来てください/00/01

プロローグ


高速探査艇ノルン・セカンド・ナンバーツーは突如としてコントロールを失い、慣性のままに飛行を始めた。

数年前、世界で始めて明確に人工的なものであると判別される電波を、太陽系外部でSETI(地球外知的生命体探査)を行っている人工遊星がキャッチした。一つの人工遊星が受け取ったという報告をしたのであれば故障という解釈もできたであろうが、地球から北極星の方向に飛び立った遊星のすべてに同様の電波が観測されたのだった。地球外の知的生命体の存在は疑いの余地のないものとなった。

時間差はあるものの、安全であり、既に人工電波の受信範囲内にいる人工遊星を利用したSETIを続けようと思った地球人だったが、それは成功しなかった。人工電波を受信した人工遊星はすべてデータ送信をしなくなってしまったからだ。
送信不可になった理由は不明で、人工遊星が破壊されたのか、それとも送信機構が使用できなくなったのか、それともそれ以外の想像もつかない理由のためなのかもわからなかった。最後に送られてきた映像は何の変哲もない宇宙の映像だった。

地球人は決断し、人間を乗せた深宇宙探査艇を複数建造することになった。その探査艇は十数人から数人が乗る小型艇で、十年以上の航海にメンテナンスなしで耐える頑丈な代物になった。外側が堅くとも内側が脆くては意味がないということで、探査艇に乗るパイロットの育成も始められた。パイロットは長い航海に耐えうる若い人材が求められた。

ノルン・セカンド・ナンバーツーもそんな深宇宙高速探査艇の一つだった。一年半ほどの間パイロット五名全員を冷凍睡眠させたまま、最後に人工衛星が映像を送ってきた注意気まで到達し、地球時間でつい一週間ほど前に乗員を起こしたところであった。
異常事態を示すパイロットランプが船内で響き渡ったとき、ノルン・セカンド・ナンバーツーのキャプテンは幸いにもブリッジにいた。

『緊急事態です』

ブリッジにノルン・セカンドの艦載AI、ヴェルダンディの少年のような高い声が響く。
キャプテンはヴェルダンディの報告を待ったが、しかし何も続く言葉がない。足元が異様なほどに揺れていて、立っているのも辛い。
「どうしたの、ヴェルダンディ?」
言った途端に足元が揺れ、キャプテンは倒れてしまった。
「キャプテン」ブリッジに入ってきたのは珍しく焦った表情のドクターだった。「なにが起こった?」
キャプテンはドクターの差し出された腕に縋って立ち上がる。「わかりません。急に……」
『右舷エンジン破損』ヴェルダンディが告げる。『スタビライザーを修正するために一時的に演算能力を集中させたため、通信が途絶しました。申し訳ありません』
「立て直せる?」キャプテンはドクターから離れて尋ねる。
不明です。現在スタビライザーと中央、左舷エンジンを最大限に点火して転回を試みていますが、引力のほうが強い状態です』
「原因は?」
不明です。ですが近郊宙域に惑星が観測できます。その惑星に向かって引き摺られているようです。運行効率80パーセントまでダウン』
「惑星?」
「キャプテン、今は原因はどうでも良い」ドクターが言う。「船を立て直さないとどうにもならない」
ドクターの指摘に頷き、キャプテンは頷いた。「ヴェルダンディ、どうにかならない?」
『立て直しは不可能です。引力を振り切れません。現在迎え角を最適になるようしながら惑星大気圏内へ突入準備中ですが、現在の速度ですとブリッジの一部が破損することは免れません。摩擦は大きくなりますが、壊れた右舷側をシールドにして突入する方法もありますが、どうしますか?』
「エンジンが爆発するんじゃないの?」
『エンジン本体は生き残っているためその可能性はありますが、爆発の規模は問題になりません。もし右舷側をシールドとして用いた場合、ブリッジの被害を最小限に止めることが可能です。全体の被害は8パーセントほど上昇しますが、ブリッジの被害はほぼゼロに近くなります』
「駄目」キャプテンは首を振った。「エンジンが完全に壊れたら困る。離陸できない。このまま迎え角が最適になるように突入で」
『了解しました。船内に通告します。全員ブリッジから避難してください』

キャプテンはブリッジから出ようとドクターに促そうとし、彼が何か言いたそうな表情をしているのに気付いた。
しかしそれを気にかけている暇はない。キャプテンはブリッジを出た。続いてドクターも出てくる。できるだけ船の後方へ、後方へと走った。

■キャプテン
氏名 セシル・ルルー
性別 女性
年齢 23歳
経歴 大学卒業後、宇宙開発興業団に入社。短期間のSETIプログラムを経てSETIプログラムに選抜され、深宇宙探査艇ノルンシリーズの船長に任命される。5人という小型船ながら、船員を纏めるキャプテンではあるものの、年齢は5人の中で2番目に若い。


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