Who Dares Wins

(頭痛い……)
 手で頭に触れてみれば、どうやら額が割れているらしかった。

 良かった、と息を吐く。周囲の状況を見れば、出血程度で済んだのは幸いだ。Adams空軍基地の管制室の窓は割れ、端末は砕け、壁は焼け焦げていた。Enclaveの移動要塞の入り口を開けた直後、ミサイルを食らったのだ。

 アクセスを感知したから、というわけではなく、単に侵入者の存在を燻りだすためのものだったのだろう。管制室を直に狙われたのではなかった。あるいは狙いが逸れたのか。兎に角、直撃ではなかった。ミサイルが直撃していたら、Ritaは跡形もなくなっていたはずだ。


 手当てをして休む余裕など無く、止血だけしてRitaは移動要塞へと向かう。迫りくるEnclaveやその生物兵器を倒し、障害を潜り抜け、前へと進む。

(わたし、何やっているんだろう………)
 Vault 101からCapital Wastelandへ出て以来、前へ進んでいくばかりだった。閉塞していたVaultとは真逆。前へ、前へ。
 そんなふうに生きたいと思っていたわけではなかった。
 外の人間は言う。Vaultとは、なんと不自由な場所なのだろうと。
 だがRitaは、Vaultで良かった。父がいて、友がいるVaultが居心地が良かった。


 Vaultが駄目で、Wastelandが良いなんていうのは、Wastelandに住む人間の価値観だ。それを否定するつもりはない。ただ、Ritaは干渉されたくはないというだけだ。

(帰ったら………)
 ゆっくり過ごそう。Vaultに居たときと同じように。父はもう死んでしまって、友はおらず、新しい友もまた、死んでしまったけれど、ゆっくりと、脚を止めて。


 警戒が厳しくなってきた移動要塞の中、RitaはStealth Boyで身を隠しながら進み、中枢の端末に辿りついた。衛星攻撃の目標をこの移動要塞に設定し、急いで脱出する。
 しかし途中でStealth Boyの効果が切れ、撃たれた。Ritaは足を引き摺りながら、逃げた。もはや地上に出口は無い。ただ、上へ、上へ。理由は無かった。
 屋上まで逃げると、星空だった。いつの間にか夜が更けていたのだ。Ritaはそこで倒れて、天上の星々を眺めた。疲れた。もう夜だ。だから存在できるのは星々だけか、でなければ闇だけ。


 だから闇を切り裂いて現れたのは、闇色のVertibirdだった。
「Rita、乗って!」
 女の声に急かされて、RitaはVertibirdに飛び乗る。そのまま移動要塞を離れ、隣のビルの上に着陸する。ほぼ同時に、移動要塞にミサイルが降り注いだ。


「Sarah……、起きたんだね」
 VertibirdでRitaを迎えに来たのは、ひと月以上意識を取り戻さなかったSarahだった。既に体力が戻ったらしく、Power Armorを着込んでいる。
「おかげさまで」とSarahはにっこり笑った。「Rita、この地獄みたいな任務を、たったひとりでやり遂げたのね」
「そういうことになったっぽい」
「BOSを辞めるって、本当?」
「そもそもBOSになりたい、なんて言ってないからな」
「そう………」
 Sarahは明らかに気落ちして見えたが、いまさらRitaは撤回するつもりはなかった。
「でも、いつでも遊びに来られるものね」
 とSarahが言ってくれたのが嬉しかった。


 Vertibirdで途中、バイクを回収してからCitadelへと戻る。Elder LyonsやRothchildと会話を交わし、もう一度Sarahに別れを告げ、荷物を回収してバイクに乗り、エンジンをかける。
「また……、ひとりか」
 そう呟いたとき、犬の鳴き声がした。Citadelから駆けてきたのは立て耳の犬、Dogmeatであった。
「ごめんごめん、Dogmeat。忘れてたよ。ひとりじゃないよね。あなたがいるもんね」
 犬を飼っていたLynnはもういない。だから代わりに、Megatonの家を引き継ぐことになったRitaが飼ってやらなければいけない。
 犬の頭を撫でてから、RitaはRothchildに改めてつけてもらったサイドカーの荷物を背負い、Dogmeatのために空けてやった。

(あれから一年、か………)
 Vault 101を出て行ってから、短いような、長いような一年だった。さまざまな体験をし、多くを失い、犬と家を得た。
 明日はRitaの20歳の誕生日だ。もっとも、誕生日のことなど、Vault101を出てCapital Wastelandを冒険するようになってからは一度しか喋っていない。だから、誰も祝ってはくれないだろう。
 そう思っていたRitaだったが、Megatonの自宅に戻れば、玄関のドアノブに袋が3つ、釣り下がっていた。巻かれたリボンから、誕生日のプレゼントなのだと推測がついた。


「これは……、Butchか」
 袋からまず出てきたのは、革ジャンだった。背中に金刺繍の蛇があしらわれているからには、Tonnel Snakeのものだとわかる。

「これは……、Amataか?」
 次に出てきたのは得体の知れない瓶が複数個で、何に使うものなのかと思えば、添付されたメモ書きによれば、化粧品らしい。

「あとは………」
 最後に出てきたのは、角笛を吹く小さな人形。ココペリの、人形。

 それを見た瞬間、Ritaは瞳から涙が零れ落ちるのを堪え切れなかった。
 思えば不思議だった。Jefferson記念館での戦いののち、Ritaは浄化装置のタンクの一部を切り離すために、汚染された制御室に入った。そしてそこで気を失った。Sarahも意識を失っており、逃げられなかった。
 にも関わらず、Elder Lyonsによれば、Ritaと制御室の外で倒れていたのだという。

(あのとき………)
 Ritaは意識を失う刹那、黒い影を見たような気がする。
(あれは………、Lynnだった)
 あいつは生きているのだ。そう思えば、涙が溢れて止まらなかった。嬉しかった。Dogmeatが不思議そうに近づいてきて、Ritaの涙を舐めとった。


 Pip-Boyがアラームで日を跨いだことを告げてきた。今日も新しい一日が始まった。少なくとも去年よりは、良い誕生日になりそうだ。

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