Gilles大尉なる女性仕官が頼み込んできたことはみっつである。
 ひとつ、避難民を守るための警備兵の増員。
 ふたつ、配給用の食料の確保。
 みっつ、襲撃者の退治。
 そしてSiは45-70ガバメントの一撃で、まずみっつめの頼みを解消した。


Great Kahnだな……。良い暮らしをしてやがる」
 とSiがBitter Spring北の洞窟に隠れていた襲撃者の死体を検分して言った。辺りにはBrahminの丸焼きなどもあり、確かに良い暮らしには違いない、が、Siに殺された。幸せだったとは言い難いだろう。Sumikaは彼に気付かれぬように十字を切った。

 SiとSumikaは死んだGreat Kahnの居た洞窟や他の洞穴から物資を回収、Gilles大尉に手渡した。一部の物資は汚染されてはいたが、除去の方法も伝えておいたので問題なかろう。

Aid: Programmer's Digest (Science +20)
Perk: Comprehension (雑誌の効果2倍)

Challenge: Science≧30→Success

 その後、SiとSumikaはBitter Springsを離れ、New Vegasのすぐ南に在るCrimson Caravanへと向かった。これは食料のあてをつけたということもあったが、ある本を探すためでもあった。
「医学書が必要なんだ」
 とSiに頼んできたのは医療テントで忙しなく働いていたMarkland大尉である。
「医学書だ? あんた、衛生兵だろう。そんなもん必要なのか」
「だから、衛生兵なんだ。銃創や塹壕足炎だったら、どんと来いだ。だがこの難民キャンプには、精神的外傷を負った子どもたちが沢山いる。その治療なんてのは、専門外だ。だから医学書がいるんだ」



「目星は付けてあるのか?」
 Siは急に真剣みを帯びた表情になった。先ほどまでは、もう面倒だからBooneのことは放っておいて元の任務に戻るか、などと言っていたSiであったが、子どものためという言葉を聞いて、俄然真面目になったようだ。元々は孤児院でAniseを除けば最年長であり、幼い子どもたちの面倒をよく見ていただけあって、見捨ててはおけないのだろう。あの時代から20年近くなった今となっては、優しい声をかけてやることはできないけれど。

 目当ての医学書があるかもしれない、とMarkland大尉が言った場所が、Crimson Caravanだった。ブラジャーからミサイルまで、なんでもござれのMojave Wasteland最大手のキャラバンだ。
 SiはCrimson CaravanのBlakeという黒人の商人に声をかけた。



「本を探しているんだが……。えっと……、なんだっけ?
 とSiが視線を向けてきがので、Sumikaは溜め息混じりに答えた。
『ストレスと現代社会の被害者 入門』と『ちっちゃくて可愛い赤ちゃんのために 小児科の薬大全』だよ」
「そうそう。酷えタイトル

 ちょっと待ってくれ、とSiとSumikaの言葉を聞いたBlakeは棚を漁り始めた。すぐに二冊の本を抱えて戻ってくる。
二冊セットで50Capsだ」
「安いな」
 とSiが拍子抜けした様子で言う。本は戦前の遺産なわけで、ものによっては非常に高価にやり取りされることもある。
「あんた、うちのRingoを助けてくれたんだろう? そのサービスだ。それに、こんな本、誰も買わん」
 そういえば、以前にSiが助けてやったRingoはCrimson Caravanの一員だったか。どうやらBlakeは、Good Springでの出来事を知っているらしい。やはり人助けはしておくものだ。
 Siは本を受け取り、もうひとつの用件、Bitter Springsへの食料の輸送について頼んだ。
「おれはBitter Springsから来たんだが、難民用キャンプの食料が足りないので送って欲しいんだが、可能か? Brahminの肉とか調味料だとかを」
「そりゃ、不可能じゃないが……、代金は相当になるぞ。難民キャンプに払えるのか?」
「払えんな。だがNCRのMcCaran基地に新鮮な野菜だとか水が余っている。それと交換といこう」

Challenge: Bater≧50→Success

「よし、それでいこう。野菜と同じ重さの肉で交換だ。水は貴重だし、ありがたい。配達はできる限り早いほうが良いんだよな?」
「そうしてくれ」



「まぁ、一週間はかかるだろうが……、できるだけ早く荷が到着するよう手配する……。ああ、そうだ」と、Blakeは何か気付いたかのように言う。「ちょっとでかい取り引きになるんで、あんた、うちのボスに話をつけといてくれないか?」
「それは構わんが………」
 Siが僅かに逡巡するような素振りを見せたのは、おそらくは長年のRangerとしての経験から、Sumikaと同じことを思ったのであろう。
 すなわち、「なんか厭な予感」である。
 そしてその予感は杞憂にはならなかった。

「人手不足で、困ってるの」
 とCrimson Caravanの女主人、Alice McLaffertyは言った。



 Siは、おれの知ったことじゃない、とも、人手不足は間に合っている、とも言わず、黙って先を促した。彼女がBitter Springへの援助の対価として、Siに労働させようとしていることは明らかだったからだ。機嫌を損ねては、さらに余計な仕事をしなくてはならない羽目になる。
「なに、簡単な仕事よ。納品書をMcCaran基地のHildren博士に届けて欲しいの」



「それくらいだったら、構わん」
 どうせ人員の増加を頼むためにMcCaran基地には行く予定だったから、とは言わなかった。

 さらに西進して、NCRのMcCaran基地。SiとSumikaはまず、以前の情報漏洩問題のときに世話になったHsu大佐の元を訪ねた。以前と変わらぬ疲れた表情ではあったが、快く迎え入れてくれた。
「久し振りだな、Ranger FE。先日は助かった。今日は何か任務か?」
「いや、まぁ、そのような、そうでないような………」
 言葉を濁すSiに対し、訝しげな様子を見せるHsu大佐であったが、詳しい事情を説明すると、なるほど、と頷いてくれた。
「正直、こちらも苦しくはあるが……、きみには以前に助けられた。そうでなくとも、難民を助けるのはNCRの義務だ。Bitter Springsへの増員は任せてくれ。すぐに人を見繕って送ろう」
「助かる」


 やはり人助けはしておくものだ、とSumikaはまた思った。対価を期待するものではないけれど、きっと人と人との繋がりが心地良いものになるのだから。

「ついでに訪ねたいんだが……、ええと、Hildren博士ってのは何処に居る? 届け物を預かっているんだが………」
「彼なら研究室に居るよ。扉を出てすぐ左手だ」だが、とHsu大佐は眉根を寄せる。「彼にいったい、なんの用だ?」
Crimson Caravanから納品書を渡してくれって頼まれているだけなんだが……。何か問題でも?」
「そうか……。いや、それだけなら良いんだ。彼の仕事を請けに来たのかと思ってね」
「仕事?」
「止めておいたほうが良い。碌な仕事ではないと思う」
評判の悪い人物なのか?」
「そういうわけではないが……」とHsu大佐は言い難そうに言葉を濁す。「彼は如何にも学者らしい人物だ。研究成果を得るためなら、現場の人間の苦労など考えていない。気を付けたほうが良い」
「なるほど、まるで軍の将校みたいだな」
 Siの言葉に、Hsu大佐は驚いた表情になった。皮肉だと気付いたのだろう。彼は重く頷いた。「ああ、そうだ。現場のことを考えていないというのは、そういうことだ。そうならないようにしたいものだがな」
「あんたなら大丈夫だ。Bitter Springsの件はよろしく」

 SiとSumikaはHsu大佐の部屋を出て、Hildren博士の居る研究室へと向かう。幾つか研究用の機材らしきものはあるが、こじんまりとした研究室である。研究員も、どうやらHildren博士と若い女性の研究員ひとりだけのようだ。
Vault 22のことで来てくれたんだね」とHildren博士はSiの顔を見るなり破顔して声をかけてきた。「ああ、なかなか強そうだ。ガンマンだね。Rangerとは頼りになる」
「Vault 22? おれはCrimson CaravanのAliceから納品書を配達に来ただけなんだが……」
「Alice ? 」とHildren博士の表情が歪む。「ああ、まったく、あの手の連中はいけない。いつもいつも人のことを急かしてばかりだ。もう少し大きく物事を見てもらいたいね。納品書……、納品書ね。受け取ったよ。で、わたしは受領のサインを書く必要があるわけだ」
 Siは頷き、受領書を手渡す。ペンも。だがHildernは動かない。
「今、人手が足りないんだ。Vault 22のことでね。手が足りない。だから、サインひとつするにも難しい。ああ、誰かわたしを助けてくれる者はいないだろうか。凄腕のガンマンならなおさら良いんだが」
 これは脅しだな、とSumikaは思った。ちらとSiを見るからには、苛々とした表情を隠さない。ここがNCRの基地でなければ、あるいはCrimson Caravanの依頼が関わっていなければ、ぶん殴ってでも言うことを聞かせていただろう。
「Si、落ち着いて……」
Vaultがどうした。手短に話せ」
 Sumikaの抑制も聞かず、Siはそう問い質してしまった。
 すぐさま嬉しそうな表情に戻り、Hildren博士が事情を説明する。

 Hildernの話では、最近発見されたVault 22では植物の研究を行っていたらしい。Vault 22の入口は植物で覆われており、驚異的な成長力で徐々にその勢力を広げている。Hildrenはその成長力を解明しようとしているらしい。
 彼が具体的に依頼してきたのは、Vaultのサーバー室から研究データをダウンロードすることであった。
「なに、簡単な依頼さ」とHildrenは言った。「まぁ、Vault 22の場所がMojave Wastelandの西部で、あの辺りはCazadorだのRaiderだのが居るから、危険が無いわけではないが……、Rangerなら楽勝だろう」
依頼は受ける。だからサインしろ」

 受領書のサインを受け取り、SiとSumikaはHildrenの元を離れた。
「まったく、Si、Hsu大佐に言われたことを忘れたの? Hildren博士には気をつけろって言われてたじゃない」
「しょうがないだろ。早くこの仕事を終わらせないと、Crimson Caravanがちゃんと動いてくれるか分からん
 確かに、その通りかもしれない。Bitter Springは一刻を争う惨状だ。Great Kahnsは片付けたし、Booneが残っているからCaesar's Legionに対する警戒はできているだろうが、食料の問題ばかりはCrimson Caravanを頼らざるを得ないのだ。

 なんにせよ、さっさと仕事を片付けるべきだろう。そう思い、出発しようとしたSiとSumikaに声をかけてきたのは、Hildrenの研究室に居た若い女であった。
「あの、もし……、あなたは、Hildren博士にVault 22の探索を依頼された方では?」
 Siは言葉を発さず、首肯もせずに、じぃと女を見返した。
 その対応を、自己紹介を行っていないために不審がられたと思ったのか、己の胸に手を当て、Angelaといいます、と名乗った。「Angela Williamsです……。Hildren博士の助手として働いています」

 Angelaは小柄な可愛らしい容姿の女だった。おどおどとしていて、無法者の雰囲気を帯びたSiに怯えているようでもあった。
「何か用か」
 とSiが口をきくと、びくと震えた上で、唇を湿らせたのちに言葉を発した。
「あの、言っておかなければならないことがあるんです。たぶんHildren博士は言わなかったと思いますけれど、Vault 22の探索に雇われたのは、あなたが最初じゃあないんです」と彼女は一気に言葉を吐き出す。「傭兵とか、たくさんの人たちが、以前からHildren博士には雇われていました。ひとりも帰ってきませんでしたが。それで、一週間くらい前にもHildrenの命令でVault 22へ向かった人がいて……、彼女はKeelyっていう研究者です。ちょっと変わっていて、でも、本当に天才なんです。わたし、Keelyのことは凄く尊敬していて、でも、でも……、帰ってこないんです
 そこで一度言葉を切ると、Angelaはわっと泣き出した。
「一週間前? じゃあもう死んでるな」とSiはAngelaの様子に気にした様子もなく言った。


「ひ、Hildren博士も、Keelyが帰ってくると思っていません……」彼女はハンカチで涙を拭い、嗚咽を堪えた様子で言う。「でなければ、あなたを雇いませんから。でも、でも、わたしは信じています。Keelyは生きているって……。わたしは裕福とはいえません。でも、きっとできる限りのお礼はします。だから、Keelyを助けてください

 SumikaはちらとSiの様子を観察した。明らかに、気のない様子ではあるが、しかし二十年以上の付き合いがあるSumikaには、彼が心動かされているのが手に取るように解った。
 Siはつまり、弱いものに弱いのだ。守ってやりたいと思うのだ。
 一方でAngelaという女性は、意識してかどうかは判らないが、人に頼り、守られることに慣れている人間のようだ。間違いなく、SiはAngelaの依頼を受けることになるだろう。

 話は予想通りに進み、Keelyという人物を助けるということで落ち着いた。Sumikaは何も言う気にならなかった。べつに、悪いことをするわけじゃない。これも人助けだ。べつに、若くて美人な女だから手助けするわけじゃないのだ。そう。だから怒ることではない。歓迎すべきことだ。
 悶々としている間に、Vault 22に到着する。



「異様な場所だな………」
 とSiが呟く。
 確かにその場所は、Sumikaが見てきたどのVaultとも違った様相であった。


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