アマランタインに種実無し/04/02 Slashterpiece-2

「いったいこれは何なのか」
 その疑問は、数分前までは絵に向けられていた。
 だがいまや、その疑問は絵ではなく、その絵から出てきたものに移っていた。
「何、これ………?」


 Noire画廊に掛けられていた4つの絵には、何らかの血力によって防御反撃の機構が設置されていた。
 だがそのうちひとつだけ、切り付けても反撃してこない絵があった。
 題は、『ガインの罪Caine slays Abel』。反撃はしてこないその絵も、しかし血力が篭められているのを感じる。つまり、この絵は反撃をしてこないのではなく、何らかの条件が満たされているために反撃機構が作動しなかったのであろう。
 そう考えたAzaleaは、4つの絵を確認する。ほかの絵の題はそれぞれ、『カインの刻印 Caine is cursed by God』、『カインの出会い Caine meets Lilith』、『カインの拒絶 Caine spums Lilith』。

「旧約聖書……?」
 画廊の中央に戻ってきたAzaleaは、情報を分析してからぽつりと呟いた。
 カインは嫉妬でアベルを殺した。神はカインを追放し、呪いをかけた。カインは放浪の中でリリスに出会うが、最後にはリリスの誘惑を撥ね退ける。
 その順番の通りに絵を切りつけていくと、最初のときのような血の反撃はなかった。
 最後の一枚、『カインの拒絶』の絵に切り付ける直前、Azaleaは躊躇した。
「この血力の防衛機構は、いったいなぜ存在しているのだろう。Jeanetteの意図は何なのだろう」
 そんな疑問が渦巻いていたからだ。

 だが白刃の切っ先は止まらなかった。最後の絵が切り裂かれる。
 そして絵から出てきたのが、いまAzaleaの目の前に立っている何かであった。

 そう、何かが出てきたのだ

 それが何なのかは解らない。いままで見たことも無いような生き物だったからだ。だがそれを形容するのは簡単だった。
 人の形をした血の塊。
 ぎちぎちと不快な音を立てて佇むそれは、何処にあるのか判らない目でゆっくりと辺りを見回す。そしてAzaleaに目を留めるや否や、跳びかかってきたのだ。
 血溜まりの化け物、Blood Gurdianの手には、いつの間にか血で出来た鉤爪が生えていた。Azaleaはその切っ先をぎりぎりで避けたはずだった、が、伸びてきた爪で腕が切り裂かれる。


 Azaleaは距離を取り、Blood Gurdianを見据える。敵は身体を低く構え、いつでも跳びかかれる体勢だ。知性があるのだろう。切れ味の鋭い鉤爪は危険だ。
 だがそれよりも、Azaleaは脅威に覚えたことがある。
(傷が治らない………!?)
 裂傷程度なら、吸血鬼の血力で一瞬で治癒するはずなのだ。それなのに、Blood Gurdianによる傷は、まるで何かの血力が傷口に働いているかのように、なかなか塞がらない。

Tutorial: Damage
 ダメージには3種類存在する。
 Bashing: 鈍器による傷。
 Lethal: 刃物や銃による傷。
 Aggravated: 日光や血力による傷。
 ダメージはそれぞれのFeatsによって軽減される。
 この中でAggravatedのダメージは、体力バー上で黄色で表され、ほかのダメージと比べて治癒するために2倍の時間がかかる。

「"Purge”」
 跳びかかってきたBlood Gurdianに向けて、Azaleaは内臓を揺さぶる血力を放つ。人間が喰らえば、血を吐き出して身動きが取れなくなるくらいの強烈な血力だ。

 だがBlood GurdianはAzaleaの血力を、微風でも受けるように弾いた。
(効いてない………)

Tutorial: Supernatural Creature
 一部の超自然的な存在、たとえば吸血鬼だとか、いまAzaleaが面しているBlood Gurdianだとかに対しては、一部のDisciplinesの効果が非常に薄くなる。


 ならば頼れるのは、物理的な力のみだ。
 Azaleaは血塗れの身体を奮い立たせて、右手に.38口径、左手に血弾を構えた。

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