だ。さっさと出て行きたい。あるいはDidiという男について南へ向かっても良いかもしれない。しかしそうは思っても、この場でJoshua Grahamに撃たれては仕方がないのだから、これ以外の出方はない。
Didiがいるのだから、彼にできるだけ頑張ってもらおう。そう思い、Joshua Grahamの洞窟から出てちらと彼の様子を見やれば、先ほどのGrahamとの会話など無かったかのように、にこやかな表情でFollow ChalkにDead Horseの村や文化についてあれこれと質問をしていた。
狩猟と採集の話から、Joshua Grahamについて質問が移ったので、Kutoは近づいて聞き耳を立てることにした。
「そういえば、あのJoshuaって人は……、どういう人なんだい?」とDidiが尋ねる。
「Joshuaは、帰ってきてからずっと、おれたちの首長」
「帰ってきてから?」
「そう」とFollow Chalkは頷いた。「Joshuaは何年か前、Civilized Landsに戦争に行ってた。それで帰ってきた」
「それって……、もしかしてHoover Damの戦争では?」
話を聞いていて、ふと思うことがあったKutoは口を挟んだ。Joshua Grahamが洞窟で、Caesar's Legionの話題を出したときに見せた表情は、彼がCaesar's Legionに何らかの因縁を持っているようにしか見えなかったのだ。彼はNCRに所属していたのかもしれない。
「最近じゃあ、大きい戦争っていったら、LegionとNCRが戦ったその戦争くらいですよ」
「そうかもしれない」と曖昧にFollow Chalkは頷く。「Joshuaはあんまりそのこと、喋らないから、よく知らない……。でも、Joshuaのおかげで、おれたち、自分たち守る方法知ることができた。Joshua、Caesarから逃れる方法も教えてくれた」
「ふむん、NCRだったのかな」
Didiがそう呟くと、Follow Chalkは首を振ってこう答えた。
「違う、Legion」
「Legionって、Caesar's Legion?」
「そう」とFollow Chalkは何でもないことのように頷く。「昔……、とても昔、怪我する前のJoshuaはとても怖かった。Caesarという人の兵隊で、とても……、こう、こう、高慢だった。でも焼かれて、怪我をして戻ってきてから、とても優しくなった。同じJoshuaだとは思えないほど。謙虚になった。そしておれたちを守ってくれるようになった。だからおれたち、みんな今のJoshuaのこと、大好きだ」
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