愛にすべてを


 はじめ彼らは《大翼神像 セゴナ・レムリアス》を巡って争っていたはずだった。
 だがその争いはあっさりと終焉を迎える。愛の力によって。

10-016C《聖知の治癒法術》
「セレネカにクロルト、愛する人の命を救ってくれた礼は言わぬ……だが、代わりに命じるがいい! 俺の剣と力は、この借りを返すまでは貴様らのものだ!」
~破戒騎士 ゼスタール~

 事件が起きたのは炎の小世界、聖炎山の試練を突破するときのことだ。
 《魔血の破戒騎士 ゼスタール》は《ヴァナ・ズーの大吐息》に晒された。苛烈なる吐息はそのままなら彼の全身を焼き尽くしていたことだろう。だがゼスタムの一員――あるいはそれ以上の関係の――《魔戦技の異端姫 シェネ》は彼を庇い、障壁呪文によってその被害を退けようとした。それは確かに成功した。己が魂を犠牲にして。

9-065U《ヴァナ・ズーの大吐息》
「ゼスタール様……お守りします!」
「シェネ、やめるのだ! その障壁呪文は、お前の魂までも削り取るぞ……!」
~炎の試練の間にて~

 そうして死にかけていた《魔戦技の異端姫 シェネ》を救ったのは、誰でもない、敵勢力の《聖求の勇者 セレネカ》と《聖知の護光官 クロルト》であった。
 もとはといえば、《魔血の破戒騎士 ゼスタール》を動かしていたのはティルダナに対する対抗心と野心であった。だが前者が砕かれ、後者よりも大事なものを自覚したとき、《大翼神像 セゴナ・レムリアス》を巡る争いは一つの終わりを見た。

 こうしてすべては平和に終結した――わけがない。
 そもそもがといえば、《大翼神像 セゴナ・レムリアス》の存在を示唆した少女、《神告の秘使者 エルニィ》はいずれ現れる敵の存在を示唆しており、その敵を退けるためにとセゴナの遺産を必要としていたのだから。
 彼女が予期していた敵は、待つまでもなくその存在を主張し始めた。何処からともなく生じた闇の力により精霊力をすべて浪費させられ、レムリアナはあっけなく終焉を迎えるところだった。

10-017R《セゴナの奇跡》
偉大なる翼神像が、邪悪な力を受けて崩れ落ちたとき……ついに最後の奇跡が呼び起こされた。
(ハンドブックより)

 世界を守ったのは《大翼神像 セゴナ・レムリアス》であった。砕け散ると同時に内包していた精霊力を開放し、闇の力の収縮に成功する。
 が、すべての脅威が去ったわけではないのは明らかだ。

10-015U《神流星の兆し》
その大彗星は、同時に大いなる兆しでもあった……数百年ぶりに、天砂翼の聖宮が彼の地に降臨することの。

 《聖求の勇者 セレネカ》と《魔血の破戒騎士 ゼスタール》は休む暇もないままに、この世界の創造者であり、外敵の存在を予期して《大翼神像 セゴナ・レムリアス》を残したセゴナの、その第一使途である《天砂の大翼 ゼルバル》のもとへと向かう。彼は数世紀ぶりに、己の所在である《天砂翼の聖宮 オルダ・ナゼル》を顕現させていた。

10-020U《光と闇の接見》
闇は光に愛しい者の命を救われ、光は闇により真実の敵に対抗する力を得た今……二つの意志は天砂翼の聖宮で一つになった。

《天砂の大翼 ゼルバル》のもとで《聖魔の仲介人 ベルヤミン》の仲介を受け、ここにメルアンとゼスタムの争いはここに完全なる終結を迎えた。


たったひとつの冴えたやり方


 ふたつの勢力が力を合わせ、これで外敵に対する対抗策を得た、と思ったのも束の間のことである。世界は未だ危機に瀕していた。

 メルアンとゼスタムの和解から時を同じくして――場所はヘインドラに移る。もっとも場所が何処であろうと、それが起きる影響は変わりがないのだが。

10-081R《アルゴーの天落魔計》
「この天空世界はしょせん、セゴナの積み木細工よ。あんなものはまだ、崩壊の序曲に過ぎぬ。」
~堕魂術の大魔謀 アルゴー~

 この世界――レムリアナでは精霊力によって、無数の巨大構造物が宙を浮いている。だが外敵がその精霊力を自在に操れるのであれば、そうした構造物を落下させたり衝突させたりするのは容易いことだ。まさしく外敵はそれを実行し始めた。
 二度目の世界の危機であった。そして一度目に世界を救ったセゴナの《大翼神像 セゴナ・レムリアス》は既に自壊してしまった。だから次にその危機を止めるのは、神ではなく人の力でなくてはいけない。

 ――レムリアナの何処からでも見えるほどに巨大な魔法陣が天宙を覆い尽くした。

10-103R《極凍静止結界》
「正直、ヴィクトー様があんなに必死の形相で力を振り絞っているのは、初めて見たわ。」
~凍矢の魔法射手 ミストナ~

 古典からしてそうであるように、世界が危機に瀕したときにそれを解決するためのたったひとつの冴えたやり方は誰かが犠牲になることと決まっている。《厳冬将 ヴィクトー》がそう考えたのかはわからないが、彼の尽力により《アルゴーの天落魔計》による構造物の落下は一先ず抑えることができた。だがこの解決策は仮初めのものに過ぎない。《厳冬将 ヴィクトー》の力はいつまでもつものかわからないのだから、早急に事態を解決する必要があった。

 《乾坤一擲 ヤクシュ》らアズルファの《幻視火の炎術道士》たちは、かつて《神炎宰相 ユウファ》の存在を予知した《火易の神竜盤》を用い、真の巨悪、レムリアナを破壊し尽くさんとする外敵の存在を占い始める。

10-064U《火易の神竜盤》
「当たるも八卦、当たらぬも八卦……もっとも今は一世一代、ここ一番の大勝負! 災いの根の在り処、読み当てないわけにはいかないが!」
~乾坤一擲 ヤクシュ~

 彼らが突き止めた名は《堕魂術の大魔謀 アルゴー》。そして彼の居場所は《聖求の勇者 セレネカ》たちが訪れた小世界のさらなる深層部、闇の小世界であった。


火刑台上のジャンヌ・ダルク


 ヘインドラが稼いでいる時間でアズルファが外敵の正体を突き止めた今、もはや躊躇する余裕も尻込みしている暇もなかった。闇の小世界を支配下に置いた侵入者、《堕魂術の大魔謀 アルゴー》を排除しなければならない。

10-037R《三大守護者の加護》
そして、ゼルバルの加護を得た勇者たちの頼みを受け、光と闇の小世界への道はついに開かれた……炎と氷と大地の三大守護者たちによって。

《天砂の大翼 ゼルバル》は完全に敵の領域となってしまった闇の小世界ではなく、妹であるネレオザが守護しており、未だ《堕魂術の大魔謀 アルゴー》に抗っているはずの光の小世界から進攻を始めることを選択した。
 だが《異界森の守護精 アデルタ》、《聖炎山の守護龍 ヴァナ・ズー》、《氷魔界の守護王 ガスタルフ》の手を借りて、メルアンやゼスタムらとともに光の小世界へと突入した《天砂の大翼 ゼルバル》が目にしたのは、《堕魂術の大魔謀 アルゴー》の堕魂術によって堕天した愛妹の姿であった。

10-008S《堕魂の守護天使 ネレオザ》
「ああネレオザ、白き小世界を守るわが妹よ! 私には分かる……堕魂の術に心を囚われながらも、その魂は救済を求めているのだと!」
~天砂の大翼 ゼルバル~


ヴァルハラ五四〇の扉開く


 《堕魂の守護天使 ネレオザ》を退けてなお危機は続く。

10-087U《魔重力の結界》
堕ちた魂を巨大な魔重力で凝り固まらせた防壁……アルゴーが潜むその結界を破ることは、誰にもできなかった。ただ一人を除いては。

 《堕魂術の大魔謀 アルゴー》は堕魂術を用い、闇の小世界へと至る扉を《魔重力の結界》によって封印してしまっていた。セゴナの第一使徒とはいえ、《天砂の大翼 ゼルバル》は強大な力を持つ天使に過ぎない。彼の力を持ってしても、魂による重結界は破れず、ただひたすらに時間が過ぎていく。如何に《厳冬将 ヴィクトー》らヘインドラの人々が《極凍静止結界》によって《アルゴーの天落魔計》を食い止めているとはいえ、その余裕も残り僅か。このままでは時間切れで何もかもが崩壊してしまう。

 この結界を破るためには、神の力が必要だ。だが神の残滓である《大翼神像 セゴナ・レムリアス》が崩壊した今となっては、神の力を宿すものはもはや——たったひとつしか存在していなかった。

10-038C《森羅光の秘矢》
誰も破れなかった結界術の魔力源を打ち砕いたのは、メギオンの神木の弓と、白き小世界の光の矢による一撃だった。

 《木こりの達人》がメギオンの神木から削り出して作った弓によって《森羅の闘女王 メグニ》が撃ち放った矢は、光の小世界の力を受けたものだった。《魔重力の結界》が崩壊し、闇の小世界への扉が開かれる。

 闇の小世界で待ち受けるは、《堕魂術の大魔謀 アルゴー》と堕魂術を受けた《堕魂の守護屍鬼 ガデ・ギィ》。対するはレムリアナ。

10-085U《キカの鼓舞》
「さあみんな! 堕魂術とやらがレーテの闇の力に勝てるかどうか……あのアルゴーとかいうクソ野郎に、思い知らせてやろうじゃないか!」
~恐冥の戦導姫 キカ~

 今や全勢力が伝説の浮き島に、精霊島から通じる小世界に集結していた。メルアンが、ゼスタムが、戦導姫が、商人が、熊が、天使が、召喚英雄が、慟哭城の主が、イルカが、王が、大守護者が、レムリアナに住まうすべての人々が己らが住む世界を護るために剣を握り、槍を携え、旗を振っていた。レムリアナの異変というクロノグリフの頁の最後の行が綴られようとしていた。


ダイダロスとイカロス


 アルゴー。その名(Algo)はゴール(Goal)のアナグラムだ。天空編の行き着く先であり、最後の敵だ。
 だが《堕魂術の大魔謀 アルゴー》は彼が本当に最後の敵なのではなく、彼の背後に糸を引く存在がいることを示唆していた。

10-084C《破滅呼びの堕魂術》
「また一つ、歴史の一行、魂の光点が闇に塗り替えられる……あの方も、きっとお喜びになられるだろう。」
~堕魂術の大魔謀 アルゴー~

 天空編は終わり、次回からは陽光編が始まるわけだが、陽光編のあらましの断片についてはハンドブックの座談会に掲載されており、その内容を見る限りでは、天空編との直接的な繋がりは見られない。これについてはハンドブックに詳しいので参照されたい。

 この節では、陽光編以降で明かされるかもしれない天空編での伏線について述べたい。
 まず上で述べた《堕魂術の大魔謀 アルゴー》の言う「あの方」であるが、彼がレムリアナを破壊し尽くそうとしていたことから考えれば、他世界の存在であることは間違いないだろう。
 他世界からの侵略者というと、アトランティカで登場した《滅史の災魂 ゴズ・オム》やそれに使役された災害獣が挙げられる。《滅史の災魂 ゴズ・オム》は彼の地でクロノグリフの覇者となりながらも力を求め過ぎたあまりに他世界へまで進出した存在の成れ果てだ。彼のように、クロノグリフに一定の影響力を持つ存在が陽光編では登場するかもしれない。

 クロノグリフに影響するといえば、以前に《炎皇后 スウ・ア》が天空編のラスボスなのではないか、と予想したことがある。単にアズルファで響宴の限りを尽くしたりだとか、《紫炎帝 リクゴウ》に取り入るだけではなく、《炎皇后 スウ・ア》は文字の支配をしようとしていた。

8-070C《紫天園の焚書炉》
「あら、この本のこの文字、美しくないわね……燃やしてしまいなさいな!」 
~炎皇后 スウ・ア~

 文字——テキストの記述に干渉するといえば《滅史の災魂 ゴズ・オム》である。彼はクロノグリフに干渉し、《黒岩熊》などの新生物を作り出していた。その《炎皇后 スウ・ア》もクロノグリフの干渉者であり、レムリアナに到来する災害であると予想したのだが、全く違っていた。陽光編以降で彼女が焚書した本に何が記載されていたのかが判明することはないだろう。

 そういうわけで、《堕魂術の大魔謀 アルゴー》を除いて唯一、天空編から陽光編に直接影響してきそうな存在といえば、《神告の秘使者 エルニィ》くらいなものだろう。《異邦からの訪れ》としてレムリアナに現れた彼女の正体やその経歴は未だ謎に包まれたままである。天を突破し、陽光に近づく次編へと続く。


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