天国の前に/05/566日目 蠍、巣の周りを見回り、かつての戦友に毒針を突き立てること

1458年11月8日
566日目
蠍、巣の周りを見回り、かつての戦友に毒針を突き立てること

Name: Rana

Sex: Female
Level: 33
HP: 55
Attributes: STR12, AGI16, INT14, CHA25
Skills:
【STR】鋼の肉体4, 強打4, 豪投4
【AGI】武器熟練4, アスレチック5, 乗馬5, 略奪5
【INT】訓練6, 戦略6, 経路探索1, 観測術2, 荷物管理2, 治療2, 手術1, 応急手当て1, 技術者1
【CHA】説得3, 捕虜管理5, 統率力8
Proficiency: 長柄武器275, クロスボウ231, 投擲160
Equipment: 貴婦人の頭布, ブラス・マムルークアーマー, 壮麗なアワーグラスガントレット, 黒金のブーツ
Arms:名匠の手による戦槌, ひび割れたアーバレスト, 鋼鉄のボルト, 投擲用戦斧
Horse: 逞しく優秀な駿馬
Companions: ユミラ, アルティメネール


 現在のサラン朝は、一時期の窮乏状態から一変、カルラディアのほぼ1/3を手中に収めるようになった。地図で見れば、その勢力図の激変振りが解り易い。
 南東部、黄色く塗りつぶされたサラン朝の領土の中に、しかし唯ひとつ青く塗られた領土がある。バリーエに程近い場所にある、シャルワ城である。
 古くからサラン朝に組していた家系のダシュワル公爵がサランを裏切り、ベージャー王国に着いていた。


「ハキムさま、ベージャー王国に宣戦布告をすべきです」
 カーギット・ハン国の古都、現在ではサラン朝の領土となっているハルマールに駐屯していたハキム帝に謁見したラナは、そう進言した。
 長きに渡って争っていたカーギット・ハン国やロドック王国とは停戦状態にあり、サラン朝は何処とも戦争状態にはない。一方ベージャーはノルド王国と交戦状態にあり、しかもベージャーは間接的にこちらの領土を奪っている。開戦に踏み切るだけの理由があった。
「良かろう、剣を構えよ!」
 われわれはベージャー王国に宣戦布告をする。ハキム帝は告げた。


 戦争の開始を見届けたラナは、急ぎ騎馬軍を引き連れてハルマールを出た。ここからは速度を要する。バリーエへ戻る。そして兵糧を準備し、すぐさまシャルワ城へ向かう。


 そんな行動予定を妨げたのは、バリーエでの声だった。
「ラナ!」
 という高い声は、変声期前の少年のものである。
 ラナは気付かぬふりをして、バリーエの宮殿の階段を降りようとした。馬のところまで行ってしまえば、もう追いつけないはずだ。
 だが声の主は石壁を乗り越え、無理矢理にラナの前に回りこんだ。両手を広げて立ち塞がるアジズを踏み潰して前に進むことはできない。
「何か御用ですか?」
 われながら余所余所しい問い掛けだ、とラナは思う。これまではバリーエに戻ってきたとき、いつもアジズに声を掛けていた。バリーエ奪還以後、アジズはたいていはこのバリーエに住んでいるのだ。
 だがハキム帝に釘を刺されてから、ラナは彼に声をかけることができなくなっていた。
「ラナ、今回のベージャーとの戦争はラナが進言したっていうのは、本当?」
 アジズの真摯な瞳と質問を、ラナは受け止められない。
「王子には関係のないことです」
 ラナは石壁を蹴ってアジズを飛び越え、己の馬に乗り隊へと戻る。もう二度と、アジズには会いたくない。

 170余命の騎兵隊を率い、サランの砂漠を行く。これだけの規模の騎馬軍ともなれば、砂賊さえも近寄れない。
 シャルワ城の城門は硬く閉ざされていた。面会にも応じようとしないが、どうやらダシュワル公爵は不在らしい。
「アルティメーネル。この城の攻略法は?」
 とラナは尋ねる。
「攻城櫓が必要ですな」
「何時間かかります?」
一日と半ってところでしょう」


 攻城櫓作成には時間がかかる。しかし相手が門を開かぬ以上、無理矢理に壁を越える以外に手はない。
 ラナは攻城櫓完成までの間、周辺を見回ったり、遠巻きにシャルワ城を監視したりした。
 手が空くと、しぜん色々なことを考えてしまう。
「ラナ、今回のベージャーとの戦争はラナが進言したっていうのは、本当?」
 何よりも、バリーエでのアジズの問い掛けが、どうしても頭を離れない。

 ああ、そうだ。その通りだ。ラナは開戦の進言をした。理由は単純だ。シャルワ城が敵の領土になるのは面倒だったからだ。
 シャルワ城はバリーエにほど近い。騎馬で1日とかからない。バリーエが以前に奪われた際、ラナたちはシャルワ城に身を寄せて反撃の機会を伺っていた。
 そのときのこともあって、ダシュワル公爵とは面識があり、友好がある。だが彼女の心を変えられるほどではない。
 ダシュワル公爵が男なら、ラナは己の力を利用してその心持を変えることができただろう。だが彼女は女で、ラナの力では及ばなかった。
 ダシュワル公爵がなぜベージャーに着いたのかは知らない。
 だがひとつ明らかなことは、潜在的な敵国の城がシャルワ城にあっては邪魔だということだ。

 バリーエにはアジズがいる。
 ラナがバリーエを奪還してからというもの、またラナがバリーエの領主になってからというもの、アジズは己が家をそこに定めた。
 ラナは、ラナはだから、アジズを守りたい。バリーエを守りたい。
 だから戦争を起こした。


シャルワ城攻城戦
サラン朝 175名
ラナ

ベージャー王国 195名
シャルワ城守備隊

結果 勝利

 ラナの攻城部隊は電撃的な作戦を採用したために、騎馬隊しかいない。重装備の槍騎兵と銃を携えた竜騎兵を交えてあるが、それでも装備の重量、すなわち防御力の観点では歩兵に劣る。
 でなくても、数の上では不利である。
 だがラナは死に物狂いでシャルワ城の守備隊を切り崩した。


「ユミラは負傷者の手当てを………、アルティメーネルは城壁の修復を」
 血塗れの城壁の上で、ラナは士官や仲間に指示を出す。
「ラナ」
「それとサラン方面に50名ずつ2部隊、徴兵をお願いします。わたしはバリーエに戻り、民兵の徴収をしてきます」
「ラナ………」
「武官は射手の育成をお願いします。手の空いている方は、城壁を片付けてください……、手厚く葬れとまでは言いませんが」
「ラナ!」
 先ほどからしつこくラナの名を呼んでいたユミラが、声を張り上げて叫んだ。
「なんですか、ユミラ………、敵ですか?」とラナは億劫に答える。
「ラナだって怪我してるじゃない。なんでそんなに無理するの?」
 ユミラは涙を目に溜めていた。
 確かにラナは矢傷を受けていて、傷だらけだった。だが既に血は止まっているし、馬に乗れないわけでもない。それにラナはバリーエの領主であり、顔が利くため、民兵を集めるためにはラナが行くのがいちばん早い。
「ラナは、なんでも自分ひとりでできると思ってる。自意識過剰だよ」

 ユミラの言葉は間違っていないな、とバリーエへ向かいながらラナは思う。確かに、そうだ。自分はひとりで何でもできると思っている。そういうふうに育てられたから。やはり幼い頃の気性は抜けない。
 バリーエで民兵の徴兵をすると、行軍速度が一気に落ちる。シャルワ城の傍まで来ると、城が軍団に囲まれつつあることに気付いた。旗に記された紋章は尾羽の長い小鳥、オナガだ。シャルワ城の元の持ち主である、ダシュワル公爵の家紋である。城を取り返しに来たと考えて差し支えあるまい。


 包囲が完了する前に、ラナは引き連れてきた民兵とともに城の中に戻る。
 襲撃が始まったのは夕暮れどきだった。


シャルワ城防衛戦
サラン朝 199名
ラナ
シャルワ城守備隊

ベージャー王国 172名
ダシュワル公爵

結果 勝利


 急ごしらえの守備隊ではあったが、不在の間にアルティメーネルが仮にでも城壁を修復してくれたのと、ユミラが懸命に怪我人の手当てをしてくれたのが良かった。守備隊の射手は腕と目さえ動けばこなせる。ダシュワル公爵は逃がしたが、その攻撃部隊は完全に壊滅させることができた。


 敵を退けたのち、ラナはハキム帝に手紙を書いた。シャルワ城の領地の任命に関する書簡である。前の同じくムーニル公に領土をと書いたものの、返ってきた返事は、やはりラナをシャルワ城の領主として任命するという旨であった。
 ラナはその任命を受け入れた。この手でアジズを守ってやれるなら、女の手に余る荷を背負うのも悪くはない。


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