頭に銃を押し当て、引き金を引く。至近距離からの銃弾は、硬い緑色の肌を砕き、血を撒き散らす。皮膚は緑色でも、Super Mutantの血は緑だ。人間と同じ。人間だったから。


 動く者のいなくなった部屋を横断し、大仰な端末に近づく。Ritaはコンピュータには詳しくはないが、操作は簡単だ。火災報知機を作動させればいいだけなのだから。
 掌ごと叩き付けるように端末を操作すると、火災報知機が鳴り響き、ランプが赤く通路を照らす。
 これで、大丈夫なはずだ。これで、G.E.C.K.が見つかるはずだ。これで、Lynnが助かるはずだ。

 Ritaの行った操作は、ひとりのSuper Mutantを逃がすためのものだった。スピーカー越しに話しかけてきたSuper Mutant、彼はFawkesと名乗り、FEVウィルスによる失敗作、つまりSuper Mutantの出来損ないであると語った。


『それよりは、超人、っていう言い方のほうが好きなんだけどね』
 などと言ってみせるのだから、人間相応の理性は残っているといえよう。
 彼はRitaの目的がG.E.C.K.であることを知ると、「自分なら取ってこれるような場所にある」と言いだした。
GECKがあるのは汚染エリアだ。こことは比べ物にならないほどの、ね。だがわたしのような超人なら、放射能には抵抗がある』
 だからここは助け合いといこうじゃないか、とFawkesは提案してきた。
 Ritaがこの区域の火災報知機を作動させれば、Fawkesは外に出られる。代わりにFawkesはGECKを取ってくる。
「取り引きだな」
『助け合いだって』
 と、そんなやり取りがあったが、呼称などなんだって構わなかった。Ritaは奥の管制用端末へと向かい、そして言われた通りの操作を行ったのだ。

 Ritaは駆けて、Lynnを残してきたFawkesの部屋の前へと戻る。その途中で、ぬぅと出てきた男の存在に驚いて足を止めた。髭面の男で、どうやらFawkesと同じく、閉じ込められていた実験体らしい。しかし彼とは違い、人間の姿を保っている。
「あんた……」
 大丈夫か、と声をかけようとしたRitaへと向けて、男は銃を構えた。Super Mutantが落としたものだ。


 怯えている?
 狂っている?
 男の行動がどんな理由から生じたものなのかわからず、Ritaの身体は一瞬硬直した。反応しようとホルスターに手を伸ばしたときには、既に男の指は引き金にかかっていた。
 Ritaは見た。銃口から発せられるマズルフラッシュを。
 Ritaは聞いた。遠い声を。

「Rita!」

 飛び込んできた黒い影は、もはや変身をしておらず、黒い短い頭髪が見えていた。


 変身していないLynnがPower Armorで銃弾を受け止め、そして男に目がけて拳を向けた。男は壁まで吹っ飛び、動かなくなった。


 Lynnも倒れ、また動かなくなる。元気になったわけではない。顔色は未だ酷い。一瞬、動いただけだ。死力を尽くして。

「Fawkes! Fawkes! 出られたなら、助けて!」
 Ritaは声を振り絞って叫ぶ。遅れてやってきたFawkesは、すぐに状況を理解したらしかった。Power Armorごと、Lynnの身体を担ぐ。
「Fawkes、GECKの話は、またあとでもいい? いまはできる限り早く外に出たい」
「ああ……、確かにそれが良さそうだな」
 頷いて出口へと進もうとしたとき、「駄目だ」と弱々しい声が聞こえた。Lynnだった。
「Rita、GECKを取りに行くんだ」
「おまえ、その身体で……」
「行くんだ。いま、行くんだ」
 Fawkesの動きが止まったのは、Lynnが担がれながらも天井を掴み、動かぬようにしているせいらしかった。変身していないはずなのに、未だこんなふうにSuper Mutantと競う馬鹿力があるとは、驚異的だ。
「でも……」
「行くんだ」
「Rita。わたしは細かい事情は知らないが」とFawkesが口を挟む。「この調子だと、こいつの……、Lynnとか言ったか? Lynnの言うとおりにしたほうが、たぶん早い。GECKを取りに行くのには、そう時間はかからない」
 そう説得されれば、Ritaも首を縦に振る以外にはなかった。


 Vault 87を奥へと進み、汚染エリアの手前でFawkesと別れる。Ritaは汚染エリアの手前の部屋で、殆ど真っ白な顔色のLynnとともに待った。
「Rita……、さっきの話の、続きなんだけど……」
 Lynnが薄く目を開いて言葉を発したので、Ritaはほっとした。まだ生きている。生きているなら、Citadelまで戻ればどうにかなるはずだ。彼の身体については、ある程度研究されたのだから。
「さっきの?」とRitaは応えてやる。
「誕生日、何が欲しい?」
 Ritaはこんな状況だというのに噴き出しかけてしまった。さっきの、とは、年齢や誕生日の会話のことか。そんなことを考えていたのか。この状況で。自分の命も危ういというのに。
「なんでもいいよ」
「なんでも……」Lynnはぽつりぽつり、ゆっくりと言葉を紡ぐ。「おれはあまり物を持っていないから、贈れるものを贈るよ」
「うん」
 Ritaが頷くのを見て、ふぅ、とLynnは溜め息を吐く。「いま、おれのバイクを呼んでる……、たぶんもう完成しただろうから」
「呼んでるって?」
「BOSに新しいバイクを作ってもらったんだ……。おれの意志で、近くに呼び出せるやつ。たぶん、もう完成したはずだから……、急に目の前にバイクが現れても、吃驚しないでね
「ああ、わかった。わかったよ。だからもう、大人しくしてろ」


 Fawkesが銀色のトランクを抱えて戻って来たので、話が中断された。
「これがGECKだ。悪いがあんたが持っていてくれ。こいつは重いんでな」
 とFawkesはRitaへとトランクを渡し、再度意識を失ったLynnを抱える。

Added: G.E.C.K.

「Fawkes、もっと速く走れる?」
「走れないでもないが……、どうして?」
「こいつだけ先にVaultの外へ出してあげたいの。一刻も早く。わたしはトランク抱えてたら、あんまり速く走れないから……、だから先に安全なところまで出ていてくれるか? 可能なら、外で手当てをしてやってくれ」
 Fawkesはしばらく思案気な表情をしていたが、「わかった」と頷いてくれた。
「気をつけろよ。わたしみたいなSuper Mutantばかりじゃない。じゃあ、先に行ってる」
 と言うや否や、Fawkesは短距離走の選手のようなスピードで走り出し、すぐに見えなくなった。やはりSuper Mutantの身体能力は違う。

 RitaはGECKのトランクを引き摺り、Fawkesの跡を追おうとする。
 目の前が爆発したように白くなったのは、その直後だった。


「任務完了」
「ご苦労だった。GECKはVertibirdへと運べ」
「了解」


 突然に現れたEnclaveの兵士たちと、Autmun大佐と呼ばれた男のそんなやり取りを聞きながら、Ritaは意識を失う刹那、ここにいるはずのありえない黒い影を見た。



 厭な予感がした。
 ただそれだけだった。それだけの理由で、いやに親切なSuper Mutant、Fawkesを反転させることはできず、Lynnはやむなく彼を気絶させ、そして戻ってきた。Ritaのところへ。
 そして、厭な予感が正しかったことを知った。

 小さな部屋の中、倒れているRitaに群がる数人のEnclaveの兵士たちと、Jefferson記念館で死んだはずのAutmunという男。状況は明らか。彼らは別の道を通ってここまでやってきたらしい。GECKを求めて。

「殺せ」
 おそらく、Autmuはそう言ったのだろう。もはや耳は聞こえなくなっていたが、口の動きでそれが解った。
 構える。
 変身できないのは、もはや身体がそれだけのエネルギーを有していないからだろう。死にかけなのだ。身体が動くだけでも不思議だった。
 だがそれだけでは、彼女を守れない。

「変………」

 呼吸を整える。
 いまこの一瞬だけでいい。

「身ッ………!」


 おれはこの子を守りたい。

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