龍のいない国/02 When Freedom Calls -3
自由記念館の中の異常者たち――Raiderというらしい――は入ってきたLonを見るなり襲いかかってきたが、拾ったShort Laser Musketと、なにより犬の存在が大いに役に立った。彼は勇敢であり、聡明だった。
だから彼の名前が判明したのは嬉しいことだった。――それがあまり好ましくない名前だったとしても。
「おやまぁ、Dogmeat、あんたがこの方をここまで導いてくれたのかい」
犬をそんな名前で呼んだのは、青を基調とした民族衣装を纏った老女だった。Museum of Freedomのバルコニー近くの部屋にいた、Mama Murphyという女性だ。
「この子はあなたの犬なんですか?」
「いや、DogmeatはDogmeatだ。そう呼ばれていたというだけさ。この子の自由な魂を束縛することは誰にもできない。あんたにもね。だがこの子はあんたを友として選んだみたいだ。
あなた、お名前は?」
「Lonといいます」
「そうかい。Lonさん、あんたも何か事情があって協力することになったんでしょう。だがね、あの男はあなたが手助けをする代わりにあなたのことを手助けすると言った。あのMinutemanは約束を守る男だよ。安心しなさい」
Mama Murphyが指したのはPreston Garveyを名乗るカウボーイハットの男で、彼は己をこの地方――CommonwealthのMinuteman(民兵)であると説明した。
「ま、それもおれが最後だがな」
とGarveyはMuseum of Freedomのバルコニー部屋まで辿り着いたLonに対し、そんなふうに自嘲的に笑ってみせたものだものだ。
GarveyやMama Murphyら5人――一か月前には20人居た集団だが――はRaiderという異常者たちの襲撃を受け、ここで立ち往生をすることになってしまったのだという。
そこで立て籠もり、襲撃をかわしていたのだが、もう限界で、そんなときにLonが現れた。しかもこのMuseum of Freedomの階下で見つけたFusion Coreというバッテリーを携えて。
「となれば、あとはPower Armorを動かすだけさ」
とSturgesという技術者然とした男は言った。
「Power Armor?」
「戦前の遺産さ。T-45 Power Armorだ。軍用の」
Raider撃退のための作戦は単純なものだ。LonがMuseum of Freedomの屋上にあるPower Armorなるものを着てRaiderを撃退する、というだけ。
Power Armorというものは戦前の軍用パワードスーツらしいが、一般的な専業主婦であるLonには残念ながらその知識はなかった。しかしSturges曰く、動かすのに知識は要らないらしい。
「一回着てしまえば簡単さ。あとはMinigunでRaiderどもに地獄への切符を寄越してやるだけさ」
Garveyはこれまで通りバルコニーからRaiderたちを威嚇し続けなければならず、他の者たちは戦える状態がないので、Lonはうってつけの人材だったというわけだ。
バルコニー部屋で装備を整えたLonは、すぐに屋上へと向かった。Shaunの手がかりをGarveyたちが持っているかもしれないと思えば、時間を無駄にしたくはなかった。
Power Armorなるパワードスーツは魚の開きのような状態で屋上の目立つところに置いてあったため、すぐにそれとわかった。
Garveyたちが切望していた、Fusion Coreというバッテリーを背中に差し込み、それからPower Armorに身体を滑り込ませる。すると自動的にPower Armorが起動し始め、背中部分が閉まった。一瞬暗くなり、LonはVault 111の冷凍睡眠装置を思い出した。
『合衆国陸軍Michael曹長による個人ログ』
と同時に声が聞こえてきた。何かと思えば、Power Armorの電源が入ったことでログが記録され始めたらしい。
おそらくPower Armorの傍に突き刺さっていたヘリコプターを連結したような、Vertibirdとかいう飛行機械がこの屋上に突き刺さったとき、つまり戦前の記録だろう。
『West Stockbridgeへ向かう途中の10月23日土曜日にVertibirdがこの博物館屋上に不時着。核爆発に伴う電磁波障害が原因とみられるが、どうやら世界規模で異変が起きているらしい』
Vertibirdという飛行機の端に取り付けられていたMinigunを掴み取り、試しに引き金を引いてみる。撃てた。思いのほか引き金が軽いが、たぶんPower Armorの作用なのだろう。
幸い、LonはMichael曹長の仲間たちのように墜落死しなくて済んだ。
Power Armorがまるで猫のように自動的に空中で姿勢制御し、脚から着地させた。衝撃も殆ど感じなかった。
「こんなところかな」
LonはMinigunの引き金から指を離した。目に付く範囲のRaiderは掃討し、周辺には四肢が千切れた死体が転がっているばかりだ。動くものといえば地面くらいなもので、いや、不思議なことに地面が揺れていた。
そしてLonは、T字路の奥からその姿が見えたことで、地面の揺れの正体がわかった。
(牛――!?)
いや、ギリシャ神話の半牛半人の怪物、ミノタウロスだろうか。
双角を持つその巨大な化け物はPower Armorを着たLonを一撃で吹っ飛ばした。Power Armorの姿勢制御によって着地し、すぐさまLonはMinigunの引き金を絞った。が、5mm弾は怪物の皮膚を貫くには足りなかった。
Lonは狙いを変え、化け物の近くの車を撃った。車のエンジンに引火し、大爆発を引き起こされる。
「これで――」
だから彼の名前が判明したのは嬉しいことだった。――それがあまり好ましくない名前だったとしても。
「おやまぁ、Dogmeat、あんたがこの方をここまで導いてくれたのかい」
犬をそんな名前で呼んだのは、青を基調とした民族衣装を纏った老女だった。Museum of Freedomのバルコニー近くの部屋にいた、Mama Murphyという女性だ。
「この子はあなたの犬なんですか?」
「いや、DogmeatはDogmeatだ。そう呼ばれていたというだけさ。この子の自由な魂を束縛することは誰にもできない。あんたにもね。だがこの子はあんたを友として選んだみたいだ。
あなた、お名前は?」
「Lonといいます」
「そうかい。Lonさん、あんたも何か事情があって協力することになったんでしょう。だがね、あの男はあなたが手助けをする代わりにあなたのことを手助けすると言った。あのMinutemanは約束を守る男だよ。安心しなさい」
Mama Murphyが指したのはPreston Garveyを名乗るカウボーイハットの男で、彼は己をこの地方――CommonwealthのMinuteman(民兵)であると説明した。
「ま、それもおれが最後だがな」
とGarveyはMuseum of Freedomのバルコニー部屋まで辿り着いたLonに対し、そんなふうに自嘲的に笑ってみせたものだものだ。
GarveyやMama Murphyら5人――一か月前には20人居た集団だが――はRaiderという異常者たちの襲撃を受け、ここで立ち往生をすることになってしまったのだという。
そこで立て籠もり、襲撃をかわしていたのだが、もう限界で、そんなときにLonが現れた。しかもこのMuseum of Freedomの階下で見つけたFusion Coreというバッテリーを携えて。
ADDED: Fusion Core
「となれば、あとはPower Armorを動かすだけさ」
とSturgesという技術者然とした男は言った。
「Power Armor?」
「戦前の遺産さ。T-45 Power Armorだ。軍用の」
Raider撃退のための作戦は単純なものだ。LonがMuseum of Freedomの屋上にあるPower Armorなるものを着てRaiderを撃退する、というだけ。
Power Armorというものは戦前の軍用パワードスーツらしいが、一般的な専業主婦であるLonには残念ながらその知識はなかった。しかしSturges曰く、動かすのに知識は要らないらしい。
「一回着てしまえば簡単さ。あとはMinigunでRaiderどもに地獄への切符を寄越してやるだけさ」
Garveyはこれまで通りバルコニーからRaiderたちを威嚇し続けなければならず、他の者たちは戦える状態がないので、Lonはうってつけの人材だったというわけだ。
ADDED: Robco Fun(Holotape Game)
ADDED: Perception Bobblehead (PER+1)
バルコニー部屋で装備を整えたLonは、すぐに屋上へと向かった。Shaunの手がかりをGarveyたちが持っているかもしれないと思えば、時間を無駄にしたくはなかった。
Power Armorなるパワードスーツは魚の開きのような状態で屋上の目立つところに置いてあったため、すぐにそれとわかった。
Garveyたちが切望していた、Fusion Coreというバッテリーを背中に差し込み、それからPower Armorに身体を滑り込ませる。すると自動的にPower Armorが起動し始め、背中部分が閉まった。一瞬暗くなり、LonはVault 111の冷凍睡眠装置を思い出した。
ADDED: T-45 Helmet
ADDED: T-45 Left Arm
ADDED: T-45 Left Leg
ADDED: T-45 Right Arm
ADDED: T-45 Right Leg
ADDED: T-45 Torso
と同時に声が聞こえてきた。何かと思えば、Power Armorの電源が入ったことでログが記録され始めたらしい。
おそらくPower Armorの傍に突き刺さっていたヘリコプターを連結したような、Vertibirdとかいう飛行機械がこの屋上に突き刺さったとき、つまり戦前の記録だろう。
『West Stockbridgeへ向かう途中の10月23日土曜日にVertibirdがこの博物館屋上に不時着。核爆発に伴う電磁波障害が原因とみられるが、どうやら世界規模で異変が起きているらしい』
Vertibirdという飛行機の端に取り付けられていたMinigunを掴み取り、試しに引き金を引いてみる。撃てた。思いのほか引き金が軽いが、たぶんPower Armorの作用なのだろう。
ADDED: Minigun
(うーむ、これは凄いな)
LonはPower Armorの中で唸った。防御は完璧で、Minigunの引き金を引けば簡単に人が引き千切られていく。これがあれば、Shaunの捜索や誘拐犯の殺害は容易なものになるだろう。
そんなふうに楽観的に構えながら引き金を引いていたら、脚を滑らせて屋上から落ちた。
『副操縦士は不時着時の衝撃で死亡。主操縦士も後日死亡した。FlahertyとKanawaも何者かに撃たれて死亡した。Proznanskiは行方不明。このままだとぼくも同じようになるだろう。Power ArmorのFusion Coreは焼失してしまった。ああ、神よ——』幸い、LonはMichael曹長の仲間たちのように墜落死しなくて済んだ。
Power Armorがまるで猫のように自動的に空中で姿勢制御し、脚から着地させた。衝撃も殆ど感じなかった。
「こんなところかな」
LonはMinigunの引き金から指を離した。目に付く範囲のRaiderは掃討し、周辺には四肢が千切れた死体が転がっているばかりだ。動くものといえば地面くらいなもので、いや、不思議なことに地面が揺れていた。
そしてLonは、T字路の奥からその姿が見えたことで、地面の揺れの正体がわかった。
(牛――!?)
いや、ギリシャ神話の半牛半人の怪物、ミノタウロスだろうか。
双角を持つその巨大な化け物はPower Armorを着たLonを一撃で吹っ飛ばした。Power Armorの姿勢制御によって着地し、すぐさまLonはMinigunの引き金を絞った。が、5mm弾は怪物の皮膚を貫くには足りなかった。
Lonは狙いを変え、化け物の近くの車を撃った。車のエンジンに引火し、大爆発を引き起こされる。
「これで――」
「おぉ……、Hariti」
Raiderが掃討された地上をバルコニーから見降ろしているとそんな震え声が聞こえてきたので、Garveyは舌打ちをした。Mama Murphyの婆さん、数分前に会話をした相手の名前のことを間違えちまうなんて、呆けちまったのかな、と。
いや、問題はそこではない。Lonという名の素性不明の女がDeathcrowに馬乗りにされているということだ。いくらPower Armorを着ているとはいっても、あれでは数秒ともたないだろう。Short Laser Musketで支援はしているのだが、Deathcrow相手では通用しない。
「Haritiか。なるほど」
と納得したように頷いたのはSturgesで、おいおいおまえまで呆けたのか、まだ若いだろうに、とGarveyは思った。
「いや、Haritiっていうのは鬼子母神のことだよ」とSturgesは言った。
「鬼子母神? なんだそりゃ。そんなことより、もっと強力な武器を――」
「アジアの神さまさ。人間を喰らい、己の子どもを探し求めているんだ。武器は必要ないみたいだよ」
「神さん? 化けもんだろ。それより、武器は必要ないって、いったいどういう――」
問う必要は無かった。地上ではDeathcrowに馬乗りになられて死を待つばかりのはずだったLonが、鰐のような大顎を引き千切っていた。
いや、問題はそこではない。Lonという名の素性不明の女がDeathcrowに馬乗りにされているということだ。いくらPower Armorを着ているとはいっても、あれでは数秒ともたないだろう。Short Laser Musketで支援はしているのだが、Deathcrow相手では通用しない。
「Haritiか。なるほど」
と納得したように頷いたのはSturgesで、おいおいおまえまで呆けたのか、まだ若いだろうに、とGarveyは思った。
「いや、Haritiっていうのは鬼子母神のことだよ」とSturgesは言った。
「鬼子母神? なんだそりゃ。そんなことより、もっと強力な武器を――」
「アジアの神さまさ。人間を喰らい、己の子どもを探し求めているんだ。武器は必要ないみたいだよ」
「神さん? 化けもんだろ。それより、武器は必要ないって、いったいどういう――」
問う必要は無かった。地上ではDeathcrowに馬乗りになられて死を待つばかりのはずだったLonが、鰐のような大顎を引き千切っていた。
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