1245年3月24日
2日目
臥竜、風魔忍びと対決すること

  • 名 黒川十兵衛
  • 性 大柄な男
  • 力量 2
  • 属性
    • 体力15, 敏捷7, 知性6, 魅力6
  • 技能
    • 【体力】 鋼の肉体1, 強打2, 強投1, 弓術5
    • 【敏捷】 武器熟練0, 盾防御0, アスレチック1, 乗馬1, 馬上弓術1, 略奪2
    • 【知性】 訓練0, 追跡術0, 戦略0, 経路探索1, 観測術0, 荷物管理0, 治療0, 手術0, 応急手当0, 技術者0
    • 【魅力】 仏門4, 芸能0, 統率力0, 取引0
  • 熟練度
    • 弓105, 投擲74, 長柄武器60
  • 具足 陣笠, 足軽胴, 脚絆
  • 武装 数打ち物の菊池槍, 五郎入道, 半弓, 大袋入りの雁股矢
  • 馬 重い荷馬
  • 敗北数 0

 相州(現在の神奈川県)、小田原城
 関東平定を進めつつある北条の居城の広間に、物々しい表情の男たちが集まっていた。軍議である。


「では上杉武田今川の連合に対抗するために意見があるものはあるか」
 という問いに対しては、様々な回答があった。
「ここは和睦の使者を送るべきかと」
「否、否、徹底抗戦だ。上杉武田は敵同士で、その絆も脆いもの。北条の敵ではござらん」
「何を馬鹿な。たとえ上杉武田が敵でなくとも、東海一の弓取りと謳われた今川義元率いる軍隊は強固。戦うには時期尚早というものであろう」
「馬鹿はおぬしであろう。所詮は公家公方。恐れるに足らず」
 そうしたやり取りは留まることを知らず、殆ど子どもの口喧嘩である。

 そんな中、手を挙げながら居立するものがあった。
「あー、よろしいかな」
 身の丈が人並み外れて高い、隻眼の偉丈夫である。
「拙者に兵を500ほど与えてくだされば、上杉武田今川であろうと、その首を殿の前にお持ちいたしましょう」
 偉丈夫は朗々とよく通る声で言った。

 何を馬鹿なことを、と偉丈夫に野次を飛ばそうとしていた周囲の将たちは、その男の名前が思いつかないことに気付いた。というより、見たことのない男だ。いや、見覚えが全く無いわけではない。どこかで見た覚えがあるのだが、しかし思い出せない。それがこの場に集った者たちの思いであった。
「見ぬ顔だな」
 と北条氏康は重々しい声で応じた。氏康、このとき31歳。しかし強大な北条を纏めるこの男の顔には深い皺が刻まれ、年齢よりも歳を上に見せていた。
「名は、黒川十兵衛」
 と隻眼の男が名乗る。
 そしてまた場がざわつく。聞き覚えの無い名だからだ。

 唯一、異なる反応をしたのは北条氏康のみであった。
先日の江戸城での御前試合で優勝した男か」


 、と声をあげたのは遠山綱景という男である。彼は江戸城の領主であり、黒川十兵衛の御前試合に立ち会った男なのだ。彼自身、初めてそれを思い出した。


 周囲の男たちが声をあげる中、黒川十兵衛はにやにやと笑った。
「これはこれは、さすが相模の獅子と称せられる北条氏康どのですな。さすがはほかの有象無象とは違います」
「で、江戸城の御前試合の優勝者が、なぜいまこの小田原城に居る?」
「いやなに、拙者、北条どのに武士として取り立てていただきたいと思っておりますれば御前試合に出場したのですが、結局氏康どのには会えなんだ。だから」と黒川十兵衛はにやにやした表情を崩さずに言う。「忍び込ませていただき申した」
「忍び込むだと? 馬鹿な!」
 と周りに居た者の口から叫びが漏れる。堅牢な小田原城、外部の者は容易に入れない。そう言いたいのであろう。

「拙者、甲賀の者でありますれば」
 と黒川十兵衛はにやりと言い放つ。
鈎の陣の甲賀五十三家か」と北条氏康は落ち着いた表情のままで応じる。
「そんな話もありましたなぁ」
 十兵衛は背中に手をやり、木の棒を取り出す。と、見る間にその棒は形状を変え、長弓になった。弦もいつの間にか張られている。
「では忍びの神速の弓術をご照覧あれ!


 そんなふうに景気良く啖呵を吐いたのも、既に数日前のこと。
「まったく、あの女……、手加減というものを知らん」
 ぶつぶつと手酌で酒を注ぐ黒川十兵衛の背に、自慢の弓は無い。
 その理由は、小田原城で、当主の北条氏康の眼前で弓を抜いた数日前に遡る必要がある。

 弓を抜いた十兵衛の前に現れた者があった。天井から突如として現れた、黒衣の装束に身を包んだ人物が数人
音に聞こえた風魔組ですな。北条に付き従う犬の如きさま、忍びとしてお見事」
 と十兵衛は笑う。

 風魔組。甲賀者である十兵衛と同じく、忍び集団である。頭首は、確か風魔小太郎という男だったか。
 北条の影に付き従う忍び集団の存在は知っていた。
 近江の六角氏にとってはほとんど雇われの甲賀忍びとは違い、風魔忍びは北条氏に重宝されていると聞く。
 だからこそ、十兵衛は北条に目をつけたのだ。

 風魔組が出てくることは予想の上であった。というよりも、彼らを引きずり出すことが目的だったというべきか。
 北条に頼られている風魔組をひとりでねじ伏せ、圧倒する。北条は風魔組に見切りをつけ、黒川十兵衛を重用するようになる。
 それが十兵衛の目論見であった。
 それは半ばまで成功した。最初に現れた3人の風魔忍びの足を、十兵衛は一瞬で射抜いた。
 だが4人目が良くなかった。

(女だった)
 甲賀卍谷に残してきた女、雪によく似た女だった。
 それだけだ。ほかには何も理由はない。ただ、知っている女に似ているというだけで十兵衛は狼狽えた。

「弓がこうなってしまってはなぁ」
 と、現在の己の立場に目を向け、黒川十兵衛は己の弓を見た。仕掛けつきで、収納された状態から瞬時に組みあがる、十兵衛手製の逸品であるが、それもかつての話。風魔の女忍びに切られたせいで、ばらばらになってしまった。

 忍びにもいろいろいるが、共通するのは何かに特化しているということだ。
 十兵衛の場合は弓で、その技術は通常の武者のそれとは大きく異なる。狙撃に曲撃ち、早撃ち、なんでもござれだ。
 達人たるもの道具は選ばない、と言いたいところだが、精度を高めるためにも弓は重要だ。ひとまずは半弓で代用するにしても、少し心許なくはある。

「やれやれ、あの女……、人が手加減してやっているというのに」
 十兵衛は酒を注ぎながら、溜め息を吐く。
 女風魔忍びに弓を切られた十兵衛は、小田原城から江戸城まで逃げた。その旅籠で己を慰めている最中である。

 もともと、無謀な賭けではあった
 伊賀卍谷を抜けて、一。もっと簡単に士官できるものと思っていたが、道は険しかった。どんなに実力があっても、十兵衛が武士として登用されることはない。理由は簡単で、忍びとはそういうものだからだ。武士とはそういうものだからだ。
 近江の六角氏も同じだったな、と十兵衛は思い出す。彼らは十兵衛ら、伊賀卍谷の住人がいかに戦場で功を立てようとも、それを労うということはなく、ろくろく報酬も出さなかった。鈎の陣の伝説などというのは、例外中の例外だ。

 だから、同じ忍びの風魔を抱え込む北条に目をつけたわけだが、それが失敗してしまった。
(はて、どうするかなぁ……)
 酒を注ぎながら考え込んでいると、ぬっと浅黒い手が横から突き出てきて、注がれる酒を受け止めた。
 手の方向をじろりと睨むと、隣に座っていたのは足軽姿の男である。ありがたい、ありがたい、などと言いながら、勝手に酒をあおった。


「それはおれの酒だ」
 という十兵衛の言葉に対し、足軽胴の男は酒をきちんと飲み干したあとで、「いやぁ、失敬失敬。武士にとって酒は命のようなものでな」などと言った。

 見たところ、足軽。だが武士を名乗るその物言いに、十兵衛はひきつけられた。

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