1458年05月15日
415日目
蠍、飼い主とロドック王国に別れを告げ、禿頭の男とサラン朝に恩を売ること

Name: Rana
Sex: Female
Level: 25
HP: 55
Attributes: STR12, AGI15, INT13, CHA19
Skills:
【STR】鋼の肉体4, 強打4, 豪投4
【AGI】武器熟練3, アスレチック5, 乗馬3, 略奪3
【INT】訓練3, 戦略4, 経路探索1, 観測術2, 荷物管理2, 治療2
【CHA】説得3, 捕虜管理3, 統率力6
Proficiency: 長柄武器224, クロスボウ183, 投擲130
Equipment: 貴婦人の頭布, サランの鎖の上着, 壮麗な鱗の篭手, 黒金のブーツ
Arms:鍛え抜かれた戦槌, 精巧な重い投擲用斧, 重い投擲用斧, 騎士用ヒーターシールド
Horse: 足を引き摺った駿馬
Companions: ユミラ, アルティメネール

 カーギットとの戦争が休戦になり、ロドック王国と戦争が始まってから一ヶ月以上の月日が流れた。



 ラナはその間、一度だけフライチン女伯に出会った。彼女の軍は、バリーエ近郊のフィシャラの村を襲撃していた。それを撃退した。フライチン女伯のことは、捕らえようとすればそうできたはずだが、結局は見逃した。言葉は交わさなかったが、しかしラナの意思は伝わっただろう。
「もうあなたの思い通りにはならない」
 彼女とて、村から略奪を働く貴族には違いなかったのだ。否、今までも解っていた。見ないようにしていただけだ。



 胸中に残ったのは恨みだけではない。感謝もあった。形はどうあれ、彼女は立派にラナを育ててくれた。だから恩義も感じる。だが、ここで終わりだ。確かに袂が分かたれた。

 彼女のことは、それで忘れた。問題は、その戦いで馬が足を折ったということだった。ロドックからずっと乗っている馬である。骨折は治ったものの、足を引き摺る癖が残ってしまった。元は重い馬場さえもものともしない俊馬だったというのに、これでは戦場で戦えない。
「じゃあ、ぼくが買ってあげるよ」
 そう言ったのは、未だバリーエに居を構えているアジズであった。
「アジが?」
「なんで驚くの? ぼくだって、お金くらい持ってるよ。お小遣い、貰ってるから」
「アジ、その申し出はとってもありがたいんですけれど……、馬が一頭、どれくらいするか知っていますか?」
 馬は貴族や隊商にとっては、それ以外のあらゆるものを合わせたよりも大事な財産だ。戦争に使う軍馬となれば、相応に値が張る。
「大丈夫だって。ほら、買いに行こうよ」

(まぁ、なんとかなるかな)
 アジズは多くのきょうだいがいるため、王位継承権は弱いものの、サランの王子だ。金に困る立場ではないし、ラナとしては馬にそう拘るほうではないので、足を引き摺らない馬が買えれば良い。



 バリーエの街に出ると、ちょうどカーギットからやってきたという商人が市を開いていた。アジズとともに馬を見て回っていると、一頭の馬が目についた。
「その馬が気になりますか、良い目をお持ちですね、お嬢さん」と馬商人が声をかけてくる。「うちより良い馬はどこにも売っていませんよ」



 お嬢さん、などという言葉に、ラナは思わず噴き出しそうになってしまった。バリーエの住民は、皆ラナが領主だと知っているから、そんなふうに言われたのは久し振りだ。どうやらこの馬商人は行商で、バリーエに来てまだ日が浅いらしい。
「でも、その馬は……」
「ラナ、これが良いの?」と商人の言葉を遮って、アジズが言う。
 ラナは言葉を返すのを躊躇した。というのは、商人の口から発せられる言葉の予想がついたからだ。
この馬は値が張りますよ。ノーブルウォーホースですからね」と商人は僅かに馬鹿にする口調を含んだ色で言った。
 そう、ラナが見止めたのはサラン産のノーブルウォーホースだ。相応に鍛えられているため、鎧をつけても嫌がらないし、矢や槍程度では怯えたしないだろう。雑兵くらいなら簡単に踏み潰す。
「幾らくらい?」とアジズは怯まずに問いかける。
「まぁ、最低でも、これくらいはしますな」と商人は手を広げてみせる。
「五百?」
「五千」
「五千デナル!?」
 アジズは判り易く驚いたが、ラナは特に驚かなかった。農民が徴兵されて一週間従軍し、稼ぐことができるのがおよそ1デナル。労働者の月給は4から10デナルといったところだろうか。五千といえば、何年も楽して暮らせるだけの金額である。
 だがノーブルウォーホースは貴族のための軍馬だ。ただの軍馬ではない。そしてこの馬はその中でもとりわけ良い馬だというのは、一見しただけでも解った。
「これくらい良い馬なら、値が張るもんなんですよ」と商人は馬鹿にしたように笑いながら言う。「それに、こういう馬はお嬢さんやお坊ちゃんが乗る馬ではありませんよ」

 商人の笑い声に、アジズが反応し、あからさまにむっとした表情を見せる。
「お金、取ってくる」
 そう言って踵を返そうとしたアジズの襟元を、ラナは掴んだ。「待ってください、アジ」
「なに」
「まさか買う気ではないでしょうね?」
「ラナは馬を見るために馬屋に来たわけ?」
「アジ、あのですね、わたしはそこまで良い馬が欲しいわけではないんです。素直で、乗り手の言うことを良く聞いてくれる子なら十分です。あんまり足の強い馬だと、乗りこなせませんから」
「そんなことないでしょ、ラナ、馬乗るの得意じゃない。それに」とアジズはちらと商人を一瞥する。「買えないと思ってるんだよ。悔しいじゃん」
 ラナは少し考えてから、言葉を放った。
「アジは、わたしに馬を買ってあげたいんですか? それとも自分を良い気分にさせたいんですか?」
 われながら、プレゼントを受け取る側としては尊大な物言いである。が、アジズには効果があった。ぐぅと唸って口を噤む。
「手頃な馬で良いんです。優しくて、言うことを聞いてくれれば……。それと。馬の代金はやっぱりわたしが払います」
 え、とアジズは声をあげた。「なんで? 買ってあげるって」
 下手なことを言うと、アジズは引き下がりそうにはなかったため、ラナはなるたけ優しく言ってやった。「馬はとても大切なものですけれど、戦場だと消耗品になります。そういう消耗品をアジに買ってもらうのは、なんだか勿体無いですから。何かもっと、日常的に使えるものを買ってもらうことにしましょう。今日は何かの記念日でもありませんしね」



 そういうわけで、改めて馬を見直して、手頃な値段で手に入れたのは、カーギット軍馬であった。
 騎兵といえば、サランのマムルークやスワディアの聖騎士、そしてカーギットのマングダイだ。サランとスワディアの騎兵は重騎兵であるが、カーギットの騎兵は装備の軽い軽騎兵だという特徴がある。ラナも身に着けている装備は軽いものばかりなので、カーギットの騎兵を真似たほうが良いのかもしれない。そんな考えからだった。
 大人しく引かれる馬を連れて、城へと戻る。躊躇いがちな口調でアジズが口を開いたのは、夕暮れの帰路の中でだった。
「ラナ、ロドックの貴族と会っていたって、本当?」
「本当だったら、どうします?」
 口を開いて出てきたのは、否定ではなく、何所か肯定する色を含むそんな言葉だった。嘘は吐けても、己の立場を守るために彼を騙すことはしたくなかった
「ラナがロドックに行っちゃうのが厭だと思った」
 アジズの口から発せられたのは、素直な言葉だった。この子は本当に、自分のことを好いてくれている。そう思うと嬉しかった。何に代えてもこの子を守りたいと、そんな気持ちになった。
 だが彼を守るためなら、まずは己を守らなくてはならない。ラナがロドックの貴族、フライチン女伯に会ったことを彼が知っているのは、誰かから告げ口されたからだろう。おそらく、貴族だ。ラナを疑う人間がいる。

 今のラナにとって、必要なのは信頼だ。そしてそれを勝ち取るのは、どんな城を攻め落とすよりも難しい。
 そんな彼女の元に、渡りに船というべき話が舞い込んできたのは、五月の中頃、またしてもカーギットとの戦が始まった夏の始まりの頃である。



 話を持ち込んできたのは、ビリヤ公。サランの貴族である禿頭の男であった。彼の義父、ガナワ公がカーギット・ハン国に囚われてしまったので、救い出して欲しいという依頼であった。
 バリーエの戦い以来、ラナが腕が立つということは知られるようになってきていた。とはいえ、女に依頼する内容ではないな、と思う。
 だが今のラナには、依頼を受ける以外の選択肢は無かった。



 ディスタール城へは、40人程度の小規模の騎馬隊で向かった。兵たちは城から離れさせておき、ラナは恒例のように巡礼者の姿で単独で城へ潜入し、門番から鍵を奪うと、ガナワ公を助け出した。



 ラナがバリーエに戻ってくると、泣きそうな顔のアジズが出迎えた。どうやらガナワ公の救助に向かったと聞いて、余程心配してくれたらしい。
「なんでそんなに危ないことするの」
 まるで叱りつけるかのような物言いに、ラナは思わず噴き出しそうになってしまった。この子に心配してもらうというのは、気分として悪くない。ああ、悪くない。もっと頑張ろう。
 その夜、ガナワ公を助け出すために5人ほど切り殺した手をじっと見つめた。そして寝た。

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