Seeds of Bullet


 まず最初に太陽へ行ってみました。しかし太陽は住むには適しておりませんでした。次に月へ行ってみました。が、月もまた、住処としてはよくありませんでした。そこでこんどは地球へ降りてみました。そこは一面、水で被われていました。霊たちは空中を漂いながら北へ、東へ、南へ、西へと、行ってみましたが、どこにも陸地は見当たりませんでした。とても残念に思いました。
 その時です。突如として海の真ん中に大きな岩が姿を現しました。そして、それが巨大な炎と化し、あたりの水は見る間に蒸発して雲となり、空を漂いました。やがて陸地が現れ、そこに草や木が繁りました。
(オマハ族の言い伝え 『レッドマンのこころ』アーネスト・シートン著 p122-123 より)



 かつてその場所は、Vault 113と呼ばれていた。

 Vault 113では、他のVaultと同じように、Vault-TECのためのある実験計画が遂行されていた。その名は、Great Mother計画GM計画と呼称されるそれは、Vaultのあらゆる物事をGreat Motherと呼ばれるマザー・コンピュータに決定させるという計画であった。

 他のVaultにも、Overseerという絶対的な存在はいた。これは戦前にとある監獄において実験された、人間の権力に対する服従する性質を実際に行使するものであり、Vaultの実験を円滑に行うために設定された。
 しかしVault 113に限っては他のVaultと少し異なっており、GMそのものが実験の目的であった。すなわち、人間以外の存在に権力を与えられた場合、従属する立場になった人間はどのように行動するか、である。
 Vault 113のマザー・コンピュータ、GMには、Overseerとしての個性と、実験を達成させるための使命感、そして実験の目的が与えられた。人間をVault-Tecのために導くべし。Vault-Tecの実験を達成すべし。

 Vault 113に入居した人間たちの生活は、当初の予想よりも遥かに円滑に進んだ。GMは人間たちの生活がより良くなるように尽力し、居住者たちはそんなGMを神と崇めた。
 だがあるとき、そうした生活は一変した。地震によって、戦前調査では発見できていなかった空洞がVault 113と繋がり、空洞から高濃度の放射能が漏れ出た。
 住人はすべて死亡した。ただ、GMを残して。


 GMは考えた。己に与えられた使命は、Vaultの人間をVault-Tecのために導くことだ。だが、その人間が存在しない。
 人間をゼロから作り出すことは容易ではないし、死亡した人間たちを生き返すこともまた不可能に近い。知識と技術を総動員して精細胞からクローンを生み出すための装置を作成したが、それが完成する頃には死体は腐りきってしまっていた。
 GMは己の使命を達成するため、ひとつの行為に出た。Vault 113に空いた穴を掘り進み始めたのだ。
 中に人間がいないなら、外から調達すればよい。そうした結論から出た行為であった。

 だがGMが行き当ったのは、外の空気ではなく、硬いVaultの壁であった。己がいたVaultとはまた別のVaultである。
 だがどこであろうと、GMにとって重要だったのは、そこに人間がいるかどうかであった。

 GMがその別のVault、Vault 121に穴を空けたことで、高濃度の放射能を含んだ空気が流れ込み、大部分のVaultの住人がまたしても死亡した。
 だが一部の住人は放射能に汚染ながらもぎりぎりにところで生きており、GMは実験継続に必要な人材を得ることができた。


 だがGMの前に、新たな問題が立ち塞がった。
 それはVault 121の実験内容であった。Vault 121でも、Vault 113と同様に実験を行っており、その内容は、「人間のみによる生活」であった。
 Vault 121では人間以外のあらゆる動物、植物、大腸菌のような人間の体内に生息するものを除けば、バクテリアに至るまでを取り除いた空間を作り出していた。食事はすべて合成されたものであったが、他のVaultを知らないVault 121の住人たちは、特にその状況を不思議には思っていなかった。
 それが、Vault 113のGMによって破られた。

「さて、どうするべきか」
 GMは考える。確保したVault 113の住民が死にかけであることは大きな問題ではない。なぜなら、GMが制作したクローン製造装置によって、死にかけの住人から精細胞を取り出せば、複製ができるからだ。
 問題なのは、作り出した個体がすぐに死んでしまうということである。
 未だVault 113と121は高濃度の放射能に汚染されたままだった。まずは除染を行わなければならないのだが、その手法は限られている。
 遺伝子改造を施した生物を使う方法は、GMの知識の中にあった。それは放射能を食して体内でコーティングし、耐えられない量まで放射能を取り込んだのちにはコーティングを保ったまま死亡し、土に還る微生物もしくは植物の製造であった。
 が、それを実行するには素材、つまり遺伝子改造を行う対象となる生物が必要だ。しかしVault 113ではそれを許可していない。人間以外の生物は存在しないのだ。GMは、Vaultの計画に反するわけにはいかない。

 GMは考え、すぐに結論に辿りついた。
 人間を使えば良いのだ。
 GMは早速行動を開始した。死にかけの住人から取り出した精細胞に遺伝子改造を施し、Vaultに放った。個体は放射能を吸収し、すぐに死んだ。死んだら次の個体を作った。
 そのうち、効率を上げるために、ひとつの個体を長時間活動させるために、さらなる改造を施した。それは高密度放射能帯などの危険な場所の近くに接近すると、自動でさまざまな刺激に強くなる状態に移行する改造であった。これには戦前の技術が使われた。


 改造個体の複製と死亡は何度も何度も繰り返された。
 Vaultは狂気で支配されていた。Vault 101から男が訪れるまで。

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