天国の前に/05/527日目 蠍、婚姻を果たすこと、ならびに恩讐の相手と再会すること

1458年09月24日
527日目
蠍、婚姻を果たすこと、ならびに恩讐の相手と再会すること

Name: Rana
Sex: Female
Level: 32
HP: 55
Attributes: STR12, AGI16, INT14, CHA24
Skills:
【STR】鋼の肉体4, 強打4, 豪投4
【AGI】武器熟練4, アスレチック5, 乗馬5, 略奪4
【INT】訓練5, 戦略6, 経路探索1, 観測術2, 荷物管理2, 治療2, 手術1, 応急手当て1, 技術者1
【CHA】説得3, 捕虜管理5, 統率力8
Proficiency: 長柄武器268, クロスボウ228, 投擲160
Equipment: 貴婦人の頭布, ブラス・マムルークアーマー, 壮麗なアワーグラスガントレット, 黒金のブーツ
Arms: 名匠の手による戦槌, ひび割れたアーバレスト, 鋼鉄のボルト, 投擲用戦斧
Horse: 重いサランのノーブルウォーホース
Companions: ユミラ, アルティメネール


 仲人として間を取り持ったゼブラ公に手を引かれ、ラナが階段を降りて来る。ハメザン公だの、ラッドウン公だのといったサラン朝の有力な貴族たちが祝福している。その夫人たちも。そしてハキム帝も、だろう。きっと、そうだ。


 アジズはラナの結婚式に同席しなかった是非来てくれと、そんなふうに言われはしたから、式場であるバルダク城には来た。だがそこまでだ。式場にまでは、踏み込めなかった。
 サランの何処までも広がる無限砂漠の中、アジズは熱気を含む風を感じていた。乾いた風が必死で水を奪っていっても、あとからあとから涙ばかりが溢れてきた。


「アジズ、こんな処でなにをやっているんですか?」
 誰も居ないと思ったからこそ泣くのに選んだバルダク城の屋上で、振り向けばラナが居た。純白のウェディングドレス姿で、想像していたあらゆる像よりも美しく見えた。
 そちらに行っても良いですか。そんなふうに言いながら、ラナは長いドレスの裾を掴んで、アジズの隣までやって来る。爪先から頭の天辺まで慣れぬ服装だからだろう、おっかなびっくりの歩き方である。


「ラナ、結婚式は………」
「もう終わりましたよ」どっこらせ、と彼女はアジズの隣に腰掛ける。「疲れちゃいました。慣れないことは、いけませんね」
「そう」
 アジズは続く言葉を見つけられなかった。今更何か言ったところで既に行われた結婚式を覆すことなどできないだろうし、なにより彼女の心には響かない気がした。
 だからしばらくの間、何処までも続くサランの砂漠を眺めていた。ふたりで。
 

 結婚式から数日経って、純白のウェディングを脱ぎ捨てたラナはまた戦場に戻った。未だロドック王国との戦争は続いている。
 ラナはサランマムルークや黒色槍騎兵からなる200の軍で、ロドック王国の槍隊を踏み潰した。長い槍が如何に騎兵に有利とはいえ、これだけの数の差の上では、まさに無用の長物だ。ラナの隊は、殆ど被害を出すことなく勝利した。



野戦
サラン朝 対 ロドック王国
サラン朝 204名
ラナ

ロドック王国 78名
フライチン女伯

結果 勝利

「久し振りだな、ラナ」
 と捕らえられた敵の将はふてぶてしい様子で言った。

 初めは、それが誰なのか気付かなかった。相手の将は、目の部分以外はほぼ完全に覆われた銀の鎧を身に着けていたからだ。だがその兜を外してみれば、それはよく見知った顔、フライチン女伯だ。戦う前は気付かなかった。村を襲おうとしていたロドックの軍に攻撃を仕掛けただけだ。


ラナが黙っていると、フライチン女伯はべらべらと言葉を紡いだ。
「結婚したそうだな。その後、どうだ? 相手の男はムーニル公か。望まない結婚だろう。え、聞かなくても解る。その顔を見ればな。生きていて、不満ばかりだな。簡単の使いもこなせないのに、不満ばかりは一人前だ。そうして、すぐに裏切る。おまえが性質が悪いのは、自分は弱い子羊だと思っているところだ。そうして、他人にもそう見せかけようとしている。だが実際は違う。蠍だ。すぐに相手を刺す。相手を殺すだけの毒も持っている。そうして、刺したらもう知らん振りだ。相手が悪かったのだ、自分は己の身を守っただけなのだ、というような顔をして」
「解放してあげてください」
 とラナはフライチン女伯を拘束していたアルティメネールに向かって言った。
「解放する? そうか、おまえはわたしを侮辱するつもりだな。全く、おまえの性格ときたら筋金入りだ」とフライチン女伯はラナの言葉にも、当たり前のような顔をしてそんなふうに返してきた。
「行ってください」
「まったく、信じられないような残酷な女だ。いい気になっているんだろう。え、以前の主人を見下すことができて。だが今からでも遅くない。わたしのところに戻って来い」


「早く行って! 消えて!」

 ラナは搾り出すように言葉を吐き出した。
「あなたと出会わなければ良かった」

 フライチン女伯との久し振りの再開は、ラナの心に大きなしこりを残した。
「そなた、フライチン女伯を捕まえたのにも関わらず、すぐに解放したそうだな」
 と自分の領地であるバリーエに戻ったときに、夫であるムーニル公に言われたときにはびくりと震えてしまった。


 アジズの言っていたことは嘘ではなかった。ムーニル公は先祖から伝わる城を持ってはいるものの、臆病で、いつも領地を見回るくらいのことしかしない。妻である
「いや、そなたの捕虜のことはそなたの自由だが………」
 と、ラナが睨み返せばそれだけで萎縮してしまうような男だ。
 だが良いところもある。ラナは少なくとも、そう信じている。

 フライチン女伯その戦闘からしばらく。日数はラナの心を少しずつ平穏に導いていった。
 そんな中でも、戦闘はあった。単なる防衛戦もあれば、自分から攻めていく状況もある。それが戦争だ。

 ヴェルカを攻撃すべし。そうした号令が元帥から発令されていた。
 ヴェルカから最も離れたバリーエに駐屯していたラナは、攻城部隊に合流するのが遅れた。ラナがロドック領に入った頃には、既に攻撃を諦めたサランの部隊が戻ってきていた。
「残念だが、今回のヴェルカ攻撃は見送りだ」
 と攻城戦に参加していたハメザン公に伝えられる。曰く、カーギットのほうでも不審な動きがあるため、あまり長くヴェルカにかかずらわってはいられないのだという。

「それでもヴェルカに行くの?」
 と問いかけてきたのは供について行軍するユミラであった。
「大軍が引き上げたあとっていうのは、守る側も手薄になっている可能性もあるから」とラナは答え。
 ヴェルカ攻めが苦労したのは、大軍で攻めたからだ。もちろん、戦争というのは大軍と大軍がぶつかり合うのがふつうだ。
 だが規模が大きくなれば行軍は遅れるものだし、それだけ警戒される。結果として、城攻めに時間がかかる。
 ラナの隊だけなら、敵に気取られることなく、街まで接近できる。そうすれば、相手の兵士を下手に増やすことなく戦える。


 果たして結果は、ラナの想像通りであった。

ヴェルカ攻城戦
サラン朝 対 ロドック王国
サラン朝 205名
ラナ

ロドック王国 103名
ガールマール卿
ヴェルカ守備隊

結果 勝利

 城を守るために残ったのは、ガールマール卿の部隊と、ほかの僅かな守備隊ばかり。多くの兵士たちがサランの本隊と衝突したあとで、疲弊していた。そこへラナの電撃的な攻撃があったのだから、ロドック王国の守備兵はひとたまりもなかった。
 優位な戦闘というのは嬉しいものだ。余計な血を流さなくて済む。ラナはヴェルカの執務室で、ハキム帝に向けて手紙を書いた。ヴェルカを領地として所有したい旨をしたためた手紙である。


『此度抑えましたヴェルカですが、夫の領地として頂ければありがたく存じます』
 と書いてから、署名をする。ラナが要求したのは己の領地としてではなく、夫であるムーニル公の領地としてであった。ラナは既にバリーエを有しており、ほかに村や城も持っている。でなくてもラナは、女だ。領地など、本来なら必要ないのだ。

 ヴェルカ近くで味方の軍が敵の部隊と戦闘を行っているという報告を聞いたのは、ハキム帝へ手紙を送ってから数日経った頃であった。戦闘状況は、数はほぼ互角か、サランの不利だという。救援に駆けつける必要がある。
「味方というのは?」
「テルログ卿です」
「敵は……、ロドックですか?」
「そうです。紋章は、白地に赤の線、二頭の獅子です」
 それはつい最近、見た覚えのある、そして幼い頃から慣れ親しんできた紋章であった。

 歩兵ばかりの軍隊の中に、唯一馬に騎乗する銀色の女騎士の姿を見たとき、ラナは動揺した。
 そしてラナは長槍を構えた歩兵の陣に突っ込み、馬はその槍を受けて串刺しになった。彼女は敵の歩兵隊の真っ只中に取り残された。


「大将、油断しすぎじゃあないですか?」
 騎乗からラナを担ぎ上げるようにして救ったのは、アルティメーネルだった。
 油断しているわけじゃあない。ああ、自分は動揺している。動揺しているのだ。
「降ろしてください」
 と歩兵たちから十分に離れたところまで来てからラナは言った。アルティメーネルは素直に応じて、ラナの身体を草原に下ろす。
 馬がなくても、関係がなかった。
 ラナは鍛え抜かれた戦槌を振るい、敵を薙ぎ倒した。心の靄を振り払うかのように。敵将には逃げられたものの、戦いには勝利した。



野戦
サラン朝 対 ロドック王国
サラン朝 194名
ラナ
テルログ卿

ベージャー王国 76名
フライチン女伯

結果 勝利

「助かったぞ」と全身を真っ黒な鎧で固めたテルログ卿は言った。声の質も言葉遣いも、まだ若い。「まぁ、あんたのせいでこんな苦労をするはめになったんだがな」
「わたしに何かご用ですか?」
 テルログ卿はその返答として、書簡を投げて寄越す。「ハキム帝からだ。あんたをヴェルカの統治者に任命するって書簡だ」
「わたしに?」ラナは仰天した。「夫ではなくて、わたしにヴェルカを………?」
「読んでみろ」
 テルログ卿に促されるままに、ラナは書簡を読んだ。書いてあった内容は大きく分けてふたつだった。
 ひとつはテルログ卿の言ったとおり、ヴェルカの統治をラナに任すという内容。戦線の近いヴェルカは戦火に遭い易く、ムーニル公には任せられないという内容。
 そしてもうひとつの内容は、こうだ。ヴェルカをくれてやる。ああ、くれてやる。戦略的に重要な都市をくれてやるのだから、アジズにこれ以上近づくな、と、そういことだった。ハキム帝はラナのことを、末息子を誘惑する淫売だと、そう思っているらしかった。


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