Vault 87は酷い有様だった。死体と肉片とがそこらじゅうに放置され、動くものはRadroachかSuper Mutantばかりだ。


 RitaはCapital WastelandでRaiderに襲われても飄然とした顔をしていられるほどの銃の腕前ではあるが、Vaultのような狭い通路が続く場所では彼女の銃の腕はそこまで役には立たない。扉を開けた途端にSuper Mutantが襲ってくることなどがあり、だからできる限りLynnが矢面に立って戦う。室内でも変身できるようになったのは幸いだった。


 が、なぜかそうした状況になると、Ritaはいい顔をしない。
 まさか、常に彼女の壁になるように戦っているLynnのことを心配してくれるのか、と期待したが、違った。
「おまえ、上から目線な口の利き方すんなよ。年上なのかもしんないけど」
 などと言ってくるのだから、どうやらLynnがRitaを守ってやっていたのが気に食わないらしい。対抗意識というやつだろうか。年齢はあまり関係ないような気がするが。
「いちおう、身体は19歳になったばかりって話だったけど」
「は?」とRitaは大きな瞳を真ん丸にする。「なに、おまえ、同い年なの?」
「誰と?」
「わたしと」
「Ritaって19歳なの?」
「もっと年上に見えるか」
 むしろ、小柄で顔つきが幼いので年下に見える、などとは言わないでやった。

「言っとくけど、わたしはもうすぐ誕生日だから、おまえより年上になるからな」
 などと言って、Ritaは誕生日を教えてくれた。
「じゃあそのときは、なんかあげるよ」
「いらん……。と、別れ道か」
 足を止め、道を確認する。道は前方と左方に続いているが、どちらの道もすぐに折れているため、どれくらい続いているかは確認できない。
「真っ直ぐか、左に折れるか、だな。とりあえずいままで通り、左手沿いに行くか」
 そうRitaが呟いて足を踏み出した瞬間、Lynnは彼女の肩を掴んでいた。


「Rita、行くな。この先は、放射能汚染が酷い」
「でも……、Pip-Boyは殆ど反応してないぞ」Ritaは目を細め、Lynnを観察するように頭から爪先まで眺めまわした。「おまえ……、ほんとに、大丈夫か?」
「何が?」
「身体は、大丈夫なのか?」

Rad = 808 (Deadly Rad Poison)

 Power Armor越しでこちらの顔は見えていないはずなのに、Ritaは鋭い。いや、Lynnが鈍っているだけなのかもしれない。身体の不調を隠しきれていないことを自覚できないほど。
 もう長くない。時間が無い。早く、G.E.C.K.を見つけ、RitaをCitadelに送り返さなくては。

 RitaにはReflex Power Armorのおかげでいつでも変身できるようになったと説明したが、実際は単に汚染の症状が深刻化しているだけのことだ。Lynnの変身機能は、身体が脅威に曝されているときの防御機構だ。いまやどんな場所にいても、身体が命の危機を告げるようになったということだ。
 変身がコントロールできなくなり、身体はぐちゃぐちゃだ。人間の形を保っているだけ儲けものかもしれない。
 そのぐちゃぐちゃの身体が、左は汚染が酷いということを察知している。機械よりも精密な感覚で。

「Lynn……!」



 Ritaの表情が驚愕に歪んだ一瞬で、Lynnは己の背後に迫っていたものを察知した。振り返り、殴り飛ばしたのはSuper Mutant。



 3体いた。すべて殴り殺す。
 動くものがいなくなったところで、Lynnは倒れた。




 素顔を曝したLynnの顔は、酷いものだった。鼻と口から血を流し、顔色は真っ青だ。
「Lynn……、Lynn!」
 起きろ、と何度も叫んでも、Lynnは目を開けない。心臓は動いているのだから、まだ死んではいない。だが、放射能汚染が酷い段階まで来ている。
 Power Armorを含めた彼の重量は120kgを容易に超えるだろう。脱がせなければ運べないが、Power Armorというものは、ふつうの服のように容易に脱がせられるものではない。Helmetを外すのが限界だ。
 もしPower Armorを脱がせられたとしても、Ritaより頭一つぶん以上大柄なLynnを運ぶのは困難だ。どうにかして、彼に目覚めてもらわなくては。
 だから叫ぶ。Super Mutantを呼び寄せるかもしれないという危険を冒してでも。
「Lynn! Lynn!」



『そこに誰かいるのか!?』
 答えたのはLynnではなく、スピーカー越しの音声。しわがれていて、どこかSuper Mutantを思わせる声であった。

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